代表首席は激怒した 1

文字数 1,198文字

 天気のいい、穏やかな日だった。
 いつものように家を出て、特に用もないけれど真っ先に学園内のお知らせが載っている掲示板の並ぶ広場にやって来た。周りには彼女と同じく学園都市在住の者たちがちらほらといる。取り敢えず毎日一度はここを眺めないと落ち着かない病でも発症しているかのように、特に理由がなくても学園都市の住人たちはここに来る癖があった。
 この都市における連絡事項の大半は、人探しから学園長からの呼び出しまで、全部がここに張り出されるからだろう。
 とりあえず彼女もそんな住人の例に漏れず、ふらふらと鼻歌混じりに変わり映えのないその掲示板を隅から隅までさっと眺め。
 端っこも端っこ、それこそ各種お知らせの紙に場所を取られ申し訳なさげに掲示されている小さな紙を見つけ、それを読んだ瞬間に絶句した。
「……は?」
 二、三度、見直しても文面は変わらない。
 学園都市では実に数十年ぶりかもしれない退学者のお知らせである。日付は今日。
「……はああああ!?」
 思わず叫んだ彼女を、周囲にいた者たちがぎょっと振り返った。
 まるで親の仇でも見るかの如く掲示板を睨むその姿に、殆どの者が一方的に見覚えがあったので、どうしたのだろうと不思議そうに彼女の次の挙動を見守る。

 長い金の髪。
 新緑の目。
 顔も全身も完璧に整い過ぎて、まるで魔族か天使だとすら揶揄される美貌の少女。
 その名をエメラルド=リリアという。

 現在の学園都市で知らぬ者の方が少ない、この数年ずっと学生代表首席の座にいる、つまり学園都市で最も優れた生徒と自他共に認めている生徒である。行事における代表挨拶には必ず姿を見せるし、そんな立場すら無くったって兎に角際立った存在感を併せ持つ人外規模の美貌の持ち主だから、本人と話したことがなくても顔を知らない住人の方が少ない。
 まずもって最終学年になる数年前から生徒代表の首席になってるあたりで、その能力は疑うべくもなく高く。
 飛び級など無いが、生徒代表首席になってからずっと、自分より上の学年首席も余裕で突き放す結果を出し続けている驚異の生徒。
 まだ卒業していないだけで、実際には名だたる研究者並の成果を出し、余りまくったその才能に並み居る教師が持て余してしまい、現在は学生でありながら学園長直轄の研究室在籍という歴代代表首席の中でも飛び抜けた出来の良さである。その結果も含め、とにかく彼女は現在の学園都市の中で有名人だった。
 稀代の天才との呼び声も高い。

 ただ、有名になっている理由はそれだけではなかった。

 そんなエメラルドは。
 すっと、流麗な動きで拳を振り上げた。その動作一つとっても美しく、周囲はただ動きを見守ってしまう。
 だから次に起こることを防ぐことは誰にもできなかった。

「あんの耄碌学園長おおおおお!」
 振り下ろされた拳の周囲で激しい爆音が響き、さっきまで掲示板だった部分がひと一人分程度破壊された。
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