ルゥナ外伝 第19話
文字数 2,102文字
昨夜は、寝付きが悪かった。予想以上の変化に心身ともについていけなかったのだろう。毎日が周りの都合で振り回されているように思えた。起きると、既に母は、パートに出ていた。僕は、用意を始めるまで時間が掛かった。準備をしながらこの数日の激変を想い返した。ルゥナと現実に見えた異界のような場所での出来事が、数日を経て気持ちの整理はついていた。そう思うと、いずれ訪れるであろうルゥナとの旅が、迷いを残しながらも不安より楽しみにしているのに気付いた。
「これが定められた道なら、進む覚悟はできているつもりだ。」
僕は、自らに言い聞かせるように呟いた。
昼前にナミキの母親が、車で駅まで送ってくれた。電車を乗り継いで半日近くかかる久々の旅は、気が重かったものの道中から密かに楽しんでいた。その僕の様子を気付いたのだろう。
「‥‥ねぇ、来てよかったでしょう。わたしの言葉は正しい。」
アキハは、僕に囁いた。
周遊バスを降りた山間の湖は、海辺よりも涼しかった。湖畔のペンションは、予想以上に立派な造りだった。後で知ることになるが、そのペンションは大正期に華族の別荘として建てられてもので古いながら雰囲気の秀逸さでSNSても話題になっていた。ナミキの父親の旧知の人が営んでいた。ナミキは、幼い頃から何度も訪れている場所だった。
「‥‥すごいね。」
アキハが、外観の造りに感動した。僕は、揶揄った。
「古い建物は、嫌いだろう。」
「虫が出るような廃墟は嫌なの。これインスタ映えするし。」
アキハは、さっそく画像を取り込んでいた。
初老のオーナーが若い女性と二人で営んでいた。僕は、最初親子と思った。歳の差の夫婦と知らされていなかったのが僕だけだった。アキハは、僕を驚かせ揶揄おうとしたのだろう。その思惑に僕は見事にはまって喜ばせた。
「君は、ホント期待を裏切らないね。そういうとこ、ラブだよ。」
ナミキの称賛にタカシもナミキも苦笑した。僕は、いつものようにその場を収めた。
「これが、取り柄。褒めろよ。」
その日の予約は、僕らだけだった。夕刻に近付いていたが、散歩に出かけた。夏の日は長くても、山間の暮れるのが早かった。アキハが、無計画にことを進めたとは考えられなかった。何か企みを持っていたのだろう。僕は、何時も以上に用心した。
最初、四人で湖畔の遊歩道を探索していたが、途中からナミキと二人になった。アキハがタカシと先に行ってしまった。その準備された動きに僕は呆れた。それでも、ナミキから聴きたいこともあったから気にしなかった。
「‥‥先輩は、ルゥナさんとどうしたいのですか。」
ナミキが、先に話し出した。僕が考える以上にナミキは、立場を杞憂していたのだろう。改めてナミキの気遣いと思いを知った。僕は、気持ちを隠さずに話した。
「迷っていないけど、たぶん、お手伝いすると思う。」
僕は、落ち着いて尋ねた。
「もしかして、シオンさんに僕を引き合わせたのは、意図してだったの。」
ナミキは、目を伏せて頷いた。視線を上げる眼差しが切なかった。
「‥‥隠すつもりは、なかったのです。」
ナミキの話は、春先の頃に始まった。ナミキが高校に合格した祝いを兼ねてシオンが訪れた。ナミキの父親とシオンは、将棋を指す間柄だった。
──ナミキちゃんが、学校に行きだしてからでいいんだけど。
シオンが、物のついでのように言った。
──隠れ里に係わりがある話を聞くことがあれば教えてほしいんだよ。僕も頼まれたのだけれどね。
ルリアからの頼まれごとなのが薄々ながら分かったとナミキは語った。それまでもルリアに占ってもらいアドバイスを受けていたナミキは、彼女の人ならざる不思議な力を目の当たりにしていた。ルリアからの頼みなら、ことの重要さが窺えてナミキは、承諾したのだった。
「‥‥でも、たまたまだったと信じて下さい。」
僕は、話の流れが遡って繋がることに驚きながらも納得した。
夕食は、高校生の僕らを考えて外でバーベキューだった。僕は、数日の出来事を忘れて寛ぎ楽しめた。家を離れてもアキハの世話焼きは変わらなかった。各人の好みとその夜の体調も考慮して仕切った。
夕食後、バーベキューをしながら話題に上がった露天風呂に肝試しを兼ねて行くことになった。僕は、意見を入れた。
「温泉だけでいいけどな。」
「なに、枯れているのよ。」
アキハは、僕を急かした。
「どっちがついででもいいでしょう。みなさん、水着忘れないでね。」
少し離れた谷間に、町営の温泉があった。二十四時間空いていた。水着着用の露天風呂が、僕らには珍しかった。途中の小道が夜のこともあって肝試しになった。
谷川沿いに趣ある休息施設が建っていた。
脱衣所から出ると、アキハは、僕が首に掛ける勾玉に目敏く気付いた。
「それって、翡翠なの。どうしたのよ。」
