第7話

文字数 6,788文字

「実はな、おめえにも一枚噛んで貰いてえ仕事があるのだ」
 親分の三五郎に呼ばれてそう囁かれた時、安平は二つ返事で頷いた。
 何しろ仲町を皮切りに、櫓下、裾継、築出新地、石場に土橋、そして海の向こうの佃と、深川の花街はほぼ遊び尽くして、酒も女も当分要らねえと本気で思い始めていたのだ。
 そうと察してか三五郎は、微苦笑を片頬に浮かべる。そして長火鉢の猫板に手をついて立ち上がると、長脇差を帯に落とし差しにねじ込んだ。
「ついて来い。まず見て貰わにゃ、話が始まらねえ」
 弥勒寺の斜向かいの家を出た三五郎は、まず安平、それに一家の若いのを数人従えて北の竪川を渡った。そして本所二ツ目の、貧乏御家人の屋敷がごちゃごちゃ寄り集まっている辺りの武家に、慣れた足取りでずんずん踏み込んで行った。
 三五郎は藤堂佐渡守の下屋敷近くの、庭には雑草だらけで屋根の瓦も所々落ちている破れ屋敷の裏の木戸を、己が地所であるかのように押し開けた。
「ちょいと、いいんですかい?」
 流石に少し躊躇う安平に、三五郎はにたりと笑って頷く。
「構わねえから(へえ)れ」
 薮だらけの屋敷地の隅には壁が所々崩れかけた土蔵があり、三五郎はその引き戸を叩いた。
「おれだ」
 ややあって引き戸が重たげに細く開き、その内側から顔を覗かせたのは、安平も見覚えのある一家の者だった。
 黴臭い蔵の中には目ぼしいものと言っても古ぼけた長持ちや鎧櫃、それに埃だらけの箪笥くらいしか無かったが、ただ床下の土を掘り抜いて穴蔵が作られていた。
 その穴蔵に続く隠し扉を開ける時、三五郎は手拭で鼻と口を覆った。
「中では息をしちゃいけねえ、おめえまで阿呆になっちまうからよ」
 同じようにして階段を降りた安平だが、掲げた蝋燭の仄暗い光に浮かび上がる光景に思わず息を呑んだ。茣蓙を一面に敷き詰めた床には、十人を越える男と女が横たわって煙管をふかしている。
 職人風の男にお店者、それに水茶屋女にどこかの女房と、そこに居る者は様々だった。しかしみな焦点の合わぬ目を宙にさ迷わせ、だらしない笑みを浮かべていた。緩んだ口元から涎を垂らしている者も少なくないし、女も裾がはだけ中が見えかけていてもまるでお構いなしだ。
 こいつら、本物の阿呆だ。目覚めたまま、正気で夢を見てやがる。
 その恍惚とした表情を見て、安平は背筋が冷たくなるのを感じながらそう思った。
 穴蔵には彼らの煙管から立ち上る煙が満ち、安平は鼻と口を覆う手拭越しに漏れてくる濃く甘く、そして禍々しい臭いに胸が悪くなった。
「おい、行くぜ」
 三五郎に袖を引かれ、安平は穴蔵から逃げるように階段を上がった。
「一体全体、あれは何なんで?」
 隠し扉を出て煙から逃れるなり尋ねた安平に、三五郎はにたりと笑った。
「阿芙蓉ってやつだが、平たく言えば罌粟の実の汁を煮詰めて乾かした粉よ。見ろ」
 三五郎が懐から出した二つの紙包みには、それぞれ焦げ茶色の塊と白っぽい粉が包まれていた。
「こっちの花林糖みてえな方は、まあ下し腹の薬のうちなんだが、こいつをうんと濃くして粉にした方を吸うと、極楽の夢を見られるのだ」
 どれだけ良い夢を見られるかは、脳裏に焼き付いている下の穴蔵の者らの顔だけで安平にも容易に想像がついた。
「ところが薬が切れるとな、待ってるのは地獄の苦しみよ。酒のねえ国の飲み助なんてものじゃねえ」
 一度病みつきになると、死ぬまでこいつから離れられなくなるのよ。そう言いながら、三五郎は白い粉を乗せた掌を安平の目の前で振った。
「そいつはまた、どえらく(ふて)え金の蔓を掴みやしたね」
「これを買う為なら掻っ払いでも何でもするし、娘や女房だって叩き売る。女なら喜んで股を開くぜ」
「罌粟がそんなすげえ金の生る木だとは、あっしも夢にも思いやせんでした」
 が、そこで三五郎の表情が少し陰る。
「ただな、肝心の罌粟の実の汁を煮固めるところまではこの国でも出来るが、こっちの粉にする方法は南蛮人しか知らねえのだ」
「え、するってえと、こいつは……」
 すっと顔から血の気が引く安平の耳元で、三五郎はぬるりと囁いた。
「そうよ、南蛮渡来の抜け荷の品さね」
 松浦党の海賊の末裔を自称する長崎の親分が、清国の商人から手に入れたこの阿芙蓉を江戸でも売り捌こうと思い立ち、それでまず白羽の矢を立てたのが、海沿いの深川を縄張りにする三五郎というわけだ。
 深川はただ海に面しているだけでなく、堀や川が入り組んでいるから、密かに荷を上げる場所ならばいくらでもある。それに深川七場所と言われるほど花街も多く、遊びたい者が金を持って大勢集まって来てもいた。さらに大川の向こう岸で元は江戸の外と言われていた場所だから、お上の目もやや緩くなっている。
「まあ試しに使ってみてくれと渡された分だけ捌いてみたのだが、驚いたぜ、そのたった一斗の粉がたちまち千両箱二つに化けた」
「で、その取引の話、お受けになったんで?」
「受けてえと思ったさ、だがな……」
 何しろ扱うものが、人を生きた屍同然にする恐ろしい粉だ。同じ抜け荷でも、珊瑚やギヤマンと言った綺麗なだけの物とはわけが違う。
「この粉のことがお上に知れてみろ、おれたちゃ血眼になって追い回されて、揃って三尺高い所に首を晒されちまう」
「ですが金の生る木を黙って手放すのは……」
「ただ惜しいだけじゃねえ、もたもたしてる間に他所(よそ)の芝や品川辺りの一家に横取りされたらどうなるよ」
 この南蛮渡りの薬を一手に仕切れさえすれば、その金の力で江戸一番の親分になれるとわかっている。ただ江戸の海は、何も弥勒の三五郎一家の縄張りと決まっているわけでもない。
「だからこの仕事を任せられるだけの度胸と頭があって、万が一お縄になって石を抱かされようが海老責めにされようが、間違っても口を割らねえような男を捜してるのよ」
 そこで言葉を切り瞬き一つせず見詰める三五郎に、安平の胃がきゅっと縮んで冷たくなった。御赦免になってからずっと好きなだけ飲み食いさせ、女も抱かせ続けてくれた理由が、ようやくわかってきた気がする安平だ。
「……それがあっしだとおっしゃるんで?」
 これは死ねと言われてるようなものだと覚悟しかけた安平だが、三五郎は即座に首を振った。
「おめえが頼れる確かな奴だってこたぁ、よくわかってら。だがおめえはおれの身内と、お上だって充分承知だ」
 おめえが御用になりゃ、一蓮托生でおれンとこにも捕り方が押し寄せて来るに違えねえ。
 舌打ちしそうな顔でそう言って、三五郎はさらに続けた。
「だから一家の身内じゃあねえが当てに出来る確かな男を、おめえに捜して欲しいのよ」

