ルゥナ外伝 第2話
文字数 2,034文字
山裾を切り開いて開発された住宅地には、同じ高校に通う幼馴染がいた。その中のアキハとタカシは、今でも親交が続いていた。タカシは、サッカー部に所属して帰りが何時も遅かった。文芸部のアキハは、それなりに高校生活を楽しんでいた。
夕食の後、アキハが牡丹餅を持って家に現れた。母親同士が仲の良いこともあって中学を卒業して高校生になっても行き来は続いていた。
「小母様、これ母からです。」
屈託ないアキハは、幼い頃から泣き顔一つ見せたことのない気丈な積極娘だった。
「二階ですか。」
「風呂上りよ。襲われないでね。」
「グウで、殴れます。」
何歳になっても子供のように燥げる母と、元気もののアキハは相性が好かった。
風呂から上がりスマホを触っていた僕の部屋に入ってきた。
「いたいた。」
お互いが一人っ子で兄弟姉妹のように気安く話が出来た。
「土曜日に映画に行こうよ。」
「そういうのは、窓から言えよ。」
隣の家に住んでいるアキハの部屋の窓から僕の窓まで数メートルも離れていなかった。今までも、窓越しに話すことが多かった。
「いいじゃないの。」
アキハは、断りもせずに僕のベッドに腰掛けた。幼い頃は、気兼ねなくベッドで遊んだが、最近は僕の方が余計な意識をしてしまった。
「ベッドに座るなよ。」
潔癖症でないが、半分は本心で嫌だった。
「いいじゃない。」
アキハは、明るく笑った。テスト発表で部活が休みのタカシも誘っていた。勉強の得意なアキハは兎も角も、僕もタカシも及第点が擦れ擦れで充分にヤバい学力が続いていた。
「いいじゃない。勉強教えてあげるし。」
その提案は、心底嬉しかった。
「タカシの奴、よく行けるな。」
「ふふん、わたしに弱みを握られているからね。わたしの言葉は、絶対でしょう。」
それは、事実本当だった。幼い頃、泣き虫だったタカシをアキハは、世話の焼ける弟のように面倒を見ていた。僕に対してもよく似た態度だったが、対応はすこし違っていた。僕が何事にも一歩下がって世の中を見ていたからだろうか。大人しいタカシに対する程も踏み込んでこなかった。時間と待ち合わせの場所を一方的に告げると話題を変えた。
「そうだ。君をね。とても気にしている可愛い後輩がいるんだけれど。」
僕は、文芸部の顔を思い浮かべることが出来た。
「もしかして、映画に誘っている。」
「うんうん、正解。よく分かりました。性格の良い子だよ。」
してやったり顔のアキハに僕は、呆れて返す言葉も見つけられなかった。
「フェミニストの君だから。女子を困らせないよね。」
「お前な‥‥。」
そこに、一階から母の呼ぶ声が聞こえてきた。
「わたしが取ってくる。」
アキハは、紅茶とケーキを持って上がってきた。母のパート先のケーキは、美味しかった。
「‥‥うっ、幸せな・わ・た・し。」
アキハの歓喜の表情に僕は、自分のケーキを進めた。
「いやいや。これ以上の幸せを進めないで。でも、せっかくだから頂くわね。」
僕は、話題を変えた。
「アキハは、そこの三叉路から奥にはいったことあるの。」
「えっ‥‥、わたしは無いけど。」
アキハは、予想もしなかった話だったのか少し怪訝そうに答えて逆に尋ね返した。
「どうして。」
「昔からの集落があるって聞かなかったかな。」
「らしいわね。」
幅が狭い車道は、その先の集落で行き止まりになっていた。そこから通ってくる同じ世代の学生もいなかった。アキハが僕に確かめるように尋ねた。
「小さい頃に行ったって君から聞いたことがあるけど。」
「僕が‥‥。」
僕は、まったく記憶になかった。
「ないよ。」
そう言い切ったものの、腑に落ちない思いが残り確かめた。
「僕が、そう言ったのか。」
アキハの見詰める瞳が、真実を語っているのが分かった。
「‥‥何よ。突然に。何かあったの。」
アキハは、僕の話に興味を懐いたのだろう。食い下がるように問質を重ねてきた。面倒になって僕は誤魔化した。
その夜は、アキハに勉強を教えてもらった。揺らぐ気持ちの僕の迷いに何か勘付いていたのだろうか。アキハは、何時もより少しばかり長いをした。家に帰ってからも自分の部屋の窓からアキハが念押しした。
「心配事があるなら相談しなさいよ。水臭い。私達って、親友でしょう。」
「考えておくよ。」
「それから、映画、絶対よ。」
「考えておく。」
「じゃなくて。約束でしょう。逃げたら、追っかける。地獄まででもね。」
翌日から、学校の行き返りにルゥナの姿を探す自分がいた。ルゥナの制服の学校は、早朝に出ないと間に合わない距離だった。何度か早く家を出たが、見かけなかった。週末になって、ふと僕は、自分の行動の切なさに気付いた。
