番外編 春よ来い
文字数 2,077文字
この男は、何を大人ぶっているのか。
いや、大人なのは確かだけれど、つまらないプライドというやつではないか。
好きなら好き。それに尽きると私は思うのだけれど、社長の息子なんて立派な名刺つきの男にしてみたら、久しぶりに入った新入社員の女の子を好きになってしまった事実を受け入れることは、なかなかできないみたい。
悪いけど、応援しないよ。長いつき合いでも、そこは譲れない。
だってね、彼女とっても可愛いのよ。いつも一生懸命で、頑張りますっなんて本気で力んで胸の前で両手を握られてみなさいよ。私が男なら確実に、そして速攻で落としてるわよ。
残念ながら、私は女でそっちのけもないわけだから、頼れる先輩としてそばにいるのだけれど。
いや、そんな私の話はいいのよ。
あいつよ。あ、い、つ。
ホント、バッカじゃないのって思うわけ。変にお金を持ってるのも考えものよね。
何かしてあげたいなんて思うと、すぐにお金を使ってなんとかしようっていう行動に出ちゃうんだから。
いや、いいのよ。私はお金が大好きだから、寧ろそんな男が近づいてきたら、あれもこれも際限なく買ってもらっちゃうけどね。
ただ、相手が悪いよ。恐縮しまくりじゃない。
そりゃそうよ。あんなたっかいワイン飲まされて、高級グラスプレゼントされて、しまいにはクリスマスディナーに航空チケットでしょ。普通の女子なら、何かあるって引くから。
そうじゃないのよ。やり方が間違ってるのよ。
女の子は、強引さと優しさに、コロッと参っちゃうんだから。
そういった点では、彼女が一緒にいる彼は、まさにそれに当たるのよね。
まー、大学の時からの付き合いみたいだし。歓迎会のお外で喧嘩していた割には、結局ラブラブでしたしね。
私なんておひとりさまが続いていたから、ホンット羨ましくって、窓ガラス越しに見えちゃってる抱き合う姿に、邪魔してやろーかと思うくらいのイチャコラぶりだったんだから。
あれ見て、まだ自分の気持ちに気づきもせずに、気が気じゃない顔してるあいつの顔ったらなかったわ。
大人の対応してきた割には、情けないっていうの。そんな顔するくらいなら、大人対応なんてやめとけばいいのにね。
仕方なく、私が飲むのに付き合ってあげたわけだけれど。
だいたい、私にも高級ワイン奢ってくれてもいいと思わない? 今まで随分といろんなこと助けてあげたと思うのよ、私は。
この仕事のこと、右も左も分からないままのボンボンに手取り足取りよ。
まー、もともと眉間にしわ寄せて考えるくらい真面目な性格してるから、覚えははやかったけどね。
ワインを仕入れに行く姿なんて、今では様になってるし。
あ、あれ。実は、私も行きたいのよね。
実際にぶどう農園に行って、出来を見て、仕入れの交渉をする。もう、やりがいありまくりじゃない?
この年のブルゴーニュは、雨が多いから云々とか訳知り顔で言って試飲してきたいわけよ。
まー、一社員の私が仕入れに同行なんて、この先もないだろうけれど。
そうそう。お正月の初詣よ。クリスマスで知り合った、ちょっといい男。不動産関係の仕事っていうから、期待したわよ。見た目もいいし、話も上手だし。
でもね、気になったのがスーツよ。安物だってわかっちゃって。
食事した時よ。ジャケットを脱いだらタグが見えて、よくある量産スーツショップの名前がね。
あれれ、これってたまたま? なんて思ったけど、私って一度気になると色々と見えてきちゃって。
今度は、靴よ、靴。革靴の底が、ものすっごく急斜面にすり減ってたの。
営業だから、仕方ないなんて駄目よ。お客相手にしてるなら、身なりは大切でしょ。きっちり磨かれて、靴底もこまめに直さなくちゃ。
あ、また話が逸れたわ。そうそう、私じゃなくてあいつの話よね。
要するに、年齢だのなんだの、くだらないことを気にして考えた結果。彼女には、彼が必要なんだ。
だって。
欧米人並みに両手広げて、はぁ? って言ってやってわよ。好きならお得意のお金でもなんでも使って、ものにしてみなさいっての。全く、これだからジュニアは。
救いは、一緒に働いているから、いつかチャンスは来るかもって事くらいかしら?
まー、あの二人が別れることを願うなんて、人としてどうかって話だけどね。
そもそも、それまで我慢できるのか? ってことよ。
「さっきから何考えてんだよ」
「煮え切らなくて、好きな女を諦めたおバカなやつのことを考えてました」
肩をすくめると、目の前のジュニアが溜息を吐いた。
これは後悔の溜息か?
「あとの祭りよ」
「わかってる」
「邪魔しちゃ駄目だからね」
「それもわかってる」
「ホントかなぁ」
猜疑心丸出しで見たら、高級ワインをがぶ飲みしてるし。らしくなさ過ぎてこっちが凹むわ。
「ホントバカ」
「吉川に言われたくない。スーツと靴で男ふるなんて、普通に無いだろう」
「お互い様か〜。あーあ」
私たちの春は、まだ遠い。
いや、大人なのは確かだけれど、つまらないプライドというやつではないか。
好きなら好き。それに尽きると私は思うのだけれど、社長の息子なんて立派な名刺つきの男にしてみたら、久しぶりに入った新入社員の女の子を好きになってしまった事実を受け入れることは、なかなかできないみたい。
悪いけど、応援しないよ。長いつき合いでも、そこは譲れない。
だってね、彼女とっても可愛いのよ。いつも一生懸命で、頑張りますっなんて本気で力んで胸の前で両手を握られてみなさいよ。私が男なら確実に、そして速攻で落としてるわよ。
残念ながら、私は女でそっちのけもないわけだから、頼れる先輩としてそばにいるのだけれど。
いや、そんな私の話はいいのよ。
あいつよ。あ、い、つ。
ホント、バッカじゃないのって思うわけ。変にお金を持ってるのも考えものよね。
何かしてあげたいなんて思うと、すぐにお金を使ってなんとかしようっていう行動に出ちゃうんだから。
いや、いいのよ。私はお金が大好きだから、寧ろそんな男が近づいてきたら、あれもこれも際限なく買ってもらっちゃうけどね。
ただ、相手が悪いよ。恐縮しまくりじゃない。
そりゃそうよ。あんなたっかいワイン飲まされて、高級グラスプレゼントされて、しまいにはクリスマスディナーに航空チケットでしょ。普通の女子なら、何かあるって引くから。
そうじゃないのよ。やり方が間違ってるのよ。
女の子は、強引さと優しさに、コロッと参っちゃうんだから。
そういった点では、彼女が一緒にいる彼は、まさにそれに当たるのよね。
まー、大学の時からの付き合いみたいだし。歓迎会のお外で喧嘩していた割には、結局ラブラブでしたしね。
私なんておