第22話 保険が役に立った時~その後~

文字数 1,484文字

※この話は前回の前田さん(高度保険金がおりた人)の続き、結末であり、物語と時系列がかなり異なります。


 数週間後。先日高度障害保険金が出て保険加入して頂いた前田さんの所へ挨拶に寄ってみた。

「こんにちは、加藤です。近くまで寄ったので挨拶に来ました」

「あらぁ、加藤君、どうも~。さ、どうぞ入ってよ」

 前回同様、やけに明るい対応に頭のどこかで違和感を覚える。 部屋に入ってみると、ダンボールが数点あるだけで、家具の殆どがなくなっている。明日にでも引越しするかの様である。

「あれ? 引越しでもされるのですか?」

「えぇ、こないだ損保の保険金も出たからマンション決めて来たのよ。3日後には引越しするのよ。ここも長い間住んでて愛着でもあるかなぁと思ったけど、新しい場所見たらもう一日も早くここを出たくてしょうがないわ。そうそう、代金、一括で払って来たのよ。ビックリしてたわ、営業の人。もう家具も買い揃えたから、古い家具は殆ど捨てちゃったわ」

「え……タンスとか冷蔵庫とか、全部買い揃えたんです?」

「えぇ! だって、新しい所にあわないもの。全部立派な家具で揃えたわよ」

「──え?」

 マンションの衝動買いまでは100歩譲っていいとして、家具を一新してしまう点あたりから少々違和感を感じていた。

(いくら保険金がかなり多く入ったからといって、ちょっとお金を遣い過ぎではないのか? このままいったら……すぐお金なくなってしまうのでは?)

「何かねぇ、これだけのお金があると、どれだけ遣っても残高が減らない気になるわw いやぁ、今が人生で一番楽しいわ、私」

 明らかに前田さんの「何か」が壊れた様に加藤は感じた。 その予感は──適中する事となる。

 その後の前田さんのお金を遣うスピードは尋常ではなかった。車の買い替え(国内中古車から外車の新車へ)、家具の一層(値段を聞くのが恐いくらいな、家具に関しては素人の自分ですらそう感じる家具がズラリと)。 家政婦を雇い、旦那さんの世話を任せ、毎日豪遊。 着る服もブランド品ばかりetc…

 まぁよくもここまでお金を遣えるなぁとある意味感心してしまう程の散財っぷり。 月に優に200万は遣っていたのではないだろうか。

 億を超す財産、実に3年ちょっとで底をついたと風の噂で聞く事になる。 人間とは不思議なもので、一度お金を沢山遣う生活をしてしまうと、中々元には戻らない様で。前田さん、いつ頃からか借金をして裕福な生活を維持しようとしていたとの事。

 ここで少々曖昧な表現をしているのは、前田さんが豪遊をするようになってからは中々会わなくなってしまっていたからである。(会わなくなった、というより相手にして貰えなくなったと言った方がいいか)

 多額のお金を手にした事で、前田さん自身の人格というか性格がガラっと変わってしまっていた。 なんていうか、ごう慢になったと表現したらいいのか。 以前は非常に謙虚な方で話していて気持ちのいい方だったのだが……

 保険金を受取って4年経過したくらいに、前田さんと数年ぶりに会う機会があり、話をした。なんと、借金が増えに増え、自己破産をするとの事。 その時に漏らした一言がまた印象的だった。

「こんな事なら保険金なんて受取らない方が良かったよ……」

 非常に、非常に皮肉な結末になった。
 本来遺族の幸せを維持するが為の保険が、結果的に人をさらに不幸にする事になるなんて……

 この出来事以降、加藤は保険金を受取ってお金遣いが荒くなる・ごう慢になる人とはその後の付き合いをする事をやめた。 人が自らの手によって堕ちていく姿、見たくはなかったので。
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