第16話

文字数 1,603文字

☆16



 僕が底辺だからって、トップの方にいるひとたちにいつも蔑視されているかというと、それは違う。
 僕が「あなたは頂点の方にいるひとですよね?」と思うひとたちが手を差し伸べてくれて、助かったことも、いろんな世界で何回もある。奇跡的というか、本当に有り難い話だ。恵まれている、と言える。
 おそらくは本当に底辺でうずくまっているひとよりはある意味では「恵まれている」という理由もあって、今まで書けなかった話がいくつもある。噂ではなく、当事者やその近辺のひとと話していて出た話題だから信憑性があるが、それ故に言えなかったし、これもまた事実だったとしても業界の外のひとが聞いたら通常だったら嘘に思える話だと僕は判断した。
 しかも、なんでそんな話を僕がしなくちゃならないのか、全く意味が掴めないところがあったのだが、書く機会は今後もないだろうし、今、当たり障りなく書いておこうと思う。


 付き合っていることは内緒で、と言われていたので黙って付き合っていた関係性の女性がいることもあった。僕はどちらかというといじめられっ子だったので、確かにいじめられっ子と付き合うといじめられるので秘密にしていたかっただろう。この前、とある政令指定都市の文学館へ行ったら、高校時代に内緒ということで付き合っていた女性の祖先のひとが大活躍している展示が、その都市の県外の人物なのにたくさんあった。重要人物なのである。文学館だから、偉大な文学者って奴だ。と、いうか本当に阿呆かってほど展示があったので、学校の文学史で習うよりも影響力は現実では格段にあった人物である。
 と、いうことは、その子孫である、高校時代の一時期に付き合っていたその子も本当は普通の経歴ではない。その子は高校をよく休んでいて登校する日の方が少ないほどだったのだが、公休であることは、知っているひとしか知らなかった。彼女は和楽器奏者だった。
 海外に呼ばれていくことがたくさんある奏者であり、その子のエピソード自体も面白いのだが、今回はそういう趣旨の文章ではないので、違う話をする。
 名家なので、その子の従兄弟は、みんな東京都にある、芸能人と芸能人のたまごしか在籍しない学園に通っていた。
「わたしの従兄弟、全員ぶっさいくな男どもなんですよ〜! でもね、〈あの学園〉に通っているでしょ? クラスの集合写真を見せてもらったら美男美女ですよ、ほぼ全員。そこにぶさいくなわたしの従兄弟どもが並んで写っていてウケるんです。で、従兄弟たち、その学園に通ってるだけでステータスだからみんなプレイボーイなんですよ! 女をとっかえひっかえしてるの。プリクラや写真を見せてもらうじゃないですかぁ〜。付き合ってる女、どいつこいつも全員美女なんですよぉ〜! クラスの女とももちろん付き合う。この女たち、数年経ったらテレビに映って全国の男どもからブイブイ声援を送られるアイドルや女優なんかになるのですよぉ〜! めちゃくちゃウケるでしょ〜! みんなぶひぶひ言って応援している女がぶさいくなわたしの従兄弟に抱かれていると思うと笑いが止まらないですぅ〜!」
 僕は腹を抱えてその子と一緒にゲラゲラ笑った。
 露悪的なエピソードだが、めちゃくちゃ笑った。

 帰京後、友人からのすすめでオタクカルチャーにどっぷり漬かった僕だが、そもそも、中学高校の時点で上述した話をよく知っているのである。オタク化しようと試みた僕を、僕を知らないひとは普通に蔑んでいたし今も蔑まれていると思うが、僕のことを知る人間は、果たしてどういう視線で僕を見ていただろうか。

 話は、その子とのエピソードだけで終わるわけがないのである。
 僕が東京で活躍していた本物のモデルの女の子と付き合ったときのエピソードを付け加える必要がある。
 だまされているわけでなく、普通に雑誌に載っていた女性だ。
 そして、業界の裏話を聞くこともある、というわけである。


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