序章

文字数 355文字

 しいんと耳を刺す静寂は、まるでこの光景を誰かに告発しようとしているようだった。
 変わってしまった右腕は血を滴らせ、足元に転がるモノに、もう後戻りは出来ないのだと教えられる。

 霧に透ける朝焼けに、日が登り始めたのだと気が付く。さざめく木々の音と共に鳥のさえずりが聞こえ始め、白に霞む世界に色が戻っていく。

 早くここを離れなければ。見つかるのも時間の問題だろう。

 目の前に横たわる、胸を貫かれ、口からおびただしい血を流し、虚空を見つめる男に別れを告げる。震える右手で彼の目を閉じると、まぶたは赤で染まり、余計に彼の顔を汚すだけだった。
 彼に背を向けながら、犯したことに後悔をする。なぜ、どうして、そんな情念ばかりが頭をかける。

 この憎たらしい右腕と共に、何もかもを無かったことに出来たなら……
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み