第18話

文字数 2,578文字

☆18



 昔、酷い目にも遭ったけどずっとひとつのことを続けて今も頑張っているからファンがたくさん出来ました、おわり〜! ……と、僕も思いたいし、モデルくんはきっとそういうことで大人気ミュージシャンになったんだよな。そういうことにして終わらせたい。
 でも、僕のこころは汚れてしまった。汚れた目で見てしまうのは何故か。その大きいふたつが、「枕的な営業って実際はイメージと少しだけ違うって話と、イベントなどの〈サクラ〉のバイトの話」なのである、僕の知るところでは。
 モデルくんとは直接関係ない(だろう)けど、その汚れた僕のハートを説明するのに、そのふたつを語ることが必要だ。


 〈枕営業〉と呼ばれるものが存在する。結局被害者になっちゃったひとを女性でも男性でも数人、親しかった知り合いにいてよく知っているので、これは都市伝説ではなく、〈本当にある〉ことだ。
 僕は枕営業について、具体的なことについてはずっと黙秘していた。被害に遭ったひとがかわいそうだな、と思っていたのだ。だが、世間一般のイメージする枕営業というのは、名前の通り、枕を持って営業しているようなイメージ、つまり、下世話な話をすると「一回寝るとひとつ仕事が回ってくる場合」のみだと思いがちだ。そういう例もあるからその理解で構わないのだけど、「権力者と一回寝るとしばらく、またはたまに、仕事を回してもらえる場合」というのが存在する。
 〈寝ないと仕事が来ない地獄〉だったら、僕だってその性行為を強要する人物を訴えもしたさ。でも、厄介なのがその「権力者と一回寝るとしばらく、またはたまに、仕事を回してもらえる場合」があり、仕事が来る状態から上手く〈軌道に乗った〉奴を糾弾する結果になった場合、僕はそいつの「仕事を奪った奴」と恨まれるものの、助けてくれてありがとうとは思われないだろう、ということだ。恨まれつつ友達を〈売る〉か? ただの僕の売名行為だと勘違いされるだけで、余計なお世話ってもんだろう。僕はそう思っていた。


 誰かが僕に「わたしだったら不正はすべて告発するけどな」と言っていたひとがいて、その志はずっと持ってそのひとには生きて欲しいと思うけど、例えば、だ。役者って「本当にそいつしか出来ない役である場合」って、〈当て書き〉という手法以外では、極端に「少ない」のではないか。また、当て書き自体も、下手に脚本家がやると逆に不正を疑われるのも付け加えよう。
 ちなみに〈当て書き〉とは、演劇や映画などで、その役を演じる俳優をあらかじめ決めておいてから脚本を書くことを指す。
 役者って「本当にそいつしか出来ない役である場合」って極端に「少ない」とは、つまり、誰を「選ぶ」か、ってときに、それは「正解がない」なかで「恣意的」に選ばれる、ということ。

 恣意的とは、辞書で引くとこうある。……恣意的とは、個人の意志や感情に基づいて行動する様子を表す言葉である。この言葉は、主観的な判断や自由な解釈が行われる状況を示す際に用いられる。恣意的な行動や判断は、一般的には法律や規則、公平性を無視したものとされ、社会的な評価は低い傾向にある。しかし、芸術や創作活動の領域では、恣意的な表現が新たな価値を生み出す場合もある。恣意的な行動は、個々の自由や創造性を重視する一方で、公共の秩序や他者の権利を侵害する可能性も含んでいる。

 要するに、僕がここで言っている意味合いは、「誰か、または誰かたちの自由な、言い方を変えればなんらかの意図を指向して決める」ということだ。だって、キャスティングに〈法律や規則、公平性〉を求める方がおかしいでしょ。
 公平性を謳った幼稚園のお遊戯会の劇の話を聞いたことがあるが、酷かった。
 主人公(中心人物)がいると不公平なので主人公はおらず、〈全員が同じ台詞の数があり、また、台詞の長さも全員同じくらいに設定する〉のである。〈実験演劇〉としてはクッソ面白いが、もちろん考えたひとたちは実験演劇をやりたいのではなく、「法律や規則、公平性」を〈配役〉に適用し、〈恣意的〉なのを排除したつもりなのだ。これ以上に〈主催者側が恣意的に行った配役はない〉だろうと僕は思う。

 話が逸れたが、「配役」とは、誰か、または誰かたちが、恣意的に選ぶ。だが、「正解」は「存在しない」のである。
 その特性上、いろいろ操作があるときもあるわけだが、しかし、〈創作〉に関わっていたら、ストーリーとはどういうものか知っているわけで、公平性とは土台折り合いがつかないこともまた、知っているわけである。少なくとも幼稚園のお遊戯会で謎の実験演劇を〈演じさせられる〉のは、奇妙な体験が残るだけで「演劇の楽しさが伝わらない」と僕は感じるけど、どうだろうか。


 話を戻そう。〈寝ないと仕事が来ない地獄〉だったら、僕だって訴えもしたかもしれないが、「権力者と一回寝るとしばらく、またはたまに、仕事を回してもらえる場合」があり、仕事が来る状態から上手く〈軌道に乗った〉奴を糾弾する結果になった場合、僕はそいつの「仕事を奪った奴」と恨まれるものの、助けてくれてありがとうとは思わないだろう、という問題だ。
 僕には、不正を糾弾できなかった。
 ちなみに、性行為は強要されるばかりではない。もちろん進んで抱かれる場合も多くある。抱いて欲しい状況に追い込んで抱く、という手法の方がむしろ多いだろう。知らずに、そういう結果にならざるを得ないようにどこかで誰だかがセッティングする場合だ。どこからどこまで不正なのかわからないように仕組まれているときたら、僕にはお手上げだ。
 そういうわけで、〈枕営業〉と一口に言っても、難しいし、セッティングされて自由恋愛だと言われたら気づかないことがほとんどだろうよ。

 で、その「効力」は一回だけで持続する場合があるので、汚い僕の目には、「あー、まあ、なんかいろいろあったもんなぁ」と昔を思い浮かべてしまう、それこそ〈懐古厨怖いね!〉みたいな考えがあたまに浮かんで、なにも言えなくなるのだ。

 そもそも、キャーキャーの話も、僕には普通に「サクラのバイトしませんか。都内まで交通費出しますよ!」と、かなり信頼できるソースからも依頼が来る。来るが、そんなバイト、僕はしない。
 ついでだしサクラのバイトの話も、寄り道をして、したいと思う。

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