「‥‥何しているんだ。」
そう呟いてみると、愚かな行動が可笑しくなった。
夕食の後、アキハが牡丹餅を持って家に現れた。母親同士が仲の良いこともあって中学を卒業して高校生になっても行き来は続いていた。
「小母様、これ母からです。」
屈託ないアキハは、幼い頃から泣き顔一つ見せたことのない気丈な積極娘だった。
「二階ですか。」
「風呂上りよ。襲われないでね。」
「グウで、殴れます。」
何歳になっても子供のように燥げる母と、元気もののアキハは相性が好かった。
風呂から上がりスマホを触っていた僕の部屋に入ってきた。
「いたいた。」
お互いが一人っ子で兄弟姉妹のように気安く話が出来た。
「土曜日に映画に行こうよ。」
「そういうのは、窓から言えよ。」
隣の家に住んでいるアキハの部屋の窓から僕の窓まで数メートルも離れていなかった。今までも、窓越しに話すことが多かった。
「いいじゃないの。」
アキハは、断りもせずに僕のベッドに腰掛けた。幼い頃は、気兼ねなくベッドで遊んだが、最近は僕の方が余計な意識をしてしまった。
「ベッドに座るなよ。」
潔癖症でないが、半分は本心で嫌だった。
「いいじゃない。」
アキハは、明るく笑った。テスト発表で部活が休みのタカシも誘っていた。勉強の得意なアキハは兎も角も、僕もタカシも及第点が擦れ擦れで充分にヤバい学力が続いていた。
「いいじゃない。勉強教えてあげるし。」
その提案は、心底嬉しかった。
「タカシの奴、よく行けるな。」
「ふふん、わたしに弱みを握られているからね。わたしの言葉は、絶対でしょう。」
それは、事実本当だった。幼い頃、泣き虫だったタカシをアキハは、世話の焼ける弟のように面倒を見ていた。僕に対してもよく似た態度だったが、対応はすこし違っていた。僕が何事にも一歩下がって世の中を見ていたからだろうか。大人しいタカシに対する程も踏み込んでこなかった。時間と待ち合わせの場所を一方的に告げると話題を変えた。
「そうだ。君をね。とても気にしている可愛い後輩がいるんだけれど。」
僕は、文芸部の顔を思い浮かべることが出来た。
「もしかして、映画に誘っている。」
「うんうん、正解。よく分かりました。性格の良い子だよ。」
してやったり顔のアキハに僕は、呆れて返す言葉も見つけられなかった。
「フェミニストの君だから。女子を困らせないよね。」
「お前な‥‥。」
そこに、一階から母の呼ぶ声が聞こえてきた。
「わたしが取ってくる。」
アキハは、紅茶とケーキを持って上がってきた。母のパート先のケーキは、美味しかった。
「‥‥うっ、幸せな・わ・た・し。」
アキハの歓喜の表情に僕は、自分のケーキを進めた。
「いやいや。これ以上の幸せを進めないで。でも、せっかくだから頂くわね。」
僕は、話題を変えた。
「アキハは、そこの三叉路から奥にはいったことあるの。」
「えっ‥‥、わたしは無いけど。」
アキハは、予想もしなかった話だったのか少し怪訝そうに答えて逆に尋ね返した。
「どうして。」
「昔からの集落があるって聞かなかったかな。」
「らしいわね。」
幅が狭い車道は、その先の集落で行き止まりになっていた。そこから通ってくる同じ世代の学生もいなかった。アキハが僕に確かめるように尋ねた。
「小さい頃に行ったって君から聞いたことがあるけど。」
「僕が‥‥。」
僕は、まったく記憶になかった。
「ないよ。」
そう言い切ったものの、腑に落ちない思いが残り確かめた。
「僕が、そう言ったのか。」
アキハの見詰める瞳が、真実を語っているのが分かった。
「‥‥何よ。突然に。何かあったの。」
アキハは、僕の話に興味を懐いたのだろう。食い下がるように問質を重ねてきた。面倒になって僕は誤魔化した。
その夜は、アキハに勉強を教えてもらった。揺らぐ気持ちの僕の迷いに何か勘付いていたのだろうか。アキハは、何時もより少しばかり長いをした。家に帰ってからも自分の部屋の窓からアキハが念押しした。
「心配事があるなら相談しなさいよ。水臭い。私達って、親友でしょう。」
「考えておくよ。」
「それから、映画、絶対よ。」
「考えておく。」
「じゃなくて。約束でしょう。逃げたら、追っかける。地獄まででもね。」
翌日から、学校の行き返りにルゥナの姿を探す自分がいた。ルゥナの制服の学校は、早朝に出ないと間に合わない距離だった。何度か早く家を出たが、見かけなかった。週末になって、ふと僕は、自分の行動の切なさに気付いた。
「‥‥何しているんだ。」
そう呟いてみると、愚かな行動が可笑しくなった。