第2話

文字数 6,851文字

 四ツ谷麹町十三丁目の袋物屋堀川屋の手代、佐吉。船番所の中に引き立てられた男は、唸るようにそう呟くなり瞼を拳でぐいと拭った。
 まだ三十にもならぬように見える御船手頭は困惑を隠せぬ様子で、南北両方の町奉行所の与力を部屋の隅に引っ張って行く。
「如何いたす、これでは解き放つしかあるまいて」
 取り押さえられた佐吉が懐に隠し持っていたのは、包丁でも匕首でもなく、粗末で小さな位牌だった。
「ごもっとも、これでは何の罪科にも問えませぬ」
 頷いたのは北町奉行所の与力村田新兵衛で、かつて清次をお縄にして島送りにしたのも北町奉行所である。
 捕らえたのは村田ではなく土地の御用聞きだが、この度の御赦免に立ち会うに当たって、清次が三宅島に流されるに至った経緯も当時の捕者帳を読み直して知っていた。
「あのような真似をしたのも、この者の心中を思えばそれがしも余儀なきことと……」
「なれどこのままお構い無しとするのは、些か気掛かりですな」
 難しい顔で首を傾げる相役の南の与力に、北の村田も頷いた。清次に詰め寄りかけた時の佐吉の目には、尋常ではない色が確かに浮かんでいた。
 あれは殺気だと思ったし、だからこそ村田は間髪も入れず佐吉を取り押さえたのだ。
 村田は角張ったいかつい顔に穏やかな笑みを浮かべて佐吉に歩み寄り、取り上げた位牌を差し出した。
「のう佐吉とやら、仇を討とうなどと大それたことを考えておるわけではなかろうな?」
 受け取った位牌を手の中で撫でるようにして、佐吉はぼそぼそと呟く。
「へえ、あんな毒虫一匹殺したところで、こいつが生きて帰ってくるわけじゃありません」
「その通りよ、決して短慮など起こすではないぞ」
 佐吉は声も出さずに笑った。
 口の端を歪めて、嘲笑としか言いようのない厭な笑い方だった。
「いえ、殺さぬと申し上げたのは、そんなことでは手前の気が済まないからですよ」
 そして顔を上げ、居合わせた役人らをぐいと睨み据えた。
「お上がお赦しになろうと、手前はあの屑野郎を死んでも許しません」
「聞き分けの無いことを言うでない、そなたも見たであろう、あやつも前非を悔いている様子だったではないか」
「悔やめばそれで許されるなら、妹はそれこそ死に損じゃありませんか」
 言いながら、佐吉は手の中の位牌に再び目を落とした。
「気持ちはようわかる、わかるがそなたがあやつに何かしてみよ、今度はそなたが科人になるのだぞ?」
 だから忘れろとは言わぬが過ぎた事にとらわれて生きるのはもう止め、今後は前を向いて生きたらどうか。心からの声でそう語りかけた村田に、佐吉は冷たい顔で首を振った。
「失礼ですがもし旦那のお身内の方が同じ目に遭っても、旦那は今おっしゃられたようにお思いになれますかね?」
 己の妻子の顔を思い浮かべて一瞬言葉に詰まる村田に、佐吉は血を吐くような声でさらに続けた。
「島でくたばった方がずっとましだったと、奴に必ず思い知らせてやりますよ」
 村田は何とも言えぬ苦しげな顔で溜め息をつき、南の与力と御船手頭の所に戻った。
「どうにも聞き分けがありませぬ、やはりこのまま解き放つわけには……」
「なれど、まだ何もしておらぬ者を縛って牢に入れるわけにも行かぬでしょう」
「我ら御船手組の役目は流人どもを送り届けることだけじゃ、かような者をどうするかは貴殿らに決めて貰わねば困る」
 若い船手頭は、余計な揉め事を抱え込まされて迷惑だと言わぬばかりだ。
 南北の奉行所の与力は互いに視線を交わし合い、その後で村田が答えた。
「奉公先の主を呼んでよう言い聞かさせ、あの者に間違いを起こさせぬよう命じるのが宜しいかと」

