第21話 ペンは剣より強し② 晒せよインク

文字数 954文字

インクって大事だよな。歴史資料が後世に残るのは、インクが消えないでいてくれるおかげだ。
そうですね。記述内容が劣化・破損しないことは、経済活動においても重要です。契約や台帳管理は書面でなされるものですからね。
フズーリーの詩集(Divan):US public domain
インクにはそれまで大きく分けて二つの種類があった。アジア方面で使用されていた墨汁と、ヨーロッパ方面で使われていたブルーブラックインクだな。
墨汁は主に煤煙に膠を混ぜたもので、水溶性ですが、乾いた後は保ちの良いインクです。
ヨーロッパでも十一世紀頃までは墨タイプを使っていたらしいが、その後ブルーブラックインクが主流となった。別名没食子インクだ。硫酸鉄と没食子酸を混ぜてつくる。
没食子、虫こぶと呼ばれるものは、虫が草木に寄生することで、枝や葉がコブ状に変形したものです。タンニンを多く含みます。
抽出された没食子酸は還元力が強い。これで筆記すると、書かれた文字は次第に黒紫色に変化して紙にしっかりと付着する。濡れても溶解することはない。
ただブルーブラックインクは、長年経つと褪色して紙を劣化させ、破れやすくさせるんですよね。そのためグーテンベルクが印刷用に用いたのは、煤にテレビン油(松脂)を混ぜて粘度を高めたインクで、どちらかというと墨タイプに見えます。
それで、オスマン帝国はどちらを使っていたかというと、墨タイプだった。ランプの煤をアラビアゴムと他の薬品で練って使っていたらしい。
この墨のことを帝国ではミュレッケプといいます。墨壺はオッカです。
残念なことだが、帝国一般住民の識字率は高いとは言えなかった。一方で官僚・商工業者層が伸長し、彼らは文芸活動を好んだ。
オスマン文学の総体がどういうものだったかということは、ここでは語りきれませんが、回想録・日記、私的な手紙、詩も盛んに書かれました。現在まで残存したものは、貴重な史料になっています。
あー、後に見つかって、めっちゃ恥ずかしくなるやつとかね。アーシェク・チェレビーの、恋の詩とかね〜
ええ…まあその、文学的価値が高くても、本人にしてみたら絶叫もの、っていうのもあるんでしょうねえ…史料になっちゃうと分かりませんけどね。
次回はそんな文人たちが凝った書体の話、ができたらいいけど、ちょっとなあ…
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