 船で江戸に運ばれて来る荷は、何も米だけではない。酒に醤油、酢、塩、油、それに干鰯など、伊勢崎屋の人足が担ぎ揚げるべきものは幾らでもあった。
 例えば油樽一つの中身は三斗九升と決められていて、それだけでも十九貫(約七十キロ)になる。
 清次はそれを、来る日も来る日も黙々と運び続けた。
 相変わらず清次にはきつく当たり続けている小頭の猪吉だが、清次が率先して重い荷を運ぶようにしているから、怒鳴りつける隙も殆ど無くなっていた。
 他の人足らも、見かけ倒しのだらしねえ野郎めと初めのうちは清次を馬鹿にしていた。しかし一人前以上の仕事が出来るのなら文句はねえと、今では邪魔にもしないが相手にもしないといった風で、大体は放っておかれている。
 まだ仲間扱いされていないことを、清次は別に不満に思ってはいなかった。
 おれみてえな者が、世間さまに人並み扱いして貰おう……って方がどうかしてんだ。
 いじけるのでも卑下するのでもなく、清次は心からそう思っていた。
 だから昼飯時にも皆の輪の中に加われずに、少し離れた所で一人で飯を頬張っていても、別に寂しいとも思わなかった。
 が、ふと耳に飛び込んで来た徹太の尖った声に、清次はつい聞き耳を立ててしまった。
 その徹太は周りの者たちの殆ど冷やかしに近い忠告に、口の中の飯粒が飛び出すのも気づかずに言い返している。
「だから言ってんだろッ。夕べはたまたまついて無かっただけだって!」
「たまたまっておめえ、じゃあいつついてたよ?」
「そうよテツ、おめえ、殆ど負けっ放しじゃねえか」
「三五郎一家の賭場はおめえにゃまだ(はえ)えって、あそこは大人の行く所だ」
「うるせえ、うるせえ、うるせえッ。おれを餓鬼扱いしやがるとただおかねえぞ!」
「ほおら、そういうとこが餓鬼だってんだよ」
「お袋さんが泣いてたぞ、本物のやくざになっちまったら困る、どうしよう……ってな」
「ほんとになあ、姉ちゃんは別嬪だし弟は出来が良いってのに、どうしておめえだけこんなだか」
 皆に悪気は無いし、凄んで見せてもそう怖くない徹太が真っ赤になって怒るのが面白くてついからかいたくなるのもわかる、わかるが清次は黙ってはいられなかった。
 清次は自分でも気づかぬうちに立ち上がり、徹太に歩み寄って肩に手をかけていた。
「悪ぶるのは止めておけ。やくざなんざ、実際なってみりゃあちっとも良いもんじゃねえ」
「何だとテメェ」
 振り向いた徹太の目が据わり、握り締めた拳が震えていた。
「思うところはおめえにもいろいろあるだろうよ、だが親兄弟に泣きを見せちゃいけねえぜ、後できっと……」
 その後の言葉は飛んで来た拳に断ち切られ、清次はのけ反りかけたが奥歯を噛み締めて堪えた。
 徹太はさらに両方の手で殴り続け、その度に清次の顔が右に左に揺れた。
 徹太は夕べも仲町の例の賭場ですってんてんにされた上に、帰ると二親に説教を食っていた。さらに仲間に姉や弟と較べられて膨れ上がった苛々と鬱屈を、徹太は清次にすべてぶつけた。
 しかし清次は殴り返すでも避けるでもなく、己の体でそれを受け止めた。両足を踏ん張り、一歩も退かずに殴られている清次に、一度は腰を上げかけた人足も止めることすら忘れ、目を丸くしたまま動けなくなっている。
「……すげえな、おい」
 誰かが呻くようにそう言ったが、圧されて負けているのはむしろ徹太の方に見えた。
 たまりかねた徹太が顔でなく腹に拳を叩き込んだ時だけ、清次は体を僅かに折って低く呻いた。
「馬鹿野郎ッ、何してやがる!」
 道の向こうから友五郎が目を三角にして飛び込んで来たのは、ちょうどそんな時だった。

