ルゥナ外伝 第18話

文字数 1,982文字

 部屋の灯りを点けると、向かいの窓からアキハが顔を覗かせていた。
 「‥‥ホラーか。」
 僕は、思わず呻いた。アキハの様子は変わらなかったが、声に含んだものがあった。
 「あら、意外だし。お早いお帰りね。」
 「母さんに嫌味を言われたよ。」
 「わたしの嫌味も聞きたい。」
 「勘弁してくれよ。」
 真夜中を過ぎていた。
 「シオンさん。すごい美男子ね。あんなの初めて見た。ハーフなのかな。」
 「知らない。」
 「独身かな。」
 「知らない。まさかのタイプか。」
 「まさか。わたしは、国産の芋好きだから。」
 アキハの言葉の意味が薄々ながら理解できた。
 「でも、君があのシオンさんと知り合いだったなんて。驚かされたし。」
 「ナミキから紹介された。郷土史家らしいよ。」
 「はぁ‥‥、素性知らないの。」
 「郷土史家でないなら、遊び人かな。」
 「いつの時代の職種よ。」
 アキハが、呆れた。
 「探偵さん。」
 「素行調査とか、浮気調査とかの。」
 僕のリアクションに軽く苛立った声を返した。
 「だいぶん違うよ。噂では、警察のコンサルタントとかもしているとか。」
 「何、それ。」
 僕は、意味が掴めなかった。
 「ホームズのような眼識があるって。」
 アキハが警戒して大人しかった理由に気付いた。
 「だから、猫被ってた。」
 「まぁね。人を観察するのが得意と聞いたから。怖いし。」
 「見破られて困ることがあるのかよ。」
 「あるし。」
 「あるのか。」
 「純情乙女だもの。」
 僕は、納得した。アキハがちょっと甘えるように尋ねた。
 「それで、あれから何があったの、聴きたいよぅ。」
 「男の悪巧みだから。」
 「はぁ‥‥、面白くもなんとも無いよ。」
 その夜のアキハは、何時も以上に粘着質だった。迷いながらも出掛けた先での事柄を秘密にした方がいいだろうと、僕は考えていた。
 「‥‥どっかに、行ったでしょう。」
 疑い深いアキハの勘は、鋭かった。僕は気持ちの動転を悟られないように話を急いだ。
 「着替えてシャワーを浴びるから。窓を閉めるぞ。」
 「昔から見慣れているよ。」
 アキハの言葉に僕は内心苦笑した。幼稚園の頃に一緒に風呂に入った記憶が甦った。僕は、カーテンの陰で着替えた。網戸越しにアキハがスマホを使っているのが見えた。

 シャワーをゆっくりと使い冷たい飲み物を持って部屋に戻った。生暖かい夜の大気が澱んでいた。窓を閉めてエアコンを入れた。
 スマホの着信を無視していると、窓ガラスに何かが当たった。
 「割れたらどうするんだよ。」
 「出なさいよ。」
 窓越しにアキハの怒りが伝わってきた。スマホを繋いだ。
 「眠い。寝るぞ。」
 「寝させないし。未だ早いでしょうが。」
 アキハは、ナミキにも繋いでいた。これから三人で話をすると思っただけでも気分が重かった。昨夜から今夜に続く一連の出来事を思えば、気持ち的にも一杯だった。
 「‥‥すみません、先輩。」
 「夜更かしだから大丈夫だよ。」
 「疲れているから、何を言い出すか知らないぞ。」
 「告るんだ。」
 「勘弁してくれよ。」
 「聞きたくない。」
 「‥‥はぃ、少し。」
 「お前ら、元気だな。」
 「花火見たもの。」
 「‥‥綺麗でしたね。」
 それは、僕も同じ思いだった。 

 「ルリアさんて、占いが出来るんだって。」
 アキハの、弾む声に僕は、溜息をついた。これだから占い好きは困ると、思ったが何も言わなかった。
 「近々、行くんだ。君も一緒に行こうよ。占ってほしいことあるでしょう。」
 「無い。今は、思い付かない。」
 「でも、シオンさんには相談したんでしょう。」
 アキハの女の勘は、昔から用心していた。僕は、ナミキに話題を振った。
 「よく行くの。」
 「‥‥わたしには、ちょうどいいアドバイスを貰えるのです。」
 「神秘的な人だよな。」
 「ほら、年上に弱いんだ。君は、年下の女子の方が幸せになれるから。」
 「今でも、充分に満ち足りているよ。」
 それからの話は、後戻りして錯綜した。それでも僕は、会話の中で必要な情報を掴めていた。

 「明日、四人でお出かけしようよ。タカシ、練習休みだって。」
 アキハは、既に計画を立てていたのだろう。誘いに迷いがなかった。
 「君の気分転換になるし。」
 「一人で寛ぎたいよ。」
 「何よ。せっかくナミキが連絡してくれたのに。」
 ナミキの父親の知り合いのペンションを既に予約していた。その話を聞かされ僕は嘆息した。
 「一泊って、急すぎるだろう。」
 「大丈夫、君の母君には、了承済みだから。」
 「こっちの都合は無視かよ。」
 「だいたい、男が細かいことゴチャゴチャ言わないの。」
 「‥‥先輩、ごめんなさい。」
 「いいから。レイアは、押すといいの。」
 「押されれば引くし、引かれるとほっとくぞ。」
 「バカ、ですか。君は。」

 翌日の時間を約束をしてお開きになった。月が西に移っていた。
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