師匠は元・代表首席 1
文字数 1,371文字
深淵からは戻ったものの、魔力切れだったことに変わりはなく、そのまま意識を失うように眠っていたらしい。
目が覚めると周囲は明るく、体の上には女物と思われる上着が掛けられていた。
鉛のように重い体をゆっくりと動かして周囲を見回しながら起き上がると、そばの木の根元でエメラルドが目を閉じているのが見える。少し疲れてるようにも見えるが、それでも何ら遜色の見えない美貌の主は、こちらの動きに気づいたようにその目を開き、名前の色した瞳を見せた。
そして落ち着いた様子で訊いてくる。
「お目覚めの気分はどう?」
「怠いです」
素直に感想を伝えれば、同情もなく彼女は「自業自得ね」と呆れたように言ってきた。
眠っている間に魔術士の通過儀礼だか洗礼だかを受けたような気がするが、目覚めの悪さのせいで、全部が夢だったような気もする。次元の狭間だったか。ひどく白い場所で、それがより夢のような気にさせるのだろう。ただ、あの場所にいた人は妙な威圧感と違和感があったように思う。
硬い地面に寝ていたせいだろう、節々や腰や背中が痛む体をさすったりしつつ起き上がったクリアは、いつの間にか目の前に来ていた年上の少女を見上げた。
腕組みをして見下ろしてくるその姿は、美醜には詳しくないクリアですら一見で美しいと思わせる程度に人間離れしたものだ。
これがあの有名な代表首席かと改めて観察していると、腕組みを解いてびしっと片方の指でエメラルドはこちらを指し示してくる。
「って訳で、私が貴方の師匠になったエメラルド=リリアよ。今後はエメちゃん、或いはお師匠様と呼びなさい」
「はぁ……では、師匠で」
今ひとつ自覚は無かった。
彼女が師匠であることではなく、自分が魔術士になったことの方が。
けれど魔術士に導いた者も師としての何かがあると聞くので、ここまではっきり言われるからには彼女は師匠になったのだろうし、自分は導かれて魔術士になったのだろう。
「何よ。反応悪いわね」
「実感が薄いもので」
魔術士になるとはそういうものだろうかと思いつつ返事をしたクリアに、少し沈黙を挟んだ後でエメラルドが尋ねてくる。
「貴方、確か筆記ではずっと首位だったんでしょ? つまり魔術書は相当数読んでるはずよね?」
「ええ、まぁ」
「一個でも思い出してみなさい? わかるわよ」
言われるがままに最近読んだ魔術書の一つを記憶から思い出し……絶句する。
読んだときはただの文章でしかなかった。
記憶するにも、細部まで覚えるためには己の記憶力を駆使するしかなかったそれが、まるで全部刻み込まれたかのようにはっきりと思い出せる。
魔術士特有の記憶能力。一度読んだ魔術書を己の中に保管するもの。学園都市で話には聞いていたが、自分にはずっと無縁だったものだ。
昨日の夕食よりもはっきりした記憶のソレは、今までと比べれば明らかに異常で、だから認めざるをえなかった。
じゃああの白い空間で会った人は本当に次元の狭間の主だったのか。全ての魔術士の上に立つ存在。
想像していたよりも若々しい姿をしていた。
それはともかく。
「ね、貴方も今日から魔術士なのよ」
嬉しそうにエメラルドが言う。
「しかもこの私の、最初で最後の弟子になるんだから。もっと喜んでいいのよ」
そう言う彼女の方が喜んでいるように見える、というのは流石に口にしなかった。
目が覚めると周囲は明るく、体の上には女物と思われる上着が掛けられていた。
鉛のように重い体をゆっくりと動かして周囲を見回しながら起き上がると、そばの木の根元でエメラルドが目を閉じているのが見える。少し疲れてるようにも見えるが、それでも何ら遜色の見えない美貌の主は、こちらの動きに気づいたようにその目を開き、名前の色した瞳を見せた。
そして落ち着いた様子で訊いてくる。
「お目覚めの気分はどう?」
「怠いです」
素直に感想を伝えれば、同情もなく彼女は「自業自得ね」と呆れたように言ってきた。
眠っている間に魔術士の通過儀礼だか洗礼だかを受けたような気がするが、目覚めの悪さのせいで、全部が夢だったような気もする。次元の狭間だったか。ひどく白い場所で、それがより夢のような気にさせるのだろう。ただ、あの場所にいた人は妙な威圧感と違和感があったように思う。
硬い地面に寝ていたせいだろう、節々や腰や背中が痛む体をさすったりしつつ起き上がったクリアは、いつの間にか目の前に来ていた年上の少女を見上げた。
腕組みをして見下ろしてくるその姿は、美醜には詳しくないクリアですら一見で美しいと思わせる程度に人間離れしたものだ。
これがあの有名な代表首席かと改めて観察していると、腕組みを解いてびしっと片方の指でエメラルドはこちらを指し示してくる。
「って訳で、私が貴方の師匠になったエメラルド=リリアよ。今後はエメちゃん、或いはお師匠様と呼びなさい」
「はぁ……では、師匠で」
今ひとつ自覚は無かった。
彼女が師匠であることではなく、自分が魔術士になったことの方が。
けれど魔術士に導いた者も師としての何かがあると聞くので、ここまではっきり言われるからには彼女は師匠になったのだろうし、自分は導かれて魔術士になったのだろう。
「何よ。反応悪いわね」
「実感が薄いもので」
魔術士になるとはそういうものだろうかと思いつつ返事をしたクリアに、少し沈黙を挟んだ後でエメラルドが尋ねてくる。
「貴方、確か筆記ではずっと首位だったんでしょ? つまり魔術書は相当数読んでるはずよね?」
「ええ、まぁ」
「一個でも思い出してみなさい? わかるわよ」
言われるがままに最近読んだ魔術書の一つを記憶から思い出し……絶句する。
読んだときはただの文章でしかなかった。
記憶するにも、細部まで覚えるためには己の記憶力を駆使するしかなかったそれが、まるで全部刻み込まれたかのようにはっきりと思い出せる。
魔術士特有の記憶能力。一度読んだ魔術書を己の中に保管するもの。学園都市で話には聞いていたが、自分にはずっと無縁だったものだ。
昨日の夕食よりもはっきりした記憶のソレは、今までと比べれば明らかに異常で、だから認めざるをえなかった。
じゃああの白い空間で会った人は本当に次元の狭間の主だったのか。全ての魔術士の上に立つ存在。
想像していたよりも若々しい姿をしていた。
それはともかく。
「ね、貴方も今日から魔術士なのよ」
嬉しそうにエメラルドが言う。
「しかもこの私の、最初で最後の弟子になるんだから。もっと喜んでいいのよ」
そう言う彼女の方が喜んでいるように見える、というのは流石に口にしなかった。