第4話

文字数 6,882文字

 お美代がとんだものを拾って帰って来たのは、朝晩はめっきり冷え込むようになってきた秋の日のことだった。
 年が明ければ十八になるお美代は、佐賀町で人入れ稼業をしている伊勢崎屋の娘で、八名川町の常磐津のお師匠さんのところに通った帰りに、ふと思い立って万年橋近くの稲荷神社に寄ってみた。
 そこで賽銭をあげる時に奥の小さな社で見つけたものを、お供の小女と一緒に額に玉のような汗を浮かべながら店に抱えて来たお美代を見て、主の友五郎は悲鳴に近い呻き声を上げた。
「馬鹿ッ、何してやがる、離れねえか!」
 叱りつけるのももどかしく、友五郎は二人が抱えてきた男を娘から引っ剥がした。
「嫁入り前の娘が、何て真似しやがる」
 友五郎は目を三角にして睨みつけたが、お美代はそのまま土間に倒れ込んだ男の傍らに屈み込んだ。
「だって放っておけなかったんだもの。行き倒れなんて出しちゃ町の恥だ……って、おとっさん、いつも言ってたじゃない」
「それはそうだが……」
 得体の知れぬこんな薄汚い男を、よりにもよって娘が拾って来なくたっていいだろうにと、つい思ってしまう友五郎だ。
「おい触るなって言ってるんだ、妙な病でも持ってやがったらどうするッ」
 苛々と怒鳴りつける友五郎も構わずに、お美代は笑って男の頭をそっと抱えた。
「大丈夫よ。この人は清次さんって言ってね、ここ何日も何にも食べてないんだって」
「ここンとこ、ずんと冷えて来たからな。空きっ腹の上に寝るとこも無いんじゃ、そりゃあ動けなくもなるだろうさ」
 放っておいたら明日か明後日の朝には死んでいたやもとは思うものの、友五郎は男を気遣う言葉がどうにも出せないでいる。
「御飯をあげてしばらく家に寝かせてあげてもいいでしょ、ね?」
 その友五郎を、お美代は黒々とした澄んだ瞳で見上げる。
「仕方ないねえ」
 腕組みをしたまま妙な唸り声を上げる友五郎に代わって答えたのは、帳場の向こうでずっと様子を見ていたお美代の兄嫁のお稲だ。
 お稲は目こそ鋭すぎるもののすらりとした綺麗な女で、元来おとなしい(たち)の姑を押しのけるではないが、既に伊勢崎屋の若おかみとして店のかなりの仕事を取り仕切っていた。
 一方その良人で友五郎の跡取りの義太郎の方は、
「よく頑張っちゃあいるが、おとっさんに比べたらまだまだだな」
 出入りしている店の旦那方には、陰でそう言われている。
「徹と政、ちょいと来ておくれ」
 お稲は店の若い者を手招きして、清次を階段の前の空いた所に運ばせ、小女にはそこに布団を敷かせる。
 自分も何かしたくて、お美代は台所に向かい米櫃に残る飯を椀に大盛りにして香の物を添えた。そしてさらに味噌汁を作りにかかったが、気付いたお稲が小走りにやって来て袖を引いた。
「お美代ちゃん、それはいけない」
「え?」
「胃の腑がびっくりしちまうんだろうね、飢えてる人にいきなりものを食わせると、そのまま頓死しちまうことがあるんだよ」
 驚いてものも言えないお美代に、お稲は目も向けずに椀に盛られた飯を鍋に戻し手早く煮て粥にした。そして刻んだ葱と塩を振り、暫く躊躇した後、小さく舌打ちをして溶いた卵を流し入れた。
 その粥をお稲は黙って持って行き、横たわる清次にずいと差し出した。
 ようやく体を起こしかける清次を助けて支えるお美代は、友五郎に今にも噛みつきそうな顔で睨まれていることにも気づかない。
 清次は初め、目を真ん丸にして椀の中の粥を凝視していた。
 が、ほらと言う代わりにその椀を鼻先に突き出されると、震える手で押し戴くように受け取った。
 まるで恐る恐るというようにそっと一口食い、目を閉じて低く唸る。そしてその後は唇を椀の縁から一瞬も離さずに、粥を喉の奥に流し込んだ。
 椀の中のものを一滴の汁も残さずに啜りきった後、清次は倒れ込むようにまた布団に横たわり、胃の辺りを抱え込んで微かな呻き声を上げた。
「どうしたの、どっか苦しいの?」
 お稲に言われたことを思い出し、お美代は慌てて屈み込んで顔を寄せた。
 食っちまった。
 耳を澄ませて聞いてみると、どうやら清次はそう言っているようだ。
「何でうっちゃっといて下さらなかったんでさ。おれなんざ、あのまま死んじまえば良かったんだ」
 てめぇ、せっかく助けられて何て言い草だ。
 そう怒鳴りつけかけた友五郎をきつい目で制し、お美代は清次の細かく震える背中にそっと手を置いた。
「そんなこと言っちゃ駄目。死んだ方がいい人なんて、この世に誰もいないんだから。ね?」

