ルゥナ外伝 第15話
文字数 2,374文字
目が覚めると、昼間際だった。母が、ベッドの傍らで椅子に座って本を読んでいるのを僕は呆然と視線を向けた。
「‥‥どうして、ここにいるんだ。」
「よくいうわね。」
「‥‥今、何時。」
「もう直ぐ昼よ。」
「‥‥えっ、パートは。」
「可愛い息子が昏睡しているのにパートに行けますか。」
「‥‥昏睡していた?」
「完璧に。」
「‥‥知らなかった。」
その朝、ベッドで昏睡状態だった僕を、起こしに来た母が見つけた。時折、その様な状態になるのを知っていた母は、取り敢えず経過を見ていたのだった。
向かいの窓が開き、アキハが顔を覗かせた。
「小母様。レイアの君、復活した。」
「有難う。今ご帰還よ。」
母は、陽気に返事した。
「そちらに、お邪魔してもいいですか。」
「ウェル・カムよ。」
アキハが来ると、母はその場を任せて昼の用意に下りた。
「アキハちゃんも、一緒に食べるでしょう。」
僕は、昨夜の生々しい出来事を覚えていた。目覚めて直ぐは現実の出来事と思えた。あれが夢なら現実と寸分も違わない世界に戸惑うばかりだった。僕は深く考えすぎたのだろう。昨夜のことが現実か夢なのか分からなくなって混乱した。三叉路で牛車から降りた後、誰も居ない家に戻った僕は、ベッドの中に倒れ込むように眠ってしまった記憶があった。
「どうしたの。難しい顔をして。」
アキハは、僕の状態を見定めていたのだろうか。探るように視線を向けて尋ねた。
「話しなさいよ。聞いてあげるから。」
「‥‥いやにリアルな夢を見ていた。」
「それって、本当に夢なの。」
「えっ‥‥。」
僕は、絶句した。アキハが、顔を寄せると真正面から目を覗き込んだ。
「君の瞳の中に女性の残像が、見えるよ。」
「‥‥よせよ。」
「はぁ‥‥、何。図星。」
アキハが腕を組んで笑った。
「素敵な夢を見たようね。」
「マジ、ヤバかった。」
僕は、迷った。昨夜の出来事を話すべきかどうか。アキハに話す理由も見つけられなかったが、話さずにいられない思いに駆られていた。
信じてもらえなくても話すことで気持ちが楽になるように思えたのだろう。
「‥‥凄い夢だった。」
僕は、嘆息しながらそう切り出した。それでも迷っていた。
「あれが夢なら、リアルすぎた。信じるかどうかは、お前の判断に任せる。」
そう前置きして僕は、覚悟を決め昨夜の一部始終を語り始めた。
「‥‥ルゥナさんの髪が白銀で、目が片方蒼い。牛車に乗った。深夜の校舎に見たことも無い先生がいた。‥‥それは、それは。」
最初、アキハは半信半疑だった。
「‥‥一生に一度あるかないかの体験でしたか。」
「ドン引きするなよ。」
「フッーは、引くでしょう。」
僕は、話が伝わせない歯がゆさに溜息をついた。
「最初は、現実と思った。でも、よく考えて見ると、家に誰も居ないし。お前の部屋の灯り消えてたし。不思議だろう。」
「昨夜も、一時近くまで起きていたよ。」
アキハは、不可解そうだった。
「君の部屋こそ、夕方から真っ暗だった。」
「‥‥真逆か。」
僕は、住宅地や街に人のいなかった様子を話し、深夜の学校での顛末を隠さずに語った。
「この前、裏門のことを言っていただろう。あの近くに異界への入口があるってルゥナさんが言った。」
僕の真摯な熱意が伝わったのだろう。途中からアキハは、明らかに受け応えが変わっていた。
話を聞き終えたアキハは、真面目な顔で僕を眺めていた。
「夢にしては、リアルすぎね。」
「‥‥あんなのが、現実かよ。」
僕は強気で言ったが、気持ちは揺らいだままだった。
「夢なら、納得できる。」