 店の上がり框に座らせた清次の顔の血を、お美代はぬるま湯に浸した晒しでそっと拭った。ただ唇が裂けて潰れているだけでなく、頬桁や目の周りにも痣が出来かけているのが痛々しい。
 そんな有り様なのに、お美代に傷の上を拭われても清次は眉ひとつ動かさない。
 黙ったままやや俯いて、清次はただひどく辛く悲しげな顔をしていた。
「痛いでしょ」
「いや」
 首を振った後で、清次は微かに苦く笑う。
「これくらい、どうって事ありやせん」
「嘘、じゃあどうしてそんな顔してるの?」
 清次は初めて顔を上げ、お美代に問い返すような目を向ける。
「気づいてないの? 清さんが笑った顔、あたしまだ一度も見たことない」
 言われて清次は頬の辺りを緩めかけたが、その無理に作った笑顔はたちまち酷い痛みを堪えるような苦しげなものに変わる。
「いいんでさ、あっしなんざ……」
 そこで口を噤んで足元に目を落とす清次だが、何を言うつもりだったかお美代はすぐに察した。
 あの朝、柱に頭を打ちつけては死にてえと呟いていた。その時の清次の姿が、お美代の脳裏に鮮やかに蘇る。
 友五郎にはまだ知らん顔して放っておけと言われていたが、お美代は言わずにはいられなかった。
「よっぽど辛い思いをしてきたのね、今まで」
「いや、人さまにさんざ辛い目を見させて来たのはあっしの方でさ。それを思えばこのくらい、本当に何でもありやせん」
 そして一旦言葉を切って、むしろ余計に悲しげにしか見えない笑顔を無理に作る。
「人に殴られる痛みを今さらわかったところで、何の罪滅ぼしにもなりやせんがね」
「でもあの子がこんな真似していい、何の理由にもならないと思うけど?」
 清次の顔の酷い有り様を見れば見るほど、徹太に腹が立ってならないお美代だ。
 が、清次はその徹太の為に頭まで下げる。
「あいつのことですが、どうか叱らねえでやって下せえ。奴にはまだわからねえだろうが、あいつの方が後でずっと辛くなる筈なんでさ」

