第9話

文字数 7,090文字

 その夜、清次はなかなか眠れなかった。体は疲れているのだが、横になっても目は冴えるばかりだ。
 理由はわかっている。昨日今日と、あの徹太のことを考え過ぎたせいだ。
 それでも働いている時はぼんやりしていたら危ないし、自分の不注意で他人に怪我をさせてしまうわけにはなおさら行かない。湯に浸かり飯を食う時だって、会話には殆ど混ざらないにしても皆と一緒だから、一人で物思いに耽っているわけにもいかなかった。
 だが皆が寝静まり暗い中で床に就くと、今の徹太と同じ年頃だった時分の思い出したくも無い記憶が脳裏に蘇って来てしまう。
 厭だ、消えろ、もう止してくれッ。
 そう叫び出したい気持ちを歯を食いしばって必死に堪えるのだが、忘れたい過去の忌まわしい記憶ばかりが、回り灯籠のような鮮やかさで堅く閉じた瞼の裏に意地悪く繰り返し映し出されるのだ。
 現に目の前にあるものならば目を閉じて見なければ済むが、頭の中に蘇る記憶から目を逸らすことは決して出来ない。
 清次は夜具の下で身悶えしていたが、やがて胸が苦しくなり息もできなくなって布団から半身を起こした。
 昔の記憶を追い出したい一心で、清次は両手の拳で己の頭を繰り返し殴り続けた。
 少し前には徹太にも手酷く殴られたばかりだ、拳をぶつける度に目が眩むような痛みが頭の中を貫いた。だがその瞬間だけ厭な記憶がどこかに飛んで行ってくれるから、清次は己に拳を振るうのを止めることができなかった。
 間もなく痛みは酷い吐き気に変わり、もしかしたら死んでしまうかも知れないと思った。
 それが一番だ、このまま死んじまえば楽になれるじゃねえか。
 清次はふらつきながら立ち上がり、暗がりの向こうにぼんやりと見える太い柱に目を据えた。そして一つ深く息を吸い、頭を低く下げてそこに体ごと思い切りぶつかって行こうとした時、柔らかで小さな体に後ろから抱き止められた。
「何してるの、駄目」
 耳元で聞こえた囁くようなその声だけで、伊勢崎屋のお嬢さんだとすぐにわかった。
「痛いの? 苦しいの? でも大丈夫だから、もう大丈夫だから」
 万年橋の袂の稲荷神社で行き倒れていた自分を見つけて手を差し伸べてくれたあの時と同じ優しい声に、足と膝の力が一度にスッと抜け、清次はぺたりとその場に座り込んだ。