母は、昼よりパートに向かった。アキハに誘われて学校に行くことになった。自転車で向かう道中も、僕はあれこれと考えてしまった。
夏休みでも部活の学生は、多かった。サッカー部の練習をしている傍を通ると、タカシの姿が見えた。裏門の近辺は、誰も居なかった。
「ここに落書きがあったのよ。」
アキハが示す壁の一部が、ペンキを塗られて真新しかった。昨夜、ルゥナといた場所だった。僕が長々と惚けたように眺めていたからだろうか。アキハが僕のお尻を蹴った。
「‥‥ほら、しっかりしなさいよ。」
「‥‥ああ、ここだな。ここだった。」
僕は、地面に杖の後があるのに気付き愕然とした。
「‥‥マジかよ。」
「何よ。」
「この地面の凹み、昨夜ルゥナさんが杖をさした後だ。」
アキハは、その窪みを眺め僕に視線を返した。
「信じるよ。」
「夢でなかったのか‥‥。」
そこに自称、超常科学研究同窓会の三人が姿を見せた。
「おやおや、奇遇ですな。」
リヨが偶然を装った。
「こんなところで珍しい。」
アキハは、三人をあからさまに警戒していた。ランが探りを入れてきた。
「何かありましたか。」
「‥‥行くよ。」
アキハは、僕の服を引っ張って離れた。距離をとると吐き捨てるように言った。
「あの壊れ三人が。」
アキハの嫌悪する様子から三人と遺恨があるように見えた。
「今夜、学校に入ってみようよ。」
「えっ‥‥。」
昨夜のことを考えれば、僕は決断しかねた。
「‥‥二人でか。」
「そうね。」
ナミキに声を掛けた。夕食後の早い時間に待ち合わせた。校門は、施錠されていた。入れる場所も無かった。昨夜の出来事が想い返り、さすがに僕は気持ちが重かった。
「止めよう。」
「裏門に回ってみようよ。」
アキハは、そう言って先に歩き出した。僕はナミキと顔を見合わせて後に続いた。裏門近くは小高い山裾で神社があった。学校の外周に沿って道が続いていた。
「‥‥どうして、ここにいるんだ。」
「よくいうわね。」
「‥‥今、何時。」
「もう直ぐ昼よ。」
「‥‥えっ、パートは。」
「可愛い息子が昏睡しているのにパートに行けますか。」
「‥‥昏睡していた?」
「完璧に。」
「‥‥知らなかった。」
その朝、ベッドで昏睡状態だった僕を、起こしに来た母が見つけた。時折、その様な状態になるのを知っていた母は、取り敢えず経過を見ていたのだった。
向かいの窓が開き、アキハが顔を覗かせた。
「小母様。レイアの君、復活した。」
「有難う。今ご帰還よ。」
母は、陽気に返事した。
「そちらに、お邪魔してもいいですか。」
「ウェル・カムよ。」
アキハが来ると、母はその場を任せて昼の用意に下りた。
「アキハちゃんも、一緒に食べるでしょう。」
僕は、昨夜の生々しい出来事を覚えていた。目覚めて直ぐは現実の出来事と思えた。あれが夢なら現実と寸分も違わない世界に戸惑うばかりだった。僕は深く考えすぎたのだろう。昨夜のことが現実か夢なのか分からなくなって混乱した。三叉路で牛車から降りた後、誰も居ない家に戻った僕は、ベッドの中に倒れ込むように眠ってしまった記憶があった。
「どうしたの。難しい顔をして。」
アキハは、僕の状態を見定めていたのだろうか。探るように視線を向けて尋ねた。
「話しなさいよ。聞いてあげるから。」
「‥‥いやにリアルな夢を見ていた。」
「それって、本当に夢なの。」
「えっ‥‥。」
僕は、絶句した。アキハが、顔を寄せると真正面から目を覗き込んだ。
「君の瞳の中に女性の残像が、見えるよ。」
「‥‥よせよ。」
「はぁ‥‥、何。図星。」
アキハが腕を組んで笑った。
「素敵な夢を見たようね。」
「マジ、ヤバかった。」
僕は、迷った。昨夜の出来事を話すべきかどうか。アキハに話す理由も見つけられなかったが、話さずにいられない思いに駆られていた。
信じてもらえなくても話すことで気持ちが楽になるように思えたのだろう。
「‥‥凄い夢だった。」
僕は、嘆息しながらそう切り出した。それでも迷っていた。
「あれが夢なら、リアルすぎた。信じるかどうかは、お前の判断に任せる。」
そう前置きして僕は、覚悟を決め昨夜の一部始終を語り始めた。
「‥‥ルゥナさんの髪が白銀で、目が片方蒼い。牛車に乗った。深夜の校舎に見たことも無い先生がいた。‥‥それは、それは。」
最初、アキハは半信半疑だった。
「‥‥一生に一度あるかないかの体験でしたか。」
「ドン引きするなよ。」
「フッーは、引くでしょう。」
僕は、話が伝わせない歯がゆさに溜息をついた。
「最初は、現実と思った。でも、よく考えて見ると、家に誰も居ないし。お前の部屋の灯り消えてたし。不思議だろう。」
「昨夜も、一時近くまで起きていたよ。」
アキハは、不可解そうだった。
「君の部屋こそ、夕方から真っ暗だった。」
「‥‥真逆か。」
僕は、住宅地や街に人のいなかった様子を話し、深夜の学校での顛末を隠さずに語った。
「この前、裏門のことを言っていただろう。あの近くに異界への入口があるってルゥナさんが言った。」
僕の真摯な熱意が伝わったのだろう。途中からアキハは、明らかに受け応えが変わっていた。
話を聞き終えたアキハは、真面目な顔で僕を眺めていた。
「夢にしては、リアルすぎね。」
「‥‥あんなのが、現実かよ。」
僕は強気で言ったが、気持ちは揺らいだままだった。
「夢なら、納得できる。」
母は、昼よりパートに向かった。アキハに誘われて学校に行くことになった。自転車で向かう道中も、僕はあれこれと考えてしまった。
夏休みでも部活の学生は、多かった。サッカー部の練習をしている傍を通ると、タカシの姿が見えた。裏門の近辺は、誰も居なかった。
「ここに落書きがあったのよ。」
アキハが示す壁の一部が、ペンキを塗られて真新しかった。昨夜、ルゥナといた場所だった。僕が長々と惚けたように眺めていたからだろうか。アキハが僕のお尻を蹴った。
「‥‥ほら、しっかりしなさいよ。」
「‥‥ああ、ここだな。ここだった。」
僕は、地面に杖の後があるのに気付き愕然とした。
「‥‥マジかよ。」
「何よ。」
「この地面の凹み、昨夜ルゥナさんが杖をさした後だ。」
アキハは、その窪みを眺め僕に視線を返した。
「信じるよ。」
「夢でなかったのか‥‥。」
そこに自称、超常科学研究同窓会の三人が姿を見せた。
「おやおや、奇遇ですな。」
リヨが偶然を装った。
「こんなところで珍しい。」
アキハは、三人をあからさまに警戒していた。ランが探りを入れてきた。
「何かありましたか。」
「‥‥行くよ。」
アキハは、僕の服を引っ張って離れた。距離をとると吐き捨てるように言った。
「あの壊れ三人が。」
アキハの嫌悪する様子から三人と遺恨があるように見えた。
「今夜、学校に入ってみようよ。」
「えっ‥‥。」
昨夜のことを考えれば、僕は決断しかねた。
「‥‥二人でか。」
「そうね。」
ナミキに声を掛けた。夕食後の早い時間に待ち合わせた。校門は、施錠されていた。入れる場所も無かった。昨夜の出来事が想い返り、さすがに僕は気持ちが重かった。
「止めよう。」
「裏門に回ってみようよ。」
アキハは、そう言って先に歩き出した。僕はナミキと顔を見合わせて後に続いた。裏門近くは小高い山裾で神社があった。学校の外周に沿って道が続いていた。