「馬鹿ッ、早う行かぬか!」
 清次はその声に背を叩かれるように駆け出し、気が付くと思案橋を渡って堀江町の辺りにいた。
 辺りの町並みを見回して、清次は片頬に苦い笑みを浮かべた。
 生まれた家のことは昔はあれだけ毛嫌いしていた筈なのに、帰る道はこの体が覚えてやがる。
 船番所を出た時に襲って来たのは生っ白いお店者で、刃物を持ってかかって来ようが清次なら軽く躱して片腕で叩き伏せてやれた筈だった。だがそうしなかったのは、もう二度と人を殴ったり痛め付けたりすまいと、心に固く誓っていたからだ。
 それで気が済むのなら、あの男に刺されてやっても良かった。
 そう思いながら逃げてしまったのは、自分のせいで泣きを見せてしまったであろう親兄弟の顔を一目見て詫びを言いたかったからだ。
 おれを殺すのはもう暫く待ってくれよと心の中で呟きながら荒布橋を渡ると、そこは魚市場のある日本橋北の賑やかな辺りだ。
 清次はずらりと並ぶ店から目を背け、行き交う人々を避けて道の隅を急ぎ足で前に進んだ。
 島暮らしの間は空腹でない時など一時も無かったから、流人たちはもし江戸に戻れたらあれを食いたい、これを食いたいという話ばかりしていた。清次もその一人だったが、いざ戻ってみると江戸はあまりに食い物で溢れ過ぎていて胸が悪くなりそうだった。
 御城の濠に突き当たり、竜閑橋を渡った先の鎌倉河岸も同じような人込みで、清次は俯きながら雑踏をすり抜けた。神田橋御門を過ぎるとその先はお大名や大身旗本の屋敷が並ぶ静かな武家地に変わり、清次は漸くほっと息をつけるようになった。
 そのまま御城の濠に沿って半蔵御門まで行くとまた麹町の賑やかな町屋に出るが、そこから紀尾井坂を下って喰違見付門を出れば、清次が生まれ育った四ツ谷仲町は目と鼻の先だ。
 二本の柱に横木を通しただけの、他の御門よりずっと簡素な冠木門の前で足を止め、一度強く目を閉じ息を深く吸う。そして深い水に飛び込むような覚悟でその外に足を踏み出した。
 何しろ昔が昔だから、町の皆にも随分と恨まれているだろうとわかっている。顔見知りの誰かに出くわしたら、どう罵倒されても仕方のない清次だ。
 そんときゃ、七重の膝を八重に折ってただ謝るだけだ。そう覚悟してここまで戻って来た筈なのだが、いざ昔住んでいた町を目の前にすると、胸の鼓動が激しくなるのはどうにもならない。
 六尺に近い体を屈め、あの頃から殆ど何も変わっていない表通りから新道に早足で入る。そして清次が生まれる前から辰三とお峰の夫婦がやっている魚屋の角を曲がれば、父と母の居る長屋がある筈だ。
 父親の久助は良い箪笥を作るとちょいと評判の指物師で、住まいも裏長屋だがありふれた九尺二間の狭いやつではなく、二階もある少し良いところを借りていた。
 中の狭い路地に足を踏み入れる前に、清次は長屋木戸を見上げた。頭上の横木には住んでいる者の名を記した小さな木札が並べて打ち付けてあるが、何度見直してもそこに久助の名は無かった。
 胸苦しさを覚えながら父と母が居る筈の入り口から三軒目の家を眺めてみるが、腰高障子に書いてある筈の大きな丸に久の字も無くなっている。
 行って確かめてみなければとは思うものの、膝が震えて足がなかなか前に出ぬ。
「あの、ちょいと……」
 横合いから声をかけられて我に返ると、魚屋のお峰がうろんな目で見ていた。
「やっぱり清次だ、あんたッ」
 鬼でも見たような顔で、お峰は店の中に転がり込んで行く。そしてそのお峰を後ろに庇い、亭主の辰三が出刃を引っ掴んで立ちはだかった。
「清次てめぇ、島抜けしやがったかッ」
 辰三は目を清次に据えたまま、重蔵親分を呼んで来いとお峰に言い付ける。
「待って下せえ。あっしはこの度、御赦免になったんでさ」
「何だと、嘘じゃあるめえな?」
「へえ、伊賀町の親分さんもご存じのことと思いやす」
 伊賀町(ところ)の重蔵親分とは、この辺りで知らぬ者のない土地の岡っ引きだ。
 上さまが代替わりしたのは辰三も知っていたから、お上も罪なことをなさると苦い顔で呟きながら出刃を下ろした。ただ刃の先を下げはしたものの、包丁はまだ手に握ったままだ。
「昔のあっしは箸にも棒にもかからねえ馬鹿野郎で、皆さんに迷惑ばかりかけて申し訳なかったと心から悔やんでおりやす」
 ただそう言うだけでなく、清次は腰を折り頭を深く下げ続けた。
 が、辰三は唾でも吐きたげな顔でそっぽを向く。
 その辰三の背後から、お峰が白髪の混じる頭を怖々と出した。
「清次あんた、おとっつぁんとおっかさんに会いに来たんじゃないのかい?」
「へえ」
 清次は漸く顔を上げ、尋ねるように長屋木戸の奥に目を向ける。
「あんたがあれだけの事をしでかしたんだ、町に居続けられるわけないじゃないか」
 喋るうちにふつふつと怒りが沸いてきたのか、お峰は次第に身を乗り出してきた。
「可哀想にお登与さん、あんたがお縄になると半病人みたいになっちまってさ。久助さんも白い目で見られて仕事はまるで来なくなるし、あんたの妹だっていうんでお里ちゃんまで近所の子らに苛められてたんだよ」
 その後をさらに辰三が引き継ぐ。
「で、おめぇが島に流されるちょっと前に、夜逃げするみてえに居なくなってたのよ」

