第11話

文字数 928文字

☆11



 いきなりだが、『おそ松さん』で僕が一番好きなエピソードの話を書きたいと思う。
 おそ松さんというのは六人兄弟の話なのであるが、その兄弟は一応、モテないような設定になっている。で、その兄弟のひとりが、泣いている女性と出会う。そのとき、「マッスルマッスル〜」とか言って身振り手振りをする、いわゆる〈一発ギャグ〉をして、泣いている女性を笑わせる。女性に、そいつと会うときだけ、笑顔が戻った。
 ほかの兄弟が「なんでおまえ、その子と付き合わないの?」みたく言う。モテないのに仲が良い女性が出来たんだし、付き合えよ、というわけである。だが、プラトニックな関係を、そいつは貫いて、ただひたすらその一発ギャグでその女性をひとときだけ笑わせていた。
 ある日、女性はいなくなってしまう。女性は、一発ギャグで笑わせてくれたそいつの名前だかなんだかをタトゥーとして彫る。その子がいなくなってしまったので、そいつは悲しみに暮れるが、その子は戻ってこない。
 しばらくのち。そいつの兄弟のひとりが、アダルトビデオ店に入る。ビデオを棚から取ると、泣いていたその子と同一人物が、アダルトビデオの女優になっていた。名前のタトゥーが彫ってあるので、間違いがない。だが、そのビデオを、黙って棚に戻し、このことはみんなに黙っていることにして、店から立ち去る。
 女性を笑わせていたそいつは、道化のように、今日も一発ギャグの「マッスルマッスル〜」を、たまにする。その女性が今、どこでなにをしているか、知らないままで。


 僕はおそ松さんの世界からは、いろいろあって追い出されてしまったのでアニメ、もう観ないけど、男性もぜひ、観て欲しい。今語ったエピソードって、なんとなく、「あるよな、こういうこと」って思わないだろうか。
 このエッセイで僕は、よく見かけるおそ松さんのアイコンのひとたちに対する批判をしているように思えるかもしれないし、そう見てくれても自由なのだが、おそ松さんのそういうエピソードは理解出来るし共感もする。また、このアニメが華やかに見える業界で働く女性たちにも絶大な支持を得るのもわかるつもりだ。ただの「つもり」に過ぎないかもしれないが。
 それを念頭に置いた上で、この作品は、先へ進む。




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