第8話 マラ・ブランコビチ、帝都陥落の影で②

文字数 1,152文字

マラ・ハトゥンの父君は高名なセルビア公、ヴラド・ブランコビチですね。ハンガリーのフニャディ・ヤーノシュと結んで、ムラト二世と敵対しました。
フニャディ・ヤーノシュは今でこそハンガリーとルーマニアの英雄だ。この人物も面白くてな…またの機会に話したいが、今はマラについてだ。しかしキリスト教連合軍で攻勢をかけてもムラト二世に敗退し、ヴラド・ブランコビチ公は娘をハレムに差し出すことになった。
ムラト二世には当時寵姫がいたと言われます。サルタン・ハトゥン、イスフェンダル・ベイのご息女ですね。
イスフェンダル・ベイはアナトリア方面の有力者だからな、これも家同士の繋がりを強めるための輿入れだったんだが、ムラト二世はサルタン・ハトゥンを寵愛していた。そこに送られることになったのだから、どちらの女性にも気の毒だ。
マラ・ハトゥンが王の側にいた間、サルタン・ハトゥンは遠避けられて、ブルサに蟄居していたそうです。しかし数年で呼び戻された。代わりにマラ・ハトゥンは、王の寵を失っていくんですね…何があったんでしょうか。
想像を掻き立てられるが、この二人の女性はバックグラウンドが極めて政治的であることに注目だ。オスマンのハレムは、地方から集められた奴隷女性ばかりではないんだよ。有力者、領主、貴族の子女たちも少なからずいた。
そしてムラト二世が崩御されると、マラ・ハトゥンはセルビアへ送り戻されたのですね。そんな、ものみたいに…
あまつさえセルビア公は、帰ってきたマラをビザンツ皇帝と再婚させようとしたらしい。これは叶わなかった。実はマラの母(実母かどうかは不明)はカンタクゼノ家なんだ、ビザンツの名家なんだよ。
それもどこかで聞いたような…そしてセルビア公が亡くなられると、マラ・ハトゥンは、メフメト二世の元へ走ります。新王は彼女に領地と特別な地位を与えて、生活を保証しました。
なにせかつて父王の寵姫で、セルビア公の娘だ、でも手放せない、メフメト二世の心情はいかばかりか、だよなあ。
マラ・ハトゥンにしても、父親と東西の領主たちとムラト二世にずっと自由を奪われてきたなかで、もしかしたらメフメト二世だけが親しい存在だったのかもしれませんね。二人とも芸術を愛好していたみたいですし。
そしてこれからがマラの本領発揮だ。彼女はメフメト二世の政治を支えた。与えられた領地でサロンを開き、セルビア貴族たちを受け入れた。第二次オスマン・ヴェネツィア戦争の際には交渉役を担った。正教会の保護のため手を尽くしたとも言われている。
メフメト二世から、マラ・ハトゥンへ綴られた手紙
偉大なる征服王の治世は、彼女無しでは随分と変わったものになっていたかもしれないのですね。何を思いながら、敵であった王に尽くし、異国の地で生涯を終えることを選んだのでしょうか…
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