 その夜眠れないでいたのは、実はお美代も同じだった。
 徹太にあれだけ酷く殴られたのに、清次はその後ちょっと休んだだけで、次の日には朝早く起き出して働きに出ると言い出した。
「なあに、大丈夫でさ」
 清次は片頬に僅かな笑みを浮かべてそう言うし、友五郎や他の店の者たちも殆ど気にもしていないようだった。
 荷揚げ人足は何しろ気の荒いのが多いから、おとっさんや皆が多少の喧嘩騒ぎには慣れっこになっているのもわかる。だがあの腫れ上がった顔を見ても大して気にしている様子が無いのが、お美代には理解しがたかった。
 それで自分だけでもと思い、ずっとそれとなく様子を窺っていたのだが、今日の清次はやはり普段とはどこか違って見えた。
 食事の間やその後の団欒の時も、清次はいつも殆ど自分から喋ったりせず、問われたことに言葉少なに答える程度だ。だが人と交わるのを避けて嫌うというのではなく、人の輪から少し離れて、あの物悲しげな微かな笑みを浮かべて皆のお喋りに耳を傾けているのが常だった。
 だが今夜は違った。夕食時にもその後も、清次は妙に暗い顔でぼんやりしていることが多かった。
「ね、どっか痛むんじゃないの? 気分は悪くない?」
 頭をひどく打つと後で命にかかわることにもなりかねないと聞いたことがあるだけに、お美代は心配でならない。
「いえ、何でもありやせん」
 問われた清次は例の微苦笑を浮かべて首を振るが、気づけばまた憂い顔で目を宙にさ迷わせている。
 その清次のことが気掛かりで寝付けずにいると、襖の向こうからひどく苦しげに呻く声と何か鈍い音が聞こえてきた。
 夜着の端を強く握り締め、お美代は暫くじっとその声と音に耳を澄ませていた。
 が、耐え兼ねて襖をそっと細めに開け、その向こうに妙に光る目で駆け出そうとする清次を見て無我夢中で抱き止めていた。
 清次が何をしようとしていたか、お美代も確かなことがわかっていたわけではない、しかしすぐに止めなければ取り返しのつかない事になると直感が教えてくれた。
 他の者を起こさぬように声を抑えて必死に宥め、清次がその場に座り込むと少しだけほっとした。が、手を離したらまた何か悪い気を起こされてしまいそうで、お美代は抱き止めた腕を緩めない。
 自分よりずっと背の高い清次を抱き締めるような形でいるうち、やがて清次が体を縮めてぼそりと呟いた。
「いけやせん、(きたね)え」
「え……」
 思わず自分の着ているものの襟の辺りに鼻を近づけるお美代に、清次が激しく首を振る。
「違うんでさ、あっしなんざに触ったらお嬢さんが汚れちまう」
「馬鹿なこと言わないの」
 お美代は声を殺して笑う。
「汚かないわよ、だって清さん、毎日湯に入ってるじゃない」
「そうじゃねえんで。あっしのこの体には、どれだけ洗おうが取れねえ汚れが体の芯まで染み込んでるんでさ」
「聞かせて、誰がそんな厭なこと言うの?」
 それが誰であれ叱ってやらなきゃと思い、もし徹太なら絶対許してあげないんだからと、まるで自分のことのように腹が立ってくるお美代だ。
「誰でもありやせん、あっしの頭ン中のあっしがそう言うんでさ。おめえみてえな奴は江戸に帰って来ちゃいけねえ、何で島でくたばっちまわなかったんだ……ってね」
「でも清さんは、お上がお赦しになってここにいるんじゃない。上を向いて、もう胸張ってどこを歩いたっていいんだから」
 駄々っ子でもあやすように言って聞かせたが、清次は石のように体を硬くしたまま答えない。
「怖いんでさ、寝るのが」
 ようやく聞こえて来た微かな声に耳を疑うお美代だが、清次の呻くような声はさらに続いた。
「昔さんざ泣かせた人たちの顔が、夜、一人ンなると目のすぐ前に浮かんで来てね、そうなるともう眠るどころじゃねえ。辛くて苦しくって、誰でもいいから殺してくれって頼みたくなる」
 夜の闇に隠されて清次の顔は殆ど見えないが、その声はまるで泣いているように聞こえた。
 微かに震えている清次の体を、お美代は元の布団にそっと横たえた。
「清さんが寝るまで、あたしがここでついててあげる」
 大丈夫、一人になんかしないから。そう囁き、お美代は清次の片方の手を握ってそのままにしておく。
 清次は頷いて一瞬その手に力を込めて握り返すと、安堵したように長い息を吐いた。そしてそれが間もなく穏やかな寝息に変わるのを、お美代はじっと見守っていた。
 お美代は父の友五郎にも兄の義太郎にも、森田屋の幸助にも子供だ子供だと言われ続けているし、そのことは自分でもわかっている。大人の女とはきっと義姉(ねえ)さんのような人のことを言うのだろうが、あと十年経ってもお稲のようにはとてもなれない気がしているお美代だ。
 なのに大人でしかも世の中のどん底を覗いてきたに違いない清次が、こんな自分の前ではほんの小さな子供みたいな顔を見せるのが、お美代はくすぐったくてならない。
 森田屋の荷を揚げるのは伊勢崎屋と昔から決まっていて、その縁で幸助とはまるで兄妹のように育ってきた。いや、乱暴な腕白坊主だった義太郎でなく、真面目で気持ちも優しい幸助が本当の兄さんだったらと、お美代は小さい頃から何度思ったかわからない。
 だから森田屋との縁談もごく自然に受け入れたし、今も不満はまるで無いつもりだ。
 しかし幸助の柔らかなそれとは違う清次の大きくて骨張った手をそっと握りながら、お美代は何とも言えぬ不思議な気持ちになっていた。

 目が覚めた時、清次は思わず自分の横を見た。無論そこにお美代が居る筈も無かったが、お美代のあの柔らかで温かな手の感触は、清次の掌にまだ確かに残っていた。
 朝まで一度もうなされずに眠れたのは久しぶりのことで、おかげて体は軽いし、頭の中も霧が晴れた後のようにすっきりしていた。
 今日も頑張るぞと気合いを入れて跳ね起き、裏の井戸に出る。
 ただ自分の半分も生きていないお美代に肩を抱かれて泣いたことを思い出すと、恥ずかしくて冬の朝だというのに変な汗が滲み出てくる。
 その顔を汲みたての冷たい水で洗い、ついでに頭も冷やし、身も心も引き締めて店に戻ったつもりだった。
 が、勝手口の引き戸を開けたところでお美代と鉢合わせしてしまい、火が出そうな顔になり咄嗟に目を伏せてしまう清次だ。
「お早うっ」
 一点の曇りもないお美代の晴れやかな声と笑顔に、清次も慌ててお早うございやすと会釈を返す。
 片頬に例の僅かな笑みを作るのにすら、実はいつもはかなり無理をしていた。だが今朝は町内一の小町娘と出くわした初心な餓鬼のような照れた笑みが、自然に浮かんできていた。
 とは言うものの、それは恋心とはまるで違うものだった。もしそうであれば、清次は己をとても許せなかっただろう。
 ここのお嬢さんは、まるで天女のようなお人だ。
 清次は心からそう思っていたし、だから生身の女として意識するだけでお美代を汚してしまうように感じていた。

 何しろ賭場は夜が遅いから、松蔵が目覚めた時には日は既にかなり高く昇っていた。
 大欠伸を一つした後、夜着は抜け殻のように脱ぎ捨てて布団から這い出し、のろのろと着替え長脇差を帯にねじ込んで近くの一膳飯屋に向かった。そして朝飯には遅過ぎるが昼にはやや早い飯を、さも不味そうに食う。
 飯と蜊の味噌汁、それに焼き魚と香の物をすべて平らげた後で、
「おい、付けておけ」
 店の親爺を一重の細い目でひと睨みしながら席を立つ。
 付けと言いながら、これまで一度も金を払ったことも無ければ今後も払うつもりも無いことは、松蔵も親爺も百も承知だ。
 飯屋を出た松蔵は、油堀が大川に注ぐ辺りに向かった。徹太はそこで今日も森田屋の荷を上げている筈である。
 昨夜賭場を閉めた後、松蔵は徹太に貸した金のことで代貸と少し話し合った。負けた額はかなりになってきたが、雑司ケ谷の料理茶屋で働く別嬪の姉をその質に取るにはまだ足りぬ。
 で、まだうちで遊ばせてはやるが、そもそも博打は御法度だからと(けつ)を捲って借りた金に頬被りを決め込むつもりならただおかねえと釘を刺す為に河岸に向かった。
 目当ての徹太はすぐに見つかった。松蔵は他の人足らを押しのけるようにして、肩を怒らせながらゆっくりと近づいて行く。
「あ、松の兄ィ……」
 気づいた徹太は顔色を失い、その場にへたり込みそうになる。
「テツ、ちょいと面を貸せ。何も取って食おうってんじゃねえんだ、そんな顔するねえ」
 目で睨みつつ口元には薄い笑みを浮かべ、松蔵は徹太の肩に腕を回して蔵の陰に引っ張って行きかけた。が、河岸に着いた船から油樽を担いで上がって来た人足の顔を見た瞬間、徹太のことなどもうどうでも良くなった。