 そのことをお美代がそっくり告げると、友五郎は長く唸って暫くものも言わぬ。
 宙を睨んでそのまま考え込んでいる父親に、お美代は構わず続けて喋った。
「わかった、なら叱らないでおく……って言うとね、清さん、徹太を許して下さるよう、あたしからもおとっさんにお願いして下さいって言うの」
 清次は繰り返しそう頼み続け、お美代が首を縦に振るまで体を休めようともしなかった。
 友五郎はようやく唸るのを止め、お美代ではなく後ろに控えていた猪吉を振り向いた。
「思ってたよりずっと凄え奴のようだな」
「最初はとんだ厄介者に舞い込まれたと思ってやしたがね、今じゃあこいつは拾い物だったかも知れねえって思ってやす」
 日々陰日向なく骨身を惜しまず働く様子を、猪吉も己が目で確かめている。
「そうかい、猪吉(いの)の眼鏡にも適ったか」
 ちらりと笑いかけた後で、友五郎はまた表情を引き締めた。
「本当に生まれ変わった気でやり直そう……ってなら良いんだが、な」
 もう信じてやっても良いような気もするが、友五郎は清次の肚が据わり過ぎていることが妙に心に引っ掛かった。人をいろいろ見ているだけに、もしかしたらとんでもない大悪党かも知れぬとも思いかけてしまう友五郎だ。
「何言ってんの、清さんはほんとにそのつもりなんだから!」
 昔のことで死ぬほど苦しんでるのを、おとっさんだって見ていたのに何でわかんないのと、お美代はちょっと苛立った声を上げる。
 が、今はそれより徹太の方にもっと腹を立てていた。
「でも頭に来ちゃうな、あの子ったらほんとに何を考えてんだろ。もう口をきいてやらないんだから」
 叱らない約束はしたけれど、口もきいてあげるなんて言ってないと、お美代は妙に子供っぽい怒り方をする。
 そんなお美代に微苦笑しつつ、友五郎は目を猪吉に転じた。
「テツの野郎か。若えうちは皆あんなもんだが、ちょいと気にはなるな?」
「へい、あっしもよく気をつけておきまさ」

