ルゥナ外伝 第16話

文字数 2,110文字

 裏門の近くは、神社が所有していた。高校の周辺は、その一帯にだけ民家がなく異質な感じを与えた。僕は、悪寒のような感覚を受けて思わず呟いた。
 「‥‥まずいだろう。」
 車一台が通れる林道が暗く不気味だった。学校の敷地の北側で湿気ていた。裏から門を見たのは、初めてだった。太い鉄柵は、鎖が巻かれ施錠されていた。不意に、アキハが言い出した。
 「君、入ってみなさいよ。」
 男子なら乗り越えられる鉄柵の高さだった。
 「えっ、何をさせるんだよ。」
 僕は、本心で困惑し抵抗した。
 「止めよう。」
 「部室の裏に梯子あったよ。君、取ってきてよ。」
 「臆病者を使うなよ。」
 「知ってるから。早く。」
 言い出したら聞かない性格のアキハ相手に苦戦した。

 僕らは、その人影が近くまで来ても気付かなかった。
 「‥‥誰かと思えば、ナミキちゃんじゃないか。」
 若い男の声に、三人とも飛び上がって驚いた。聞き覚えのある声は、シオンだった。
 「やぁ、レイア君もいるのか。」
 僕は、安堵したものの直ぐに思いがけない場所での再会に疑念を抱いた。
 「もう一人の綺麗なお嬢さんは、同級生。」
 僕の紹介にアキハが、珍しく緊張していた。
 「どうしたの。こんな時間に、こんな場所で。」
 「夜の散歩で涼んでいます。」
 僕は、咄嗟に言い訳をつくった。
 「風流だね。」
 シオンは、その夜も着物姿だった。
 「シオンさんこそ、どうかされましたか。」
 「神社に呼ばれてね。帰りだよ。」
 正面の石段と方向が違っていた。僕の懸念に気付いたのか、山の後ろを示した。
 「この先に裏道があるんだよ。」
 僕は、知らなかった。
 「君たちの高校だね。‥‥これは、困った裏門だな。」
 シオンは、言葉ほどに戸惑っていなかった。
 「ここを通るたびに、気配が変わっている。ここ暫くは、危険だよ。」
 「それは、どういうことでしょう。」
 「そういうこと。」
 シオンは、僕らを促した。
 「ナミキちゃん。お家の皆さんが心配するよ。君達も、そろそろ戻ろうか。」
 アキハの素直に従う大人しい様子に僕は驚かされた。あの時のアキハは、シオンの身分に気付いていたのだろうか。
 「もしかしなくても、肝試しかな。」
 「すみません。」
 「いいよ、若い者は、それぐらいの気概がないとね。」
 シオンが、歩きながら僕に視線を向けた。
 「でも。今、この辺りは、ちょっとヤバイよ。」
 「えっ。」
 「彼女、説明しなかったの。」
 ルゥナと僕の行動を知っているような口ぶりだった。
 「ルゥナさんのことですか。」
 「そう。彼女の御供をしたのだろう。」
 「‥‥どうして。」
 「だから、状況を観察して推理すれば予測可能だって話したよ。」
 「そうでした。」
 僕は納得したが、昨夜のルゥナとの行動を見抜いているようで警戒した。

 パーキングに大型のステーションワゴンが停めていた。シオンの姿を見ると、スーツ姿の男がドアを開けた。
 「送るよ。」
 僕は、断る理由もなかった。それに、相談したいこともあった。後で考えれば、シオンとの再会は偶然でもないようにも思えた。
 「‥‥わたしも、いいですか。」
 ナミキの提案にシオンは困らなかった。
 「いいよ。でも、家に連絡しなさい。」
 ナミキは、素直に従った。
 「エアコン、効きすぎるかな。暑いのが苦手なのでね。」
 アキハは、あからさまに氷ついていた。街中の道は、行き交う車で賑わっていた。昨夜との違いが僕を安堵させた。
 「君達、これから予定あるの。少し寄り道しょうか。」

 港に近いリゾートマンションが立ち並ぶ一つだった。最上階の部屋で、三十歳過ぎの女性が迎えてくれた。笑顔の穏やかな印象が僕を安心させた。
 「あら、いらっしゃい。」
 「突然に寄せてもらってご迷惑でしたか。」
 丁寧な言葉遣いのシオンは、親しい間柄のようだった。最初、僕は二人の関係を邪推したが、直ぐに考えを正した。二人の接しようが姉弟のような感じだったからだろう。その女性が、ルリアだった。
 「いつも、突然でしょう。」
 ルリアは、綺麗な微笑みを向けた。
 「ナミキさん、よくいらっしゃいました。お二人は、同じ高校の方かしら。」
 ナミキが、僕とアキハを紹介した。ナミキとの会話の様子から顔見知りなのが見て取れた。アキハは、僕以上に警戒していた。アキハらしくない人見知りが続いて気になったからだろうか。僕も必要以上に用心深くなってしまった。
 「どこかのお帰りなの。」
 ルリアに尋ねられたシオンは、神社からの帰りだと伝えた。
 「もしかして、探偵の真似事。」
 「笑わないで下さい。」
 「まじめに仕事をなさいよ。」
 「人助けです。」

 突然、爆裂音が上がり、窓の外に花火が拡がった。夜空に花火の彩が開く光景が僕らを感動させた。ほぼ水平の高さで見る花火は、僕に新鮮な驚きをもたらせた。
 「やはり、ここからの花火は、最高です。」
 シオンの言葉にルリアは、笑みを浮かべて軽く睨んだ。
 「花火を見に来たのかしら。」
 
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