 その時清次は新しい荷を取りに船に向かっていて、河岸に来た松蔵には背を向ける形になっていた。
 そして陸に戻りかけてそこに誰が居るかやっと気付いて、担いでいる油樽で顔を隠そうとしたが遅かった。
「兄ィ……間違いねえ、清の兄ィだッ」
 大股で歩み寄る松蔵に構わず樽を担いだまま蔵に向かうが、松蔵はさらに大きな声をあげながら中までついて来る。
「兄ィ、おれだ、松蔵だ、鉄砲坂の松だよ」
「覚えてるさ、久しぶりだなあ」
 清次は苦い笑みを浮かべて油樽を積み、松蔵の袖を引くようにして森田屋の蔵の外に出た。
 二人を目を丸くして眺めていた徹太が、つい先程まで猫に追い詰められた鼠より怯えていたのも忘れて寄って来る。
「松の兄ィとその野郎って、いったいどんな関わりで……」
「馬鹿野郎、何て口のきき方しやがるッ」
 まず徹太の頭を平手で叩き、さらに襟首を締め上げるようにして松蔵はがなった。
「ちょっと前におめえにも話したろう、この清次さんはおれの昔の兄貴分で、四ツ谷の狼って呼ばれてた凄えお人よ」
「おい、昔の話は……」
 遮ったものの間に合わず、話は周りでそれとなく様子を窺っていた他の人足らにもすっかり聞かれてしまっていた。その中には猪吉もいて、相手が土地のやくざだから何も言えないでいるが、今にも咬みつきそうな顔でこちらを睨みつけている。
 松蔵も周りを睨み返し、鞘に手をかけ見せつけるように長脇差の位置を直す。
「わかったよ、なら場所を変えて積もる話でもしようじゃねえか」
「悪いがまだ仕事の途中だ、七ツ半(午後五時)ころまた来てくんねえ」
 おれは昔のおれとは違うのだ、だからもう来ねえでくんな。清次は本当はそう言いたかった。
 ただ清次の記憶の中の松蔵は今の徹太のようなほんの小僧っ子で、それがこんな本物の悪になってしまったのも昔の自分のせいかも知れないと思うと、そうすげなくも出来なかった。
 その心の揺らぎを、松蔵は素早く見て取ったらしい。
「わかった、おれはその辺で待ってら」
 そして重い油樽を運ぶ人足の間をうろうろ歩き回り、冷やかしたり睨んだりして仕事の邪魔をする。その様子を見れば、清次の気持ちをわかって素直に帰ってくれるとはとても思えない。
 喧嘩はもう厭だ、したくねえが、またやらなきゃいけないのか。腸がちぎれるような思いで心を決めかけた清次を、怒りで顔を赤黒く膨らせた猪吉が怒鳴りつけた。
「おい清次、構わねえからこのお兄いさんと先に帰れッ」
「ほう、小頭さんは物分かりがいいや」
 松蔵は猪吉の顔を下から覗き込むようにしてにたりと笑い、清次の袖を引いてどこかに連れて行こうとする。
「ですが小頭……」
 躊躇う清次に猪吉は蝿でも追うように手を振り、いいから早く行っちまえと繰り返した。
「じゃあまたな、小頭さんよ」
 へらへら笑いながら、松蔵はまだ躊躇う清次の背を押しながら油堀を西永代町の干鰯場だった方に歩いて行く。
 清次は気付いていなかったが、その姿を森田屋の幸助がひどく物思わしげな顔で眺めていた。
 そしてもう一人、伊賀町の重蔵もまた鋭く光る冷たい目で二人を凝視していた。