 やり過ぎだと自分でもわかっていたが、一度火がついてしまった気持ちを徹太はどうにも抑えられなかった。何も聞こえず何も考えられないまま、目の前の清次の面をただ殴り続けた。
 猪吉の毛むくじゃらな太い腕に羽交い締めにされ、どうもがこうが身動きが取れなくなって漸く周りが少し見えてきた。
「この馬鹿めッ」
 鼻先まで顔を近づけ、友五郎は殴りつけそうな勢いで叱りつけるし、背後の猪吉は徹太の肩の骨がきしむほど強く締め上げてくる。
「わかった、わかりやしたよ、勘弁して下せえ、すんません」
 泣くような声で詫びを入れて締め上げられていた両肩がようやく緩み、見回すと仲間の人足らもみな責めるような呆れ顔で自分を見ているように思えた。
 八丈の奴が悪いんじゃねえ。その事は、心の底では徹太にもわかっていた。だが皆の前で泣きを入れてしまったことで、恥をかかされ面子を潰されたという思いの方が先に立ち、徹太はその後はずっとふくれっ面をしていた。そして今日の分の日当を受け取るのを待ち兼ねたように、仲町の例の賭場へとすっ飛んで行った。
 今夜こそ大勝ちして、目の前に小判を積み上げて皆をあっと言わせてやらにゃ気が済まねえ。そうすりゃ親父やお袋も、済まなかった、これからはおめえが頼りだと頭を下げらあ。
 その意気で木札(こま)を張ったのだが、丁と張れば賽の目は四一(シッピン)の半、半と張れば五五(グゾロ)の丁といった具合で、元々軽い徹太の懐はたちまち空になる。
「兄い、頼んます、木札を回して下せえ!」
 賭場の隅で睨みを効かせている顔見知りの三五郎一家の松蔵に、徹太は頭を下げて頼み込んだ。
 が、松蔵は薄い唇に憫笑を浮かべてそっぽを向いた。
「良い子はおねんねする時分だ、おめえは深みにはまって火傷する前におっかさんのとこに帰れ」
「厭だッ」
 仲間にも小判を見せつけてやらねばどうにも気が済まないから、徹太は畳に頭を擦りつけ、必死の面持ちで懇願する。
「お願えだ、あとひと勝負、ちょっとだけで良いから貸してやって下せえ!」
「それは構わねえが……」
 おめぇには質にできる物もねえだろうと言いかけて、松蔵はこの悪太郎には雑司ケ谷の鬼子母神近くの料理茶屋で働く、ちょいと綺麗な姉がいることを思い出した。
 代貸に耳打ちして一握りの木札を徹太に渡す前に、松蔵はじっと目の中を見据えて言い聞かせた。
「おれは止めとけって言ったぜ。いいか、忘れんなよ?」
 しかし受け取った駒を握り締める徹太の目は、壷振りの指の間の賽に釘付けになっていた。
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登場人物紹介

清次……三宅島から戻って来た島帰りの男。昔は四ッ谷の狼とも呼ばれたかなりの悪だったらしいが、今は売られた喧嘩すら買わず、堅気になろうと懸命に働く。三十過ぎくらいの、渋い良い男。

安平……同じ三宅島に流されていたやくざだが、一見すると人当たりは良い。しかし芯は冷たい根っからのやくざ者。

松蔵……元は清次の子分で、悪だった清次に憧れていた。今は本物のやくざになり安平の弟分で、堅気になろうとしている清次に失望している。

伊勢崎屋友五郎……口入れ屋の主。田舎から出て来て一代で店を持つに至る、それだけの男だから仕事には厳しいが、人情に厚い義理堅い男。

お美代……友五郎の娘で伊勢崎屋のお嬢さん。たまたま行き倒れていた清次を拾う。最初から清次に好意的で周囲が心配するほど良くなついている。

森田屋幸助……お美代と兄妹同然に育ち、今は許嫁の間柄。最初は気にしないでいたが、次第にお美代と清次の仲が気になってくる。

徹太……伊勢崎屋の人足で最も若い、威勢の良い者。それだけに、自分の男を見せつけようと、島帰りという清次に無闇に突っかかって喧嘩を仕掛ける。

重蔵……かつて清次をお縄にした岡っ引き。清次を目の敵にして、清次が赦されて戻って来た今も散々嫌がらせをしている。

佐吉……堀川屋という袋物屋で働く真面目なお店者だが、わけあって清次を深く恨み、何度も清次の前に姿を現す。

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