退学者、襲われる 2

文字数 1,407文字

 門の女性が言った通りの外見。
 彼女よりも濃い色でふわふわの金の髪をした年下の少年は、出会い頭にその体を押し倒し抑え込んだ彼女に対して文句を言うでもなく、名前を確認したら小さく頷いて肯定した。振り返ってこちらの顔を見ようともせずに。
 相手がクリアで間違いないのは分かっていたが、どうにも反応が気に食わない。
 生気がなさすぎる。
「私はエメラルド。エメラルド=リリアよ」
「あぁ。代表首席の」
 彼女の名乗りに対し、やっぱり生気がないままの少年は、全く感情が込もってない声を出した。
 どういうことだろう。
 普通、こんな理不尽な状況において何も感じないなんてありえない。
 仮に冷静なふりをした所でそれはふりでしかなく、心の中にはいろんな感情が渦巻いているものだ。それなのに、この少年はそういうふりをしている訳ではない。この状況に対して、本気で何も思っていないのだ。
 地面に体を押し付けられたまま、理由も分からず上に乗られたままの状態を。
 こちらを確認するほどの興味も抱かず。
(まるで人形に話しかけてるみたい)
 なにがどうしたらこんな子どもに育つのか。
 確かにあの学園都市でずっとなり損ないの生徒として暮らしてれば軽いイジメの一つ二つあったのだろうと容易に推測はできるが、単なるイジメだけでは、ここまで感情停止はしない。もしや退学のショックかとも思ったが、その事すら意に介してないような気がする。

 これは普通の子どもではない。
 同じくまだ大人とは言えない年齢の彼女ではあったが、この短い時間の反応でそれを理解した。

 だが、それをもって自分が相手に関わるという選択肢に一切の曇りは無い。
 だって、どうだっていいのだ。
 仮にこの子が極悪人であろうが世界中に疎まれてようが命すら狙われてようが生きているべきでは無い者だろうが、エメラルドが関わると決めた。それが全部である。やることは何も変わらない。
 少しの思考を終え、彼女は続きを話しかける。
「知ってるなら話が早いわ。貴方、今から私の弟子ね」
「は?」
「元からそのつもりだったのよ? だから学園長に貴方が入学した時からお願いしてたのに、あの耄碌ジジィ約束忘れて貴方を退学にしちゃうんだもの。そりゃ私の方が来る以外方法がなくなっちゃうじゃないの」
「すいません。何を言ってるんですか?」
 その背中に踏ん反り返ったままで語る彼女に、少年が感情のないままの声で問いかけてくる。
 一応その程度の関心はあったかと思いたいが、これはそうじゃないのだ。残念ながらエメラルドにはわかってしまう。
 問いかけてはいるが、やっぱりそこに感情はない。
 今日は晴れてますねとかそういう無意味な会話と同列に、話をしている。
 問いかけの体を成してはいるが、それはあくまで状況に合わせているだけで、実際にはどうでも良いと思っているのだろう。仮にここでエメラルドが答えなかったとしてもなんとも思わない。これは、そういう子だ。例えばここで自分が「貴方を殺しにきたわ」と言っても、きっと反応は似たようなものに違いない。
(なるほど、ねぇ?)
 普段からコレでは、なり損ないであるという以前でいじめがあったかもしれないが、本当にそれはどうでも良いので彼女は目の前にある金の後ろ頭をぐりっと撫でた。
 彼女からすれば、どんな相手だろうが一緒である。
「私が、貴方を魔術士にするっつってんの」
 わかった? と続けたけれど、応えはなかった。
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