退学者、襲われる 3

文字数 1,694文字

 学園都市の、現在の生徒代表首席は、史上稀にみる存在だという。

 その見た目の華美さ、首席を維持する才能、そして魔術士でありながらどういうわけか突出した身体技能。
 特徴を挙げ列ねるとキリがない中でも、それを差し置いて最大に彼女を有名にさせていたのが性格的問題だった。
 これだけ恵まれた条件が揃っているのだからさぞ優等生かと思いきや、実際には毎日のようにどこかで問題を起こしている悪童でもあったからである。その無茶苦茶な武勇伝の数々を、1つも知らない在学生は殆どいない。

 噂に聞く生徒代表首席は、美しく繊細な芸術品のごときその外見には似合わぬ、とても強気で勝気で短気な性格だという。声しか聞こえなくても、その噂はきっと本当だったのだと分かる程度に、背後の相手は印象的な言動をする。これで才能まで突出してるのだから、確かに学園都市の教師陣は持て余しそうだ。
 環境的要因から、学園都市は意外に問題児が少ない場所だったから。

 しかも、代表首席でありながら、反省文の数も現役生徒一位らしい。

 まことしやかに囁かれるその噂も、耳にした教師陣が誰一人として否定してないらしい辺り信憑性が高そうだった。
 そんなことはない、と表向きだろうが反論されない事こそが異例である。
 また在学中の生徒としては異例の学園長直轄となっているのも、才能と性格が合わさって教師陣が誰も手に負えなくなったが故にであると言われる。これに関しても教師陣からの否定は無いという。
 こんな、出会い頭に人を蹴倒したまま会話できるほど豪胆な性格の女子を、むしろ学園長はよく担当したなとすら思う。
 この相手が、仮に学園長であっても態度を変えるとは思えない。

 最高の問題児にして最高の生徒。誰の手にも負えない緑の宝石。

 今の学園都市で彼女を知らない人間はほぼいない筈だ。
 筆記では常に首席であったとはいえ、既に退学処置を受け生徒ですらないクリアとは天地の差がある相手だった。

 その代表首席が、自分の師匠になると言う。
 どころか、学園都市でも見放された自分を魔術士にすると豪語している。

 そう言われて真っ先にクリアが思ったのは。
(確かに、変わった人だ)
 という感想だった。まず率先して自分に関わろうというその行動から理解できない。

 相手も知っている通り、自分は退学になった身だ。
 世界最高峰とも言われる教育環境がある魔術学園都市にいながら魔術士になれなかった、落ちこぼれ中の落ちこぼれ。
 そんな自分と真逆に位置する相手が自分の名を知っている事すら驚くのに、退学になった過程も知った上でそう言っているなら、よほど自信があるか傲慢かのどちらかでしかない。
 この人の場合はどうだろう。
 どちらもあり得る、気がする。

 そう心の中で値踏みして、それでも悪い気は起きなかった。これが他の誰かなら不快さのカケラくらいは感じそうだが、この年上の少女相手には何も思わない。むしろ相手が「そう振る舞うのは当然のこと」、そんな気さえする。
 振り返ってその姿を確認するまでもなく、そう思わせる何かがある。
 背後でただ名乗っただけの彼女が本当に本物の「生徒代表首席であるのか?」という疑念をクリアに抱かせない程に。普通の人間とは何かが異なる、圧倒的な存在感というか異質感というか超越感というか、そういったものが声だけの相手から伝わってくる。
 きっと抵抗は無意味なのだろう。この相手には。
 理由もなくクリアは確信していた。
「学園都市ですら無理だったんですけど」
 それでも一応こう言ったのは、相手に無駄な時間を使わせないためだ。
 こんなことで翻意してくれると思うほど能天気ではないが、後になってこれは無駄足だったと言われるのも複雑だから。
「だから、退学になったんですが」
 静かに背中の上の人に伝えれば、向こうからは鼻で笑う気配がした。
 顔もまだ知らないが、きっととても自信に満ちた顔をしているんだろうな、と彼は思った。
 そんなことを思っていたら、背後から返事がくる。
「知ってるわ。その理由すら含めて、全部知ってるのよ」
 だから来たのだと言われれば、もう何も言うことはなかった。
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