第19話

文字数 1,075文字

☆19



 舞台に上がるのが舞台のプロであるのだが、観客がみんな「観客のプロ」でどうするのだ、と思う。舞台上のひとは病むと思う。
 サクラには種類があって、「今日の公演、空席だらけなんだ。観に行ってくれないか」というのが、通常語られる〈サクラ〉である。だが、〈プロのサクラ〉という、謎カテゴリ内に、何種類ものサブジャンルとしての〈サクラ〉があって、ひとはみな人生が違い生活圏が違うので、実は〈サクラ〉というものの共通の了解が取れないで、しかも結構裏世界の入り口っぽさがあるので、僕も自分を棚に上げて言うが〈知った気になりやすい〉のが〈サクラ〉というものである。
 ただ、ライトな世の中にはなったと思う。「好きな俳優さんの舞台挨拶でサクラになって盛り上げて、バイト代ももらっちゃおう!」って感じのキャッチコピーで募るようになった。まだましな気がする、昔と比べて。
 昔の(いや、たぶん今もあるんだろうけど)酷いタイプのサクラは、昔、ある長編小説内で僕は詳細に記述したことがある。気分も悪くなるし、それは繰り返さない。
 だが逆に、これからスポットライトを浴びる職業を目指したいひとは、観客のプロもたくさんいることを知ってから、舞台に上がって欲しい。知らないでその道に入って見渡したら「どっちが演技をしている側だかわからない」という状態は、完全にあたまがおかしくなる、間違いない。精神を病む。
 だから、ある程度そういうこともあるのを織り込み済みで戦って欲しい。僕はひとが病むのをあまり観たくない。わがままだけどね、こんなエッセイを書きながらなにを言っているんだ、って感じだ。

 ちなみに、遙か昔、テレビの収録は深夜帯まで及び、サクラを含む観覧者のひとたちは始発電車の時間まであまりなにもないがらんどうの埋め立て地に置き去りにされた、というのは有名だった。だが、正確に言うと、始発まで暇だし建物も当時ほとんどない場所、暗いので危なく、そういうサクラの女の子を狙ってナンパすると高確率で最後まで行ける、という噂があった、という情報があったのが僕に届いた正確な情報なのである。
 知っていても、だ。お金のないクリエイターウェイを走っていた僕は、そもそもその埋め立て地にたどり着くまでの小銭すら捻出出来なかったので、そういったことは一切出来なかったことを付け加える。お金なくても問題ない部分はあるが、それは越えちゃいけない一線かな、と勝手に思い込んでいた。その判断は正しかったのか間違っていたのか、それは僕にはわからない。

 そして、話は戻り、読者モデルの子との話になるのである。


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