 お前のおとっさん達が何処に行ったか知らねえし、それは町の皆も同じだろうさ。
 目の前が滲んでくるのを歯を食いしばって耐える清次に、辰三はさらにこう付け加えた。
「わかったらとっとと消えるこった。もうすぐ日が暮れらあ、皆が帰って来たらおめえ、袋叩きにされるだけじゃねえ、簀巻きにされて濠に放り込まれかねねえからな」
「けどあっしは……」
 町の皆さんにも一言謝りてえと言いかけた清次を遮って、辰三は首を振った。
「謝って済むことと済まねえことがあらあ、なあ?」
 清次は強く目を閉じ、もう一度深く頭を下げて生まれ育った町を後にした。
 その背に、辰三は出刃より鋭い声を投げる。
「いいか清次、この町の土をもう二度と踏むんじゃねえぞ!」

 暫くの間、清次は何も考えることが出来ず、足に任せてただ闇雲に歩いた。そして仲殿町の辺りまで行ったところで、四ツ谷御門に近い大横丁に父方の伯父がいたのを思い出した。
 その長吉は昔から清次を出来損ない扱いして、兄の善太と比べては小言を繰り返す嫌な伯父だった。それだけに清次が顔を出そうものなら、どう罵倒されるかわかったものではない。
 それはわかっていたが、親兄弟の居所を知る者と言えば、その伯父くらいしか思いつかなかった。
 何て言われようと悪いのはおれなんだ、誠心誠意詫びるしかねえ。そう腹を括って、清次は大横町の伯父を訪ねた。
 長吉も清次の父と同じで腕一本で生きてきた指物師だが、それだけに普段から頑固で愛想一つ無い。
「あッ、てめえ!」
 小腰を屈めて戸口から顔をのぞかせた清次に、長吉は傍らの鑿や鏨をひっ掴むのも忘れ、肩を怒らせ拳を握り締めて上がり口までどたどたと駆けて来る。
 清次は戸口の外で跪き両手を地べたにつけ、御赦免になったことを告げてこれまでのことを詫びた。
 しかし長吉はそれすら遮り、赤ら顔を更に血の色を上らせてがなり立てる。
「とっとと失せやがれこの疫病神め、てめぇ一人のせいで、皆がどれだけ泣きの涙を見せられたと思ってんだッ」
「わかっておりやす、それは重々わかっておりやすが、せめておとっさん、おっかさんが今何処でどうしてるかだけでも……」
 それを聞くまでは殴られても蹴られても帰らぬ覚悟で、清次は額を敷居に擦りつける。
 が、どちらもされぬ代わりに荒い息が聞こえ、暫く後で押し殺したような妙に低い声が返ってきた。
「おめぇ、仲町の家にはもう行ったな?」
「へえ」
「ならあらましは聞いたろう、話すことなんざねえ」
「せめて教えておくんなさい、おっかさんは今どうしてるんでしょう、体の具合はどうなんで?」
「うん、あん時のお登与さんは気の毒だった」
 もしやと青ざめる清次に、長吉は冷たい顔のまま首を振った。
「いや、一時はこのまま死んじまうんじゃねえか……ってくらい(てえ)変だったが、何とか持ち直したぜ」
 思わずほっと息をつく清次を、長吉は目を剥いて睨む。
「だがおめぇ、お里ちゃんのことは知っちゃあいめぇ?」
「お里のことって、お里がいってえどうしたんで!」
「わからねえか、お登与さんは寝込んじまって医者にも診せなきゃならねえが、久助はおめぇの事で仕事を干されちまって、薬礼などとても払えねえ。で、お里ちゃんが給金を前借りして水茶屋に奉公に出るしか無かったのよ」