 程なく帰った来た伊勢崎屋の跡取り息子でお美代の六つ上の兄の義太郎は、友五郎よりもっと厭な顔をした。
「誰だいこの薄汚え野郎は、何だって家に上げたりしやがった?」
「仕方ねえだろ、お美代が拾って来ちまったんだ」
 ぶっきらぼうに答える友五郎も、まだ仏頂面のままだ。
「そんな言い方って無い、おとっさんも兄さんも冷たいよ、不人情過ぎるよ」
 お美代に睨まれて、友五郎も義太郎もばつの悪い顔をした。友五郎だけでなく、義太郎もお美代にはどうも弱い。
 義太郎は助けを求めるように妻を見やったが、お稲は土地で芸者をしていた頃から気に入って大事にしている朱の羅宇の長煙管をふかし、目を合わせようともしない。
「ま、今夜一晩くらい寝かせとくのは構わねえが……それにしても(くせ)えな」
 言いながら、義太郎はしかめっ面で鼻に皺を寄せる。
 確かにねと頷くだけでなく、お稲は雁首を灰落としにぽんと叩きつけてへっついの前に立った。
「なら、拭ってやればいいだけの話さ」
 負けじとお美代も手伝いに立ち、湯を沸かすお稲の傍らで盥やら手拭やらを用意する。
 お稲は唇の端で微かに笑って好きなようにさせていたが、清次の枕元に湯を張った盥を運んだところで表情を引き締めて首を振った。
「お美代ちゃん、こっから先はあんたにはまだ早い」
「え、どうしてえ?」
 頬を膨らませるお美代の背を押して向こうの座敷に追いやり、障子もきっちり閉めた後でお稲は躊躇なく清次の着物の帯を解いた。
「おい、お稲……」
 これ以上ないほど渋い顔の義太郎に、お稲はぞくりとするような凄い流し目を送る。
「何だい、焼き餅かい?」
 馬鹿だねぇ、男の裸を見たくらいで今さら何とも思やしないよ。
 そう言いたげな笑みを向けられてしまうと、もう何も言えない義太郎だ。
 褌だけの裸にした清次の肌を拭い、さらに伸び放題の不精髭に剃刀を当てかけたお稲だが、その手がふと止まった。
「おや、この人なかなかいい男じゃないか」
 友五郎と義太郎の顔がより苦いものになったことは、言うまでもない。