「話せば長くなるし。似合うだろう。」
「笑える。っていうか君らしくないし。」
タカシは頷き、ナミキは困惑していた。
露天風呂に男性の先客がいた。後で分かったが、四人ともに違った捉え方をしていた。僕は、三十歳半ばの外国からの旅行者に見えた。
「これが定められた道なら、進む覚悟はできているつもりだ。」
僕は、自らに言い聞かせるように呟いた。
昼前にナミキの母親が、車で駅まで送ってくれた。電車を乗り継いで半日近くかかる久々の旅は、気が重かったものの道中から密かに楽しんでいた。その僕の様子を気付いたのだろう。
「‥‥ねぇ、来てよかったでしょう。わたしの言葉は正しい。」
アキハは、僕に囁いた。
周遊バスを降りた山間の湖は、海辺よりも涼しかった。湖畔のペンションは、予想以上に立派な造りだった。後で知ることになるが、そのペンションは大正期に華族の別荘として建てられてもので古いながら雰囲気の秀逸さでSNSても話題になっていた。ナミキの父親の旧知の人が営んでいた。ナミキは、幼い頃から何度も訪れている場所だった。
「‥‥すごいね。」
アキハが、外観の造りに感動した。僕は、揶揄った。
「古い建物は、嫌いだろう。」
「虫が出るような廃墟は嫌なの。これインスタ映えするし。」
アキハは、さっそく画像を取り込んでいた。
初老のオーナーが若い女性と二人で営んでいた。僕は、最初親子と思った。歳の差の夫婦と知らされていなかったのが僕だけだった。アキハは、僕を驚かせ揶揄おうとしたのだろう。その思惑に僕は見事にはまって喜ばせた。
「君は、ホント期待を裏切らないね。そういうとこ、ラブだよ。」
ナミキの称賛にタカシもナミキも苦笑した。僕は、いつものようにその場を収めた。
「これが、取り柄。褒めろよ。」
その日の予約は、僕らだけだった。夕刻に近付いていたが、散歩に出かけた。夏の日は長くても、山間の暮れるのが早かった。アキハが、無計画にことを進めたとは考えられなかった。何か企みを持っていたのだろう。僕は、何時も以上に用心した。
最初、四人で湖畔の遊歩道を探索していたが、途中からナミキと二人になった。アキハがタカシと先に行ってしまった。その準備された動きに僕は呆れた。それでも、ナミキから聴きたいこともあったから気にしなかった。
「‥‥先輩は、ルゥナさんとどうしたいのですか。」
ナミキが、先に話し出した。僕が考える以上にナミキは、立場を杞憂していたのだろう。改めてナミキの気遣いと思いを知った。僕は、気持ちを隠さずに話した。
「迷っていないけど、たぶん、お手伝いすると思う。」
僕は、落ち着いて尋ねた。
「もしかして、シオンさんに僕を引き合わせたのは、意図してだったの。」
ナミキは、目を伏せて頷いた。視線を上げる眼差しが切なかった。
「‥‥隠すつもりは、なかったのです。」
ナミキの話は、春先の頃に始まった。ナミキが高校に合格した祝いを兼ねてシオンが訪れた。ナミキの父親とシオンは、将棋を指す間柄だった。
──ナミキちゃんが、学校に行きだしてからでいいんだけど。
シオンが、物のついでのように言った。
──隠れ里に係わりがある話を聞くことがあれば教えてほしいんだよ。僕も頼まれたのだけれどね。
ルリアからの頼まれごとなのが薄々ながら分かったとナミキは語った。それまでもルリアに占ってもらいアドバイスを受けていたナミキは、彼女の人ならざる不思議な力を目の当たりにしていた。ルリアからの頼みなら、ことの重要さが窺えてナミキは、承諾したのだった。
「‥‥でも、たまたまだったと信じて下さい。」
僕は、話の流れが遡って繋がることに驚きながらも納得した。
夕食は、高校生の僕らを考えて外でバーベキューだった。僕は、数日の出来事を忘れて寛ぎ楽しめた。家を離れてもアキハの世話焼きは変わらなかった。各人の好みとその夜の体調も考慮して仕切った。
夕食後、バーベキューをしながら話題に上がった露天風呂に肝試しを兼ねて行くことになった。僕は、意見を入れた。
「温泉だけでいいけどな。」
「なに、枯れているのよ。」
アキハは、僕を急かした。
「どっちがついででもいいでしょう。みなさん、水着忘れないでね。」
少し離れた谷間に、町営の温泉があった。二十四時間空いていた。水着着用の露天風呂が、僕らには珍しかった。途中の小道が夜のこともあって肝試しになった。
谷川沿いに趣ある休息施設が建っていた。
脱衣所から出ると、アキハは、僕が首に掛ける勾玉に目敏く気付いた。
「それって、翡翠なの。どうしたのよ。」
「話せば長くなるし。似合うだろう。」
「笑える。っていうか君らしくないし。」
タカシは頷き、ナミキは困惑していた。
露天風呂に男性の先客がいた。後で分かったが、四人ともに違った捉え方をしていた。僕は、三十歳半ばの外国からの旅行者に見えた。