「兄貴は、善太の兄貴はどうしたんでッ」
 清次とは違い昔から出来の良い子だった善太は麹町でも指折りの両替商に奉公し、手代の筆頭にまで昇進していた筈だ。
「暇を出されたのよ。身内に流人がいる奴なんざ置いておけねえ、お(たな)の信用にかかわる……ってな」
 話を続ける前に、長吉は太く長い溜め息をつく。
「そうなりゃ、どうしたってお里ちゃんが稼ぐしかねえだろ。お登与さんが寝たり起きたりの半病人みてぇな有り様なのは、今も変わらねえからな」
 最後に顔を見た時にはまだ十五にもなっていなかったが、妹のお里はその頃から評判の器量良しだった。吉原や岡場所に身売りしたわけではないにしろ、酷く辛い思いをさせているに違いない。
 額を地べたに擦りつけたまま低く呻いた清次に、さらに容赦の無い言葉が降ってくる。
「わかるか。みぃんな、てめぇのせいだ」
 会って詫びたい。胸が苦しくなるほどそう思った。これまでにかけた苦労と迷惑の何万分の一にもなるまいが、何をしてでもして償いたいと痛いくらいに思った。
「教えて下せえ、皆は今どこに?」
(けえ)れッ」
 唾を飛ばしながら、長吉はすぐ目の前の土間に下り立つ。
「てめぇが舞い戻って来やがったってだけで、どれだけ迷惑なのかわからねえのか。あン時と同じ嫌な辛い思いを、皆にまたさせるつもりかッ」
「お(ねげ)えだ、せめて今……」
 どうしているかだけでも聞かせて下せえと言う前に、障子戸が音を立てて閉められた。
 さらに心張り棒をかう音も聞こえ、障子越しに長吉が怒鳴った。
「親兄弟を思う気持ちがちょっとでもあるんなら、いいか、このまま消えて二度とその面を皆の前に出さねえでくんなッ」

 只っ広い紀伊家の上屋敷に面した喰違見付の辺りは、昼でさえ人通りはそう多くなく、日が暮れれば江戸の真ん中とも思えぬほど寂しい所になる。
 心中は向島で身投げは吾妻橋、犬に食いつかれるのが谷中の天王寺で首縊りなら赤坂の喰違い。
 御城の外濠に沿う道を足を引きずりながらのろのろと歩く清次の頭に、ずっと前に芝居か何かで昔聞いた言葉がふと浮かんできた。
 言えてらあ、おれなんざ島で野垂れ死んじまった方が良かったんだ。そのことに気付かずに御赦免船に乗ってしまったことを、清次は心から悔いた。
 親たちの行方を知っていそうな身内と言えば、あと浜町堀近くの籠細工師に嫁いだ母方の叔母がいた。
 しかしその叔母はともかく、亭主の方とは血の繋がりは一滴もないわけで、そこに島帰りの甥がぬうっと顔を出したら叔母がどれだけ困るかなど、考えてみるまでもなくわかる。
 ただ困るだけならまだ良い、籠細工師の亭主に叔母が後で酷く責められでもしたらと思うと、あえて訪ねてみる勇気などとても出てこなかった。
 親兄弟を思うなら、このまま消えて二度とその面を出さねえでくんなッ。
 先ほど長吉伯父に言われたことが、胸に深く突き刺さる。清次は行くあても無いまま足を止め、濠の暗い水の底をぼんやりと覗き込んだ。
 今いる紀伊国坂の下の赤坂伝馬町の賑わいを遠くに聞きながら、おれはこの世で本当にたった一人なのだと、清次は島でも感じたことのないほど強烈に感じていた。