 小石川養生所に呼ばれた松井孝之助は、中山源庵の渋面に怯えに近いものが浮かんでいるのを見た。
「お主が見つけた仏だが、あの者を殺したのは阿芙蓉やも知れぬ」
「阿芙蓉、ですか」
 要領を得ぬ顔で首を傾げる松井の目を、源庵は瞬き一つせずに凝視する。
「医者として言わせてもらうが、もし同じような死に方をした者が他にも出ているとしたら、これは容易ならぬことと言わねばならぬ」
「わかりませぬな、どういうことなのです」
 答える代わりに、源庵は松井を導いて様々な薬草が植えてある養生所の庭に出た。秋も半ばを過ぎていることもあり、枯れたりしおれかけたりしている植物の少なくない。
 源庵はその中の、枯れてはいないが妙に白っぽくひょろりと背の高い植物の前に立った。
「これよ」
「はて、草花のことはそれがしはとんと……」
「罌粟だ。花が咲くのは春の半ばだから、今はこんなだがの」
 相変わらず厳しい表情を崩さぬ源庵の横顔を見詰めながら、松井は黙って頷いた。うろ覚えではあるが、その赤や紫の可愛らしい花を見た記憶は残っている。
「咲いた後は、そこに実がつく。俗に芥子坊主とか申すやつよ」
「なるほど」
「その実がな、なかなか良い薬になるのだ」
「ほう」
「如神丸や赤玉腹薬と言えば、お主も聞き覚えがあるのではないかの?」
「ははあ、あれですか」
 赤玉の方には、松井も何度か助けられた事がある。
「実に良い薬じゃ、瀉り腹がぴたりと治るだけでなく、体の節々の痛みも治まるし、眠れずに苦しんでいた者もよう眠れるようになる。ま、漢方の者どもは知らぬ顔をしておるがな」
 その殆ど呟くように口に出された後の方の言葉に、松井は源庵が蘭方医であることを思い出した。
「ただ毒と薬は紙一重とも言うが、この罌粟の実も同じでの。使い方を誤ると恐ろしいことになる」
 初めのうちは良い夢を見られるだけだが、やがて起きている時でも極楽に居るような夢見心地になってくる。そしてその心地良さが忘れられなくなり、絶えずその薬を飲むようになる。
 さらに薬の効き目が切れるとひどく疲れて厭な気分になり、ただその薬を手に入れることしか考えられなくなる。
「やがて生きた屍と変わらぬ有り様になっての、涎や鼻水を垂れ流し、痙攣(ひきつけ)を起こし息絶えてしまうのだ」
「まことですか」
 さように恐ろしいものが売られていて己も飲んでいたのかと青ざめる松井に、源庵は僅かに頬を緩めて首を振った。
「いや、今この国で使われておるのは罌粟の殻を砕いた粉で、効き目はそう強くない。どれほど摂ろうとこんな酷いことにはならぬ筈なのだ」
「ならばあの男は、何故死んだのです?」
「それが南蛮ではの、まだ熟さぬ罌粟の実の汁を繰り返し煮詰めて乾かすなどして、恐ろしく濃くする手立てがあるらしいのだ。すると先ほど言うたような、恐ろしい粉になるらしい」
「その阿芙蓉とか申す南蛮渡来の罌粟の粉が、この江戸にも出回りかけているやも知れぬ……と?」
「まず間違いあるまい、お主が見つけた仏の肌の青い斑がその証しよ」
 この時に中山原庵が語った阿芙蓉は、後に阿片という名で世に広く知られることになる。

