17 目標
文字数 2,625文字
「なるほどねえ。そんな事があったのか」
「よく教えてくれたな…辛くないか」
「いや、うん。大丈夫だよ」
あれからガンリの家にジェスラと共に赴き、ラヘンテミーレで何があったのかを伝えた。正直思い出したくなかったが、伝えぬままという訳にもいかなかったし、この二人の助けも欲しかった。自分一人で解決できるような問題にも思えなかったからだ。
「で、その鳥がuAIねえ。見た所随分レベル高そうな」
訝しそうにガンリがアルマをみる。アルマは特に気にする風でもなく胸を張る。
「僕をそこらのと一緒にされちゃあ困るなあ」
「制作者は誰だ?」
「それは言えない」
「お前の持ち主は何故アユムを襲ったんだ?」
「さあ、恨みでも買ったんじゃない?」
「お前俺の味方って言う割には何も喋らないな」
「君自身が見つけるべき答えだと思うからさ」
俺自身ねえ。今のままではわからない事が多すぎる。アルマと名乗ったこの鳥のuAIから情報を聞き出そうとするが一向に埒があかない。うまいこと言ってのらりくらりとかわすばかりだ。
「その女の言い分じゃあ、アユムの腕が原因なんだろうが、殺しにまでくるかねえ」
「腕をすげ替えるなんて馬鹿な事あるか?」
「さあ、世の中どんな人間がいるかわからんもんだしなあ」
彼女……。この右腕の恐らく本当の持ち主なのだろう。
『お前は全て忘れてのうのうと生きるのか』
俺は一体何を忘れているというのだろう。彼女の言葉が突き刺さる。クナの森で目覚める以前の俺は彼女を知っていたのだろうか。一体俺は彼女の何を変えてしまったのだろう。この腕は彼女のものなんだろうか。彼女は一体、誰なんだろう。俺は本当に俺なのか?アルマをみるとアルマもこちらを見つめており、そっと問いを投げかける。
「なあ、アルマ」
「なんだい?」
「お前は俺を知っていたのか? 会ったことは?」
「…さあ、どうだったかな。君に会ったのはあの時が初めてだったはずだよ」
「俺のことをあの持ち主から何か聞いたことは?」
「探し人がいるとは聞いていたけれど、君の名前はでて来なかった」
その探し人が俺だったのだろうか。少ない情報の中でどうにか考えを練ろうと思うが上手くいかない。
ジェスラとガンリも何か考え込んでいるようではあるが、口を閉ざしたままだ。
「ガンリ、こいつ自身の口でなくデータから情報を引っ張ってくるとか出来ないのか」
「記憶のデータ化引っ張ってくるなんてそこらの家庭用じゃあ無理だ。うちにはポンコツしかないからなあ。こんだけ会話できるほど精巧なuAIと繋いでもエラー出すだけだ。俺も作ってたのは随分昔だしなあ」
「そうか…」
「プログラム見るくらいなら出来るかもしれんが、見ても役には立たんと思うぞ」
二人も考えていてくれるのか何かと案を出してくれるがどれも上手くいきそうにはない。しばらく二人で談義していると扉からノックの音がした。
「社長~お客様ですよ、ニカノールさんです」
「ああ、今出る。ったく、いつ来られても答えは変わらんっつーに」
「まだ来てたんだな」
「ああ、理由つけて追い払うのも億劫になってきた。すぐ戻るよ」
声の主はカミロだったようで、ガンリが開けた扉から姿が見えた。ガンリが部屋を出、二人と一体になる。アルマを見るとサクサクと羽繕いをしている。本物の鳥のようだ。
「アユム。あの河原で倒れていたこと以前、何も覚えていないんだよな」
覚えている。覚えているが、それは自分がこの体になる前のことだ。今ジェスラに問われているのは彼女との記憶なのだろう。それが本当に実在するのかはわからないが、覚えていないと首を振ればううんと唸った。
「やはり、今ある情報だけじゃ答えを出すのは到底無理だな。アルマは正直役立たずだし、一番はあの女に会うことだろうが、あの力だ。もし知ろうとすればお前に危険が及ぶのは避けられないだろうな」
「ちょっと役立たずってなにさ。ひどい言い草~」
「本当のことだろう。お前一個も役に立つ情報寄越さないじゃないか」
「だからあ。それはアユムが自分の力で見つけるべき答えなの~。危険も犯さずに知りたいこと知ろうだなんて虫が良すぎるよ」
