第23話 名義貸し契約
文字数 1,474文字
■11月、重大月最終日
(うぅ、今月は殆ど契約を取る仕事はしていないよなぁ……)
加藤はかなりブルーになっていた。当然、本来のノルマは優にクリアしており、かつ一般的からみれば施策旅行等の条件(ノルマの2倍)は余裕でクリアしていたのではあるが、加藤に課せられた上からのノルマ(修S2億)には程遠い数字となっていた。
(今日は……契約になりそうな所は──ないか。じゃ、飛び込みでもするか……)
いつものように営業所を出ようとした時、営業部長から声がかかる。
「おい、加藤……ちょっと来い!」
(うわ……どうせ保険を詰めて来い! という事……ガミガミ言われるんだろうな……)
少々憂鬱な足取りで営業部長の前に座る。
「どうだ、調子は?」
「いえ……今月はかなり苦しくて、今日詰めれそうな所はないんです。だから飛び込みでもしようかと思いまして」
「そうか……まぁそういう月もあるよな」
「──え?」
かなり予想外の話にビックリする。というのは、通常月ならばまだしも、今は重大月であり、倒れるまでどんな事でもして成績をあげろ! と叱咤が当たり前の月だからである。
(なんだ? もしかして今までの成果を評価してくれている……のか?)
等と考えたりしたが、次の言葉で全く違うという事が判明する。
「ところで、加藤。お前、保険って入ってなかったよな?」
(うわぁ……自爆せい! という事……か?)
自爆。
一言でいえば自己契約の事である。自分で契約しても成績になるが為、成績が苦しい際に暗に自己契約せい! という事は、この当時は日常茶飯事に見られる光景であった。幸い加藤はそれなりに契約をとれてきたが為、自爆の誘いは受けた事がなかったが、人によっては自己の契約を1億以上かけている……なんてケースも存在した。
加藤にも意地があり、これを断固拒否をする構えを見せる。
「いえ! 保険に加入する時は俺自身の意志で入りますので! 成績だって自爆しなくちゃいけないくらい悪い数字だったとは思ってません!」
珍しく強気な加藤の口調に少々戸惑いを一瞬見せた営業部長だったが、すぐに余裕のある笑いを浮かべ、ゆっくり話し出した。
「いや、お前に自爆せいなんて言う筈ないだろ? ……実は、な。うちの営業所のノルマというものがあってな、後1億程足りないんだよ。まぁ今日詰まる数字もあるから、実質5000万くらい足りないと俺は踏んでいるんだ。で、この額ならどうにかしてノルマをクリアしておきたいと思っていて、な。お前がこの営業所で一番年齢が若いから、ちょっとお願いしようと思ってな」
いまいち話が分からなく、ポカーンとしている加藤ではあったが、営業部長は話を続ける。
「単刀直入にいうとな、お前の名前を貸してくれ。お前名義で5000万の保険作って、その保険料は内緒で支部経費から落とすから、さ。まぁ、お前はタダで保険に入れる訳だし、お前に不利な事は何もないんだよ。な、頼むよ!」
加藤の頭の中の危険信号がピカピカ光り、何かきな臭い匂いを感じ、断わろうとしたが、珍しく頭を下げる営業部長の頼みを無下にする訳にはいかず、二つ返事でOKの答えを出してしまった。
「おぉ……ありがとな。これでノルマが達成されたよ。お前も今日は予定入ってないんだろ? これからメシ食いにいくか!」
加藤はまるで保証人になったかの様な何ともいえない気分だったが、まぁ支部資金で落ちるなら問題はないか、という風に捉え、営業部長に連れられ少々リッチな昼食を食べにいった。
──この出来事が、今後悲劇を招く事になるとは、当時の加藤は……知る由もなかった。
(うぅ、今月は殆ど契約を取る仕事はしていないよなぁ……)
加藤はかなりブルーになっていた。当然、本来のノルマは優にクリアしており、かつ一般的からみれば施策旅行等の条件(ノルマの2倍)は余裕でクリアしていたのではあるが、加藤に課せられた上からのノルマ(修S2億)には程遠い数字となっていた。
(今日は……契約になりそうな所は──ないか。じゃ、飛び込みでもするか……)
いつものように営業所を出ようとした時、営業部長から声がかかる。
「おい、加藤……ちょっと来い!」
(うわ……どうせ保険を詰めて来い! という事……ガミガミ言われるんだろうな……)
少々憂鬱な足取りで営業部長の前に座る。
「どうだ、調子は?」
「いえ……今月はかなり苦しくて、今日詰めれそうな所はないんです。だから飛び込みでもしようかと思いまして」
「そうか……まぁそういう月もあるよな」
「──え?」
かなり予想外の話にビックリする。というのは、通常月ならばまだしも、今は重大月であり、倒れるまでどんな事でもして成績をあげろ! と叱咤が当たり前の月だからである。
(なんだ? もしかして今までの成果を評価してくれている……のか?)
等と考えたりしたが、次の言葉で全く違うという事が判明する。
「ところで、加藤。お前、保険って入ってなかったよな?」
(うわぁ……自爆せい! という事……か?)
自爆。
一言でいえば自己契約の事である。自分で契約しても成績になるが為、成績が苦しい際に暗に自己契約せい! という事は、この当時は日常茶飯事に見られる光景であった。幸い加藤はそれなりに契約をとれてきたが為、自爆の誘いは受けた事がなかったが、人によっては自己の契約を1億以上かけている……なんてケースも存在した。
加藤にも意地があり、これを断固拒否をする構えを見せる。
「いえ! 保険に加入する時は俺自身の意志で入りますので! 成績だって自爆しなくちゃいけないくらい悪い数字だったとは思ってません!」
珍しく強気な加藤の口調に少々戸惑いを一瞬見せた営業部長だったが、すぐに余裕のある笑いを浮かべ、ゆっくり話し出した。
「いや、お前に自爆せいなんて言う筈ないだろ? ……実は、な。うちの営業所のノルマというものがあってな、後1億程足りないんだよ。まぁ今日詰まる数字もあるから、実質5000万くらい足りないと俺は踏んでいるんだ。で、この額ならどうにかしてノルマをクリアしておきたいと思っていて、な。お前がこの営業所で一番年齢が若いから、ちょっとお願いしようと思ってな」
いまいち話が分からなく、ポカーンとしている加藤ではあったが、営業部長は話を続ける。
「単刀直入にいうとな、お前の名前を貸してくれ。お前名義で5000万の保険作って、その保険料は内緒で支部経費から落とすから、さ。まぁ、お前はタダで保険に入れる訳だし、お前に不利な事は何もないんだよ。な、頼むよ!」
加藤の頭の中の危険信号がピカピカ光り、何かきな臭い匂いを感じ、断わろうとしたが、珍しく頭を下げる営業部長の頼みを無下にする訳にはいかず、二つ返事でOKの答えを出してしまった。
「おぉ……ありがとな。これでノルマが達成されたよ。お前も今日は予定入ってないんだろ? これからメシ食いにいくか!」
加藤はまるで保証人になったかの様な何ともいえない気分だったが、まぁ支部資金で落ちるなら問題はないか、という風に捉え、営業部長に連れられ少々リッチな昼食を食べにいった。
──この出来事が、今後悲劇を招く事になるとは、当時の加藤は……知る由もなかった。