 目覚めた時、清次は夢でも見ているのではないかと思った。
 布団は柔らかくて温かく、辺りには味噌汁の匂いが漂い、隣の台所からは軽やかな包丁の音が響いてきている。
 昨日のあの卵入りの粥が効いたのか、数日ぶりで屋根の下でぐっすり眠れたせいか、手足の先にも血が通い力が戻って来ているのを感じる。
 清次はまず生まれ変わったようだと思い、違うだろ、おれは生まれ変わらなきゃならないのだと思い直した。
 その枕元に朝飯が運ばれて来て、清次は慌てて体を起こした。
「いいのよ、無理して起きなくても」
 お美代が眩しいくらいの笑顔でそう言うから、清次はますます居たたまれなくなって急いで布団を畳み、慣れぬ端座をして着物の襟を直した。そしてその時になって初めて、身にまとっているのは島でもずっと着ていた襤褸ではないことに気づいた。
 着古されてはいるが物は良いし、洗いたてのように清潔で、清次は余計に身が縮む思いだ。
「何も無いけれど」
 そう言いながらお美代が置いた膳には、飯と蜆の味噌汁、それに納豆と香の物が乗せられていた。
 輝くような白い米の飯を、清次はまず押し戴くようにしてから少しずつ味わって噛んだ。
 島は殆ど山ばかりで田など殆ど無く、畑も痩せ薩摩芋すらろくに育たなかった。だから食うものと言えば稗や粟ばかりで、それすら手に入らぬ時には雑草や海草で飢えを凌いでいた。
 米の飯など、島民ですら正月くらいにしか口にできるものでは無かった。だから馬喰町の安宿の粒が割れ色も変わりかけた古い米でさえ、清次にはとてつもない御馳走に思えた。
 清次が綺麗に食べ終えて丁寧に両手を合わせ、心から御馳走さまでしたと言うのを待っていたかのように、お美代の父親がやって来て、すぐ目の前にどかりと胡座をかいた。
「おれは、この今川町で口入れ屋をやってる友五郎って者だ」
「あっしは清次と申しやす」
 そして助けて貰った礼を言いかける清次を遮って、友五郎は腹の底まで見透かすような目で凝視した。
「清次って、お(めえ)さん、どこの清次だい。親兄弟や生まれた所くらいあるんだろ?」
 言えば直ぐさま、毒虫か何かのように叩き出されるだろう。それがわかるから、一瞬だが出任せを言ってしまいたい思いに駆られた。例えば信濃の貧乏百姓の家に生まれて、江戸で一旗上げるつもりで黙って故郷(くに)を出て来たのだとか。
 が、他の人には素気なくされ続けてきた分だけ、初めて親切にしてくれたこの家の人に嘘をつくのが心苦しくなってくる。
 そうさ、人の実意に信実で応えられぬ奴は人間じゃねえ。
 清次は一度強く目を閉じ、溜めた息を吐き出すようにありのままの事を告げた。
「あっしは餓鬼の頃から腕っ節だけが自慢の馬鹿な野郎でさ。それで二親(ふたおや)にもさんざっぱら泣きを見せた上に、奉公させられた先が気に入らないからと、飛び出してぐれて暴れ回った揚げ句に島送りになって、お上のご慈悲でようやく帰って来やした」
 出て行けと怒鳴られこそしなかったが、友五郎は眉を寄せ相変わらず強い目で見据えたままで、その腹の底は殆ど読めない。
「その迷惑かけた親兄弟には、ちゃんと謝りに行ったのかい?」
 清次は奥歯を強く噛み締め、途切れかける声で四ツ谷元町の元の家と大横丁の伯父の家を訪ねた時のことを話した。が、必死に堪えてもその途中で目の前が潤んでくるのはどうしようもなかった。
「ま、おめぇはそこまで憎まれるくれえ(ひで)え野郎だった、ってわけだ。おとっさん達やその伯父さんを、決して恨んだりするんじゃねえぜ」
 言葉は突き放すようだが、友五郎の声はどこか柔らかくなっていた。
 そこに付け入っちゃあいけねえと思いつつ、清次は真っ暗闇の地獄で見えかけた一筋の光に縋り付かずにはいられない。
「死んだつもりで心を入れ替えて、身を粉にして働きやすから、どうぞこちらで使ってやって下せえ」
 言いながら清次は友五郎の前で両手をつき、額を畳の目に擦り付けたまま頭を上げない。
 駄目だとは、友五郎は言わなかった。
 しかし腕組みをして、難しい顔でただ黙り込んでいる。
「おとっさんッ」
 お美代と義太郎が、殆ど同時に尖った声を上げた。義太郎は何でさっさと追い出しちまわないんだと言いたげに、そしてお美代は可哀想じゃない、何で使ってあげないのと責めるように。
 それでも友五郎は、喉の奥から妙な唸り声を出すだけだ。
 友五郎の女房で二人の母親のお照は、ただおどおどと皆の顔色を見ている。
 先ほどまで小僧や小女を追い使って店を開ける準備をしていたお稲が、いつの間にかそこに居てひょいと口を挟む。
「ま、暫く試しに使ってみてもいいんじゃないかしら。少なくとも体は頑丈みたいだしね」
 昨夜清次の体を拭った時に、そのことは目だけでなく手でも確かめているお稲だ。
 友五郎は漸く唸るのを止め、清次にとりあえず頭を上げろと命じた。
「で、おめぇ何が出来るよ? 手に何か職はあるのかい?」
 そう聞かれて、清次は上げかけた顔をまた伏せるしかなかった。
 父の久助が指物師の仕事を仕込もうとしなかったのは、清次が親でさえ呆れるほど不器用だったからだ。それで商家に奉公に出されたのだが、清次は客商売がどうにも厭でならなかった。
 それで店を飛び出し親の所にも戻らず、地廻りや売女の類いがうようよいるような鮫ヶ橋の中でも特に気風が悪い辺りで、島に流されるまでずっと荒れた暮らしをしていた。そして島でも炭焼きの手伝いや、切り出した椎の木を山から海まで運ぶなどの力仕事をして何とか生き延びていた。
 胸を張って出来ると言えることが何も無いのに今さらながら気づかされて、清次は恥ずかしくて身の置き所がない。
「力仕事しか出来やせんが精一杯働きやす、人足仕事でももっこ担ぎでも何でもやらせておくんなさい」
 漸くそう言った清次に、友五郎は太息をついた。
「仕方ねえな、まあ何とか考えてみよう」

