退学者は揺蕩う 1
文字数 1,249文字
どこまで本気なのか。
醒めた気持ちで聞いていると、深淵の向こうの声は続ける。
「道端でただのたれ死んだら墓すら立たないでしょ。まぁ私が埋葬したところでその辺の石ころ上に乗せるだけだけどね」
希望なら火葬にして骨を埋めてあげる、と。
語る声はどこまでも本気で、脅しとか脅迫ですら無かった。
ただ本気でそういう可能性があることを考慮し、その場合どうするかを検討している。この人は本気で自分が死ぬことを視野に入れて行動しているんだ、とクリアは理解した。そこに人を殺すかもしれない感傷は全く感じられない。
理解したところで焦る気持ちも起きなかったが。
深淵の外からの声は続く。
「貴方が魔術を使わないと戻れないように私が押さえ込んでる。使えば戻ってこれるし、使わなきゃそこでずーっとそのままよ。ただし深淵じゃそのままでも魔力は消耗していくし、ずっと深淵にいるままじゃ食事も何もできないから、そのうち体の方が力尽きて死ぬ。そうすればそこにいる貴方もそのまま消滅ね」
そこまでして魔術士にさせたいのか。一歩間違えば殺人の汚名をかぶるのも厭わず。
もちろん、もう退学になって、しかも身寄りのない自分が此処で死んだところで探す人もいないし、あんな森の中では目撃者もいないから、まず殺人の前科が成立しないのは理解していたが。
殺したいだけ、にしては回りくどいし意味がない。
何よりこの人は、そういう衝動的なものと無縁な気がする。
危うく殺されかけている今のこの状況には何とも思わないけど、会ったこともなかったこの代表首席がそこまでする理由が全くわからない。こちらが頼んだ訳でもないのに。
クリア自身の知らない何かを知っているとは言っていたけれど、エメラルドも自ら初対面だと言っていたから、過去に会ったこともない筈なのに。
「どうして?」
貴方は何をしたいんですか。何で僕に関わるんですか。何を望んでるんですか。
そんな全部の入った問いかけに、深淵の向こうは一瞬静かになった。
「理由、知りたいの?」
しばらくの後、どこか意外そうに問いかけてくる。
それに答えるよりも前、エメラルドはくすくすと笑いながら話してくれた。
「まずはね、依頼。貴方を助けてっていう依頼を受けたのが一つ」
誰から、と問う前に話は続く。
「次に、私が貴方の状態に興味を持ったというのが一つ」
言いながら、指折り数えている仕草が見えるようだった。あの華美な外見を持つ先輩は、おそらくまだ自分の背中の上に乗ったままで喋ってるような気がする。
「最後、これが一番大きい理由だけど」
こちらの興味を引くような一瞬の間。
さすが生徒代表首席も務めるだけあって、人を惹きつけるような会話が上手い。
「私、一度でいいから師匠ってやつになってみたかったのよね。でも面倒だから、弟子は一人でよかったの。そこに丁度よく貴方が入学して来たってとこ」
完全なる自己都合かつ欲望が、理由として一番大きいらしい。
清々しいまでに身勝手な内容を、これ以上なく堂々とその人は教えてくれた。
醒めた気持ちで聞いていると、深淵の向こうの声は続ける。
「道端でただのたれ死んだら墓すら立たないでしょ。まぁ私が埋葬したところでその辺の石ころ上に乗せるだけだけどね」
希望なら火葬にして骨を埋めてあげる、と。
語る声はどこまでも本気で、脅しとか脅迫ですら無かった。
ただ本気でそういう可能性があることを考慮し、その場合どうするかを検討している。この人は本気で自分が死ぬことを視野に入れて行動しているんだ、とクリアは理解した。そこに人を殺すかもしれない感傷は全く感じられない。
理解したところで焦る気持ちも起きなかったが。
深淵の外からの声は続く。
「貴方が魔術を使わないと戻れないように私が押さえ込んでる。使えば戻ってこれるし、使わなきゃそこでずーっとそのままよ。ただし深淵じゃそのままでも魔力は消耗していくし、ずっと深淵にいるままじゃ食事も何もできないから、そのうち体の方が力尽きて死ぬ。そうすればそこにいる貴方もそのまま消滅ね」
そこまでして魔術士にさせたいのか。一歩間違えば殺人の汚名をかぶるのも厭わず。
もちろん、もう退学になって、しかも身寄りのない自分が此処で死んだところで探す人もいないし、あんな森の中では目撃者もいないから、まず殺人の前科が成立しないのは理解していたが。
殺したいだけ、にしては回りくどいし意味がない。
何よりこの人は、そういう衝動的なものと無縁な気がする。
危うく殺されかけている今のこの状況には何とも思わないけど、会ったこともなかったこの代表首席がそこまでする理由が全くわからない。こちらが頼んだ訳でもないのに。
クリア自身の知らない何かを知っているとは言っていたけれど、エメラルドも自ら初対面だと言っていたから、過去に会ったこともない筈なのに。
「どうして?」
貴方は何をしたいんですか。何で僕に関わるんですか。何を望んでるんですか。
そんな全部の入った問いかけに、深淵の向こうは一瞬静かになった。
「理由、知りたいの?」
しばらくの後、どこか意外そうに問いかけてくる。
それに答えるよりも前、エメラルドはくすくすと笑いながら話してくれた。
「まずはね、依頼。貴方を助けてっていう依頼を受けたのが一つ」
誰から、と問う前に話は続く。
「次に、私が貴方の状態に興味を持ったというのが一つ」
言いながら、指折り数えている仕草が見えるようだった。あの華美な外見を持つ先輩は、おそらくまだ自分の背中の上に乗ったままで喋ってるような気がする。
「最後、これが一番大きい理由だけど」
こちらの興味を引くような一瞬の間。
さすが生徒代表首席も務めるだけあって、人を惹きつけるような会話が上手い。
「私、一度でいいから師匠ってやつになってみたかったのよね。でも面倒だから、弟子は一人でよかったの。そこに丁度よく貴方が入学して来たってとこ」
完全なる自己都合かつ欲望が、理由として一番大きいらしい。
清々しいまでに身勝手な内容を、これ以上なく堂々とその人は教えてくれた。