01 出会い-1

文字数 1,593文字

 ざああああざざああぁああ

 ―---―……うるさいなあ。
 断続的に聞こえ続ける音と鈍い地響きに、虚を漂う意識が浮上する。働かない頭で音の正体を確かめようと目を開くが、白い光の乱反射に目を突かれ痛みに再び目を閉じた。そうして、自分の今いる場所に疑問が生じた。

「っ、…あ、れ? ここ外……」

 どうして自分は外で寝ているんだろうか? 寝ぼけ頭に、ぼんやりと浮かぶ疑問。寝起きのやけに掠れた声でポツリとつぶやいた。

 身体中が痛い。状況を確かめるべく光にやられないようにうっすら目を開くと、光を反射させているやかましいほどに音を響かせている川の流れが見えた。

 なぜ自分はこんな場所にいるのだろう?耳にやかましいばかりで体にも優しくない川原で、昼寝に興じる趣味なぞ自分にはない。何故、こんな場所で寝ていたのだろう。まさか、夢遊病でも発症したのだろうか?
 寝ぼけ頭でしょうもない事を考えるが、特に何が浮かぶわけでもない。

 とりあえず起き上がり状況を理解するべきだ。それに、いい加減に耳と体に辛いこの場から離れたい。ゆっくりと身を起こすと、バキバキと関節が音を上げ、うぉおおぉ、と情けない声が出る。関節を鳴らしながらゆっくり立ち上がり、ぐっと伸びをする。今着ている服に見覚えは無かったが、今この状況の方が気になって周りを見渡してみる。

 目の前は川。川向かいには森が見え、川原の幅は大して広くはなく、上流から下流まで、ずらっと大小混合の石がゴロゴロと転がっている。下流の方を見てみれば少し進んだ場所には、川の上を跨ぐ橋のような影が見える。

 川とは逆方向に振り返ると、鬱蒼と茂る森が一面に広がっている。
 川向こうの森よりも近くに見えるそれは日本の森よりも密度が高く、なんとなくおどろおどろしい化け物でも潜んでいそうな薄暗い森だ。あまり立ち入りたいとは思えない。

 ここは一体どこなのだろうか。自分は一体何をしていたのだろう。
 目覚めたころよりは覚醒した頭に、次々と疑問が浮かんでくる。自分は学校からの帰り道を歩いていたのではとふと思い出す。勘違いか?いや、そんなはずは無いと思うのだが。

かちゃ、かちゃがちゃん!

 背後から突然、石の当たる足音が聞こえ考えが中断された。咄嗟に振り向くとそこには、先ほどまでその場に存在しなかった、見たこともないモノがいた。
 一見、犬のように見えるが、毛はまばらで肌は荒れ、あばらが浮き出ている。

 全身がじっとりと濡れており、テラテラとした血と膿が混ざったような体液だろうか、嫌な臭いが離れていてもしてくる。
 異常に隆起した突起や妙な方向に曲がっている、首。舌はだらりと地面に着きそうなほど伸び切り、目は気味悪く血走り、ぎょろ、とこちらを伺っていた。

「っ!?」

 なんだこいつ! 余りにも自分の常識の範疇を越える生き物に、息が詰まり思考が止まりそうになる。逃げなければと訴える思考とは逆に、金縛りにでもあったように体が動かない。
 役に立たない思考と震え始める体への焦りに、何もできず立ち尽くしていると、それがゆっくりと足を踏み出す。

 一歩一歩、ゆっくりと、まるでこちらを値踏みでもしてるかのように、気持ち悪い目をぎょろつかせながら近づいてくる。
 垂れた舌が、ゆらゆらと揺れる、まるで笑っているかのように口角がつり上がり、お前を今から喰らってやるとでも言うような、ニタニタとした、いやらしい笑みに思えた。

 足元の石をがちゃがちゃと鳴らしながら、うまく動かない足で後退するが、大きい石に足を取られ、バランスを崩し尻餅をつく。それでも後退しようと地面についた手を必死に動かすが、小石の多い河原は、石を掘り上げるばかりでなかなか後ろには下がらない。

 もう、目の前に、駄目だ。
 思わずぎゅっと目をつむった。
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