「いいのかい、何でうんと言っちまったんだ」
 後で義太郎に責められた友五郎は、
「そりゃあ厄介払い出来ればそれに越したことはねえと、おれだって思ってたさ」
 それにお美代があの野郎を妙に気に入っている風なのも、どうも癇に触ってならなかった。
「なら、何でそうしねえ?」
「あの野郎が死んでもいい覚悟で行き倒れてたのは、おめぇも聞いているだろう?」
 それを拾って来ちまって、飯も食わせ屋根の下で寝かせて生き返らせた上でまた放り出すのは、残酷ってものだ。
 義太郎が頑張っちゃあいるがまだ欠けているのはこのあたりに気づかないところだと、まだ若いから仕方ないと思いつつ、少し歯痒く思う友五郎だ。
「犬だって一度拾ってきて飯を食わせちまったら、ずっと飼ってやらにゃならねえだろ? それと同じことさ」
「わかった、わかったよ」
 頷きはしたものの、義太郎はまるで納得してない顔だ。
「でも相手は島帰りだせ、野郎が何かしでかしたら伊勢崎屋も責めを負わされちまう」
 実はそのことを、先程からずっと考え続けている友五郎だ。
 友五郎は小頭の猪吉を呼んで、清次の身柄を預けるから間違いなど起こさせぬよう目を光らせてろと命じた。そして跡取り息子にはもっと強い口調で言いつける。
「おめぇもだ、義太郎。本気で堅気になるつもりかどうか、野郎の性根を見極めるんだ」
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登場人物紹介

清次……三宅島から戻って来た島帰りの男。昔は四ッ谷の狼とも呼ばれたかなりの悪だったらしいが、今は売られた喧嘩すら買わず、堅気になろうと懸命に働く。三十過ぎくらいの、渋い良い男。

安平……同じ三宅島に流されていたやくざだが、一見すると人当たりは良い。しかし芯は冷たい根っからのやくざ者。

松蔵……元は清次の子分で、悪だった清次に憧れていた。今は本物のやくざになり安平の弟分で、堅気になろうとしている清次に失望している。

伊勢崎屋友五郎……口入れ屋の主。田舎から出て来て一代で店を持つに至る、それだけの男だから仕事には厳しいが、人情に厚い義理堅い男。

お美代……友五郎の娘で伊勢崎屋のお嬢さん。たまたま行き倒れていた清次を拾う。最初から清次に好意的で周囲が心配するほど良くなついている。

森田屋幸助……お美代と兄妹同然に育ち、今は許嫁の間柄。最初は気にしないでいたが、次第にお美代と清次の仲が気になってくる。

徹太……伊勢崎屋の人足で最も若い、威勢の良い者。それだけに、自分の男を見せつけようと、島帰りという清次に無闇に突っかかって喧嘩を仕掛ける。

重蔵……かつて清次をお縄にした岡っ引き。清次を目の敵にして、清次が赦されて戻って来た今も散々嫌がらせをしている。

佐吉……堀川屋という袋物屋で働く真面目なお店者だが、わけあって清次を深く恨み、何度も清次の前に姿を現す。

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