第15話

文字数 1,920文字

☆15



 この文章の最初に、ミシェル・フーコーの名前を出した。フーコーと言えば『監獄の誕生』の内容もまた、このエッセイの内容を俯瞰するには有効だと思うのだが、俯瞰して論じようなんて人間はいないだろうし、この作品に僕自身が組み込むことにした。
 ミシェル・フーコーは『監獄の誕生』で、監獄や軍隊、学校に見られる〈規律型権力〉を論じた。具体的には「最大多数の最大幸福」を掲げた〈功利主義〉をつくったジェレミ・ベンサムが考案した、〈パノプティコン〉を論じたことがつとに有名である。パノプティコンは日本語訳で〈一望監視型監獄〉と訳される。どういうものかなのかは、そのままである。
 ウィキなどではごちゃごちゃ書いてあるのでわかりにくいパノプティコンだが、要するに円形状に牢獄を並べて配置し、その上の方の真ん中に、看守を配置する、というのがパノプティコンだ。看守は動かないでも牢獄が一望することが出来て、逆に囚人からは看守が見えない構造になっている。
 さて、「看守は動かないでも牢獄が一望することが出来て、逆に囚人からは看守が見えない構造になっている」とどうなるか。それは、収容された囚人は「いつ、自分が見られているかわからない」状態になる。〈監獄〉のなかで「見られているか見られていないかわからない」場合どうなるか。囚人は、見張り続けられているのだしそれが規則なのだから、「見られている(かもしれない)」と〈常に思う〉のである。〈常に思う〉とどうなるか。〈規律に従う〉ようになるのだ。
 看守は囚人に対して、一方的な権力作用を効率的に働きかけられる。囚人は、常に監視されていることを強く意識するために、規律化され従順な身体を形成する。
 これがパノプティコン内における〈規律型権力〉のかたちである。
 功利主義のベンサムが考え出したパノプティコンは、「常に監視しているわけではなくていい」が「常に監視していると思わせる」ことに成功させれば、最小限の力で最大の効果を発揮出来るような権力装置が出来上がるということだと、ミシェル・フーコーは考えた。

 ……と、いうのが僕なりの解釈だ。そしてこれが、フーコーの鍵概念である〈生政治〉(biopolitics)の説明によく使われるエピソードなのである。
 ウィキで「現代社会の支配体系の特徴として、例えば政府等の国家が市民を支配する際に、単に法制度等を個人に課すだけではなく、市民一人ひとりが心から服従するようになってきたとして、個人への支配の方法がこれまでの「政治」からひとりひとりの「生政治」にまで及ぶようになったと説明する。これを「生政治学(Bio-politics)」という」という説明のあとに、「近代国民国家の支配の方法として、法制度といったものを「外的」に制定するだけではなく、法制度を「倫理」として各個人の「内的」な意識レベルまでに浸透させるようになってきた」とあるように、このタイプの権力は〈個々人に内在化させる〉ことをするのである……ネット上では特に書いてないと思うけどね!

 で、この話がどこに着地するかというと、「ミシェル・フーコーはのちに、支配が各個人の倫理レベルにまで及ぶとする一方で、その支配に対する「抵抗」もまた人それぞれであるとした議論を『性の歴史』で展開し、この議論はこれまでの集団主義的、マルクス主義的な社会運動とは違う個人の意識をより尊重する事を主張するポストマルクス主義や新しい社会運動、さらにはゲイ・レズビアン運動といった主義や運動の存在根拠として言及される」と、あるように、最初に書いた「肉の告白」を含む『性の歴史』の話に接続するのである。

 実は世界中のコロナ禍で、フーコーの生政治は再び注目され始めたこともあり、今後、フーコーの著作はこれまで以上に重要になってくるのではないか、と思われる。
 各個人の倫理レベルにまで及ぶ支配に対する「抵抗」もまた人それぞれであるとした議論をミシェル・フーコーが『性の歴史』で展開したことが僕にはとても重要で、〈倫理レベルにまで及ぶ(内在化された)支配〉に〈抗う〉ことをこのエッセイでは企んでいる。
 具体的には、僕が語っていることは、例えば「〈女性〉の〈性〉というものは〈受動的〉だと世間は信じて疑わなかった」そのおかしな倫理レベルに及ぶ〈支配〉が絶対的である世界においては、どんなに僕が言葉を尽くしても〈無効化〉されてしまい、僕が〈加害者〉であるように〈支配された人間の目〉には映るからだ。
 僕は、理解してもらえないようなこのくそったれな〈支配〉に抵抗しないと、犯罪者の烙印を不当に押されて終わるのだ。この〈奸計〉から抜け出すように、僕は抗う!


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