 やっと見つけた、こんな所に潜り込んでやがったか。
 前を行く清次の背を、重蔵は瞬き一つせずに見詰めたまま尖らせた舌の先で唇を嘗めた。
 俗に大江戸八百八町と言うが、それは六代将軍の家宣公の頃までの話だ。江戸はその後も本所深川、そして四ツ谷や赤坂に麻布など範囲を広げ続け、町の数はこの頃には実に千六百を越えていた。
 その中に紛れ込んだ清次を捜し出そうというのだから、砂に混ざった一粒の塩を見つけるような話だった。
 それでも重蔵は清次を捜し出すのを諦めなかった。縄張りの四ツ谷や鮫ヶ橋を虱潰しに当たり、元の古巣には舞い戻って来ていないと確信した後も、浅草だの両国だの、人が多く集まる所に出かけては清次を捜し続けた。
 そしてようやく今日見つけることが出来たのは、僥倖とも言うべき偶然の結果だった。
 このところ素人くさい掏摸や下手で雑な引ったくりが増え、しかもお縄にして小伝馬町の牢屋敷に送ると間もなく死んでしまうことが続いていた。その真面目だった職人や小商人の心を狂わせて死に追いやった元は、罌粟の実から採った南蛮渡りの恐ろしい薬らしいと、重蔵は出入りしている同心の中野為二郎から聞いた。
「罌粟の実の毒にかかわる奴はは深川辺りに目立って多いようでな、それで死んだ奴の土左衛門が、大川の下の方や小名木川辺りに時々浮いてたりするらしいぜ」
「深川ってえと、河岸や船宿が多い所だ。堀や川は入り組んでるし、漁師だって少なかねえ。その妙な薬をこっそり持ち込むにゃ、まさにもって来いでさ」
 話しているうちに、重蔵はその深川に一度行ってみたい気になってきた。
 とは言え深川は重蔵の縄張りの外だから十手は使えないし、目の前で何が起きても黙って指を咥えて見ているしかない。それは重々わかっていたが、重蔵はどうしてもその場を己の足で歩き、この目で見て回りたくてならなかった。
 それで今日、四ツ谷からわざわざ御城の南側を内濠に沿ってぐるりと回って、この深川までやって来たのだ。
 深川の地理にそう明るいわけではない重蔵だが、おおよその腹積もりは出来ていた。大川沿いの河岸や船宿の多い辺りでちょいと探りを入れてみるつもりで永代橋を渡り、佐賀町を歩き始めてすぐ思わぬ顔を見つけて息を飲んだ。
 清次の面は忘れようにも忘れられぬが、清次の肩にだらしなくもたれ掛かるようにしているもう一人の地回りにも見覚えがあった。
 おい、野郎は鉄砲坂の松蔵じゃねえか。
 清次という虎の威を借りて悪さばかりしていたあの糞餓鬼が、一端のやくざのつもりででかい面をしてるのも癪に障る。しかしそれより江戸に舞い戻るなり昔馴染みの同じ穴の貉の悪い奴とつるんでやがる清次がただ憎くて、重蔵は噛み締めた奥歯が軋んで厭な音を立てるのにも気づかなかった。
 御赦免になろうがどうしようが、屑野郎はやっぱり元の屑のままよ。
 仙台堀に出て松永橋を渡り右手の永堀町の方に行く清次の背を睨み据え、重蔵は鼠を追う猫のように後をつけてゆく。
 それにしても太え奴と呆れるばかりだった。御赦免船が着いた永代橋の、そのすぐ向かい側の佐賀町辺りに潜り込んでやがったとは、さすがの重蔵も夢にも思っていなかった。
 だがもう逃がしゃしねえ、ねぐらから何からすっかり洗い出してやらあ。
 同じ距離と歩調を保って清次の後を追いながら、重蔵は心の中でそう誓った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

清次……三宅島から戻って来た島帰りの男。昔は四ッ谷の狼とも呼ばれたかなりの悪だったらしいが、今は売られた喧嘩すら買わず、堅気になろうと懸命に働く。三十過ぎくらいの、渋い良い男。

安平……同じ三宅島に流されていたやくざだが、一見すると人当たりは良い。しかし芯は冷たい根っからのやくざ者。

松蔵……元は清次の子分で、悪だった清次に憧れていた。今は本物のやくざになり安平の弟分で、堅気になろうとしている清次に失望している。

伊勢崎屋友五郎……口入れ屋の主。田舎から出て来て一代で店を持つに至る、それだけの男だから仕事には厳しいが、人情に厚い義理堅い男。

お美代……友五郎の娘で伊勢崎屋のお嬢さん。たまたま行き倒れていた清次を拾う。最初から清次に好意的で周囲が心配するほど良くなついている。

森田屋幸助……お美代と兄妹同然に育ち、今は許嫁の間柄。最初は気にしないでいたが、次第にお美代と清次の仲が気になってくる。

徹太……伊勢崎屋の人足で最も若い、威勢の良い者。それだけに、自分の男を見せつけようと、島帰りという清次に無闇に突っかかって喧嘩を仕掛ける。

重蔵……かつて清次をお縄にした岡っ引き。清次を目の敵にして、清次が赦されて戻って来た今も散々嫌がらせをしている。

佐吉……堀川屋という袋物屋で働く真面目なお店者だが、わけあって清次を深く恨み、何度も清次の前に姿を現す。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み