第12話 “オスマン風”について〜ロクム付き

文字数 1,192文字

珍しく作者からお茶請けの差し入れですよ。
ターキッシュ・デライト?どう見てもロクムだろ、こりゃ。
ロクムは澱粉を糖水で練ったものに、ナッツや香料を加えてから、固めてつくるお菓子です。今では英語圏でもポピュラーですよね…その名も“ターキッシュ・デライト”。もちもちした食感が美味しいです。チョコレートコーティングされているものもあります。
最初に話したコーヒーとかトウモロコシだけじゃなくて、このロクムみたいに、オスマン帝国の文化は、ヨーロッパで多方面に影響を与えた。“オスマン風”とでも言うのかな。(もぐもぐ)
今回はちょっとだけそんな話です。よく知られているのは音楽ですね。モーツァルトの『ソナタ第十一番“トルコ行進曲付き“』、ベートーベンの『アテネの廃墟の行進曲』、ハイドンの『交響曲第百番軍隊』などは、メフテルの音楽から着想を得ているそうで。
メフテルっていうのは、オスマン帝国軍の軍楽隊のこと。帝国軍はどこに遠征するのでも、メフテルと炊事班を連れていくんだ。勿論、ウィーン包囲にも。(もぐもぐ)
ヨーロッパ軍には当時、軍楽隊というものは無かったようですよ。また打楽器と管楽器がメインで構成される、今日のブラスバンドの原形であるとも考えられています。
…ところがなあ、現在残っているメフテル音楽の大部分は、十九世紀以降、帝国軍の“西洋化”が始まってからつくられたもので、それ以前から伝えられているものは少ないんだ。
楽曲の表記法が違いましたしね。師匠から弟子への口伝も多かったようですし。十八世紀のオスマン音楽を、欧式の音符に書き起こして貴重な資料を残したのは、かの著名なディミトリエ・カンテミエールで…
……(もぐもぐ)
…お茶どうぞ。あとは服装でしょうか。クシャックがサッシェとして取り入れられたことは話しましたが、“オスマン風”は一種のファッションスタイルでもありました。こちらはオスマン風衣装のバーデン=バーデン伯…
ルートヴィッヒ・ヴィルヘルム!『赤の王』が何してんだか。
まあまあ。確かにバーデン=バーデン伯とオイゲン・フォン・サヴォイエンは帝国の仇敵ですが、ある意味一番よく帝国を知っていたのかもしれませんよ。モーツァルトの歌劇に『後宮からの誘拐』というのがあるでしょう。
ああ、セリム太守だろ。番人のオスミンは典型的な小悪党だが、太守は因縁の相手を許したうえ、愛する女のために自由を与える。「偉大なる太守よ、万歳!」でフィナーレだ。
そうですね。つまりヨーロッパから帝国に対する感情も微妙だったということでしょう。確かに領土を脅かす存在で、暴力的で蒙昧なステレオタイプもありますが、一方で未知の文化や精神性への憧れがあるという。ジレンマというかツンデレ(?)というか。
うーん、まあ、いろんな文化が交流できる方が、面白いと思うがな。次回は…折角なのでプリンツ・オイゲンの話です、って本気なの…
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