正直、彼女は恐ろしいと思う。だがアルマの言う通り虫が良すぎるのかもしれない。今まで運が良すぎたのだ。ジェスラやガンリに助けられ、この世界で生きることを許されたつもりでいた。危険も犯さずに情報を欲しいだなんて甘えもいいところなのかもしれない。元の世界に戻るきっかけになるかもしれないのだ。俺は答えを知りたい。
元の世界ということは伏せジェスラに告げるとそうか、と返された。
「俺はお前が答えを知りたいと言うなら協力するつもりだ。その先にお前の記憶を取り戻すきっかけもあるだろう」
「うん」
「危険がないとは言い切れないが、お前のことを守ってやるよ。アユム」
「ありがとう。俺、ジェスラに助けられてばかりだ」
「その代わりと言っちゃなんだが、お前にはビシバシ働いて貰うからな」
「が、頑張りマス…」
バンッと背中を叩かれて痛い。快活に笑うジェスラに少しだけホッとした。
しばらくすればガンリが戻って来て深々とソファに腰掛ける。心なしか疲れが見て取れる。一体どうしたのかと声をかけるとなんでもないと返された。客と何かがあったのだろうか。
「会社のことか?」
「いや、親父の事だ…。会いに行けと言われてもな。こっちはもう家を出た身だ。何があろうが、関係ない」
「体調が良くないのか?」
「さあな。それより、何か答えは見つかったか?」
家族の話のようだが、あまり仲が良くないのだろうか。ガンリの表情は苦々しげだ。あまり触れて欲しくない話題であったようで、話題は再び自分のことに戻って来た。
先ほどジェスラに話したように危険が及ぶのは承知の上で答えを探ってみると話す。
「目標が出来て良かったじゃねえか。ジェスラ、アユムの事守ってやれよ~」
「言われずともそうするつもりだ」
「アユム結構これで抜けてるところもあるからなあ。迷子になんなよ?」
グリグリと頭を混ぜてくるガンリにまたかと思いつつ黙って受け入れる。これで結構心配してくれているのだろうと思うが毎回これをやられるのも疲れる。当面の目標を決め、これから始まる運び屋仕事に思いを馳せる。
「よく教えてくれたな…辛くないか」
「いや、うん。大丈夫だよ」
あれからガンリの家にジェスラと共に赴き、ラヘンテミーレで何があったのかを伝えた。正直思い出したくなかったが、伝えぬままという訳にもいかなかったし、この二人の助けも欲しかった。自分一人で解決できるような問題にも思えなかったからだ。
「で、その鳥がuAIねえ。見た所随分レベル高そうな」
訝しそうにガンリがアルマをみる。アルマは特に気にする風でもなく胸を張る。
「僕をそこらのと一緒にされちゃあ困るなあ」
「制作者は誰だ?」
「それは言えない」
「お前の持ち主は何故アユムを襲ったんだ?」
「さあ、恨みでも買ったんじゃない?」
「お前俺の味方って言う割には何も喋らないな」
「君自身が見つけるべき答えだと思うからさ」
俺自身ねえ。今のままではわからない事が多すぎる。アルマと名乗ったこの鳥のuAIから情報を聞き出そうとするが一向に埒があかない。うまいこと言ってのらりくらりとかわすばかりだ。
「その女の言い分じゃあ、アユムの腕が原因なんだろうが、殺しにまでくるかねえ」
「腕をすげ替えるなんて馬鹿な事あるか?」
「さあ、世の中どんな人間がいるかわからんもんだしなあ」
彼女……。この右腕の恐らく本当の持ち主なのだろう。
『お前は全て忘れてのうのうと生きるのか』
俺は一体何を忘れているというのだろう。彼女の言葉が突き刺さる。クナの森で目覚める以前の俺は彼女を知っていたのだろうか。一体俺は彼女の何を変えてしまったのだろう。この腕は彼女のものなんだろうか。彼女は一体、誰なんだろう。俺は本当に俺なのか?アルマをみるとアルマもこちらを見つめており、そっと問いを投げかける。
「なあ、アルマ」
「なんだい?」
「お前は俺を知っていたのか? 会ったことは?」
「…さあ、どうだったかな。君に会ったのはあの時が初めてだったはずだよ」
「俺のことをあの持ち主から何か聞いたことは?」
「探し人がいるとは聞いていたけれど、君の名前はでて来なかった」