「全く馬鹿なことをしてくれたものだ、お前は店を潰す気かい」
 船番所から帰る途中の道々でも店に着いた後も、堀川屋徳兵衛は繰り返しこぼし抜いた。
「いくら相手は島帰りの極悪人だって、お上がお赦しになったんだ。それをどうにかしようなんて、お上に楯突くのと同じですよ」
 佐吉はその度に頭を下げ、相済みませんでしたと繰り返す。
 解き放たれて出て来る清次の顔を見た瞬間、頭の中が灼けるように熱くなって、取り押さえられた後も船番所の役人やお町の旦那方にまで食ってかかった。
 が、主人の徳兵衛が呼ばれて身柄を引き取りに来るまでに、佐吉の頭もかなり冷えていた。
 だから徳兵衛が例の決まり文句、
「お前の辛い気持ちはわかりますよ、ええ」
 というやつを取り繕うように口にした時も、ただ黙って俯いていた。
 ふざけんな、何もわかっちゃねえくせにッ。
 そう怒鳴りつけてやりたい気持ちは、胸の奥の深いところに押し殺して。
「だがお前は商人(あきんど)なんだ、お侍じゃあるまいし、仇を討とうだとか馬鹿なことは二度と考えるんじゃありませんよ」
「はい、もう金輪際致しません」
 佐吉には殆ど寝たきりの父親がいて、その源造と生きて行くには堀川屋で働かねばならぬことくらい、佐吉もよくわかっていた。
 しかし報復を諦めるつもりも、これっぽっちもなかった。
 誰が何と言おうと清次を捜し出し、死ぬより辛い目に遭わせてやる。
 徳兵衛の前に両手をつきもう一度頭を下げながら、佐吉はそう心に誓っていた。
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登場人物紹介

清次……三宅島から戻って来た島帰りの男。昔は四ッ谷の狼とも呼ばれたかなりの悪だったらしいが、今は売られた喧嘩すら買わず、堅気になろうと懸命に働く。三十過ぎくらいの、渋い良い男。

安平……同じ三宅島に流されていたやくざだが、一見すると人当たりは良い。しかし芯は冷たい根っからのやくざ者。

松蔵……元は清次の子分で、悪だった清次に憧れていた。今は本物のやくざになり安平の弟分で、堅気になろうとしている清次に失望している。

伊勢崎屋友五郎……口入れ屋の主。田舎から出て来て一代で店を持つに至る、それだけの男だから仕事には厳しいが、人情に厚い義理堅い男。

お美代……友五郎の娘で伊勢崎屋のお嬢さん。たまたま行き倒れていた清次を拾う。最初から清次に好意的で周囲が心配するほど良くなついている。

森田屋幸助……お美代と兄妹同然に育ち、今は許嫁の間柄。最初は気にしないでいたが、次第にお美代と清次の仲が気になってくる。

徹太……伊勢崎屋の人足で最も若い、威勢の良い者。それだけに、自分の男を見せつけようと、島帰りという清次に無闇に突っかかって喧嘩を仕掛ける。

重蔵……かつて清次をお縄にした岡っ引き。清次を目の敵にして、清次が赦されて戻って来た今も散々嫌がらせをしている。

佐吉……堀川屋という袋物屋で働く真面目なお店者だが、わけあって清次を深く恨み、何度も清次の前に姿を現す。

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