その探し人が俺だったのだろうか。少ない情報の中でどうにか考えを練ろうと思うが上手くいかない。
ジェスラとガンリも何か考え込んでいるようではあるが、口を閉ざしたままだ。
「ガンリ、こいつ自身の口でなくデータから情報を引っ張ってくるとか出来ないのか」
「記憶のデータ化引っ張ってくるなんてそこらの家庭用じゃあ無理だ。うちにはポンコツしかないからなあ。こんだけ会話できるほど精巧なuAIと繋いでもエラー出すだけだ。俺も作ってたのは随分昔だしなあ」
「そうか…」
「プログラム見るくらいなら出来るかもしれんが、見ても役には立たんと思うぞ」
二人も考えていてくれるのか何かと案を出してくれるがどれも上手くいきそうにはない。しばらく二人で談義していると扉からノックの音がした。
「社長~お客様ですよ、ニカノールさんです」
「ああ、今出る。ったく、いつ来られても答えは変わらんっつーに」
「まだ来てたんだな」
「ああ、理由つけて追い払うのも億劫になってきた。すぐ戻るよ」
声の主はカミロだったようで、ガンリが開けた扉から姿が見えた。ガンリが部屋を出、二人と一体になる。アルマを見るとサクサクと羽繕いをしている。本物の鳥のようだ。
「アユム。あの河原で倒れていたこと以前、何も覚えていないんだよな」
覚えている。覚えているが、それは自分がこの体になる前のことだ。今ジェスラに問われているのは彼女との記憶なのだろう。それが本当に実在するのかはわからないが、覚えていないと首を振ればううんと唸った。
「やはり、今ある情報だけじゃ答えを出すのは到底無理だな。アルマは正直役立たずだし、一番はあの女に会うことだろうが、あの力だ。もし知ろうとすればお前に危険が及ぶのは避けられないだろうな」
「ちょっと役立たずってなにさ。ひどい言い草~」
「本当のことだろう。お前一個も役に立つ情報寄越さないじゃないか」
「だからあ。それはアユムが自分の力で見つけるべき答えなの~。危険も犯さずに知りたいこと知ろうだなんて虫が良すぎるよ」
正直、彼女は恐ろしいと思う。だがアルマの言う通り虫が良すぎるのかもしれない。今まで運が良すぎたのだ。ジェスラやガンリに助けられ、この世界で生きることを許されたつもりでいた。危険も犯さずに情報を欲しいだなんて甘えもいいところなのかもしれない。元の世界に戻るきっかけになるかもしれないのだ。俺は答えを知りたい。
元の世界ということは伏せジェスラに告げるとそうか、と返された。
「俺はお前が答えを知りたいと言うなら協力するつもりだ。その先にお前の記憶を取り戻すきっかけもあるだろう」
「うん」
「危険がないとは言い切れないが、お前のことを守ってやるよ。アユム」
「ありがとう。俺、ジェスラに助けられてばかりだ」
「その代わりと言っちゃなんだが、お前にはビシバシ働いて貰うからな」
「が、頑張りマス…」
バンッと背中を叩かれて痛い。快活に笑うジェスラに少しだけホッとした。
しばらくすればガンリが戻って来て深々とソファに腰掛ける。心なしか疲れが見て取れる。一体どうしたのかと声をかけるとなんでもないと返された。客と何かがあったのだろうか。
「会社のことか?」
「いや、親父の事だ…。会いに行けと言われてもな。こっちはもう家を出た身だ。何があろうが、関係ない」
「体調が良くないのか?」
「さあな。それより、何か答えは見つかったか?」
家族の話のようだが、あまり仲が良くないのだろうか。ガンリの表情は苦々しげだ。あまり触れて欲しくない話題であったようで、話題は再び自分のことに戻って来た。
先ほどジェスラに話したように危険が及ぶのは承知の上で答えを探ってみると話す。
「目標が出来て良かったじゃねえか。ジェスラ、アユムの事守ってやれよ~」
「言われずともそうするつもりだ」
「アユム結構これで抜けてるところもあるからなあ。迷子になんなよ?」
グリグリと頭を混ぜてくるガンリにまたかと思いつつ黙って受け入れる。これで結構心配してくれているのだろうと思うが毎回これをやられるのも疲れる。当面の目標を決め、これから始まる運び屋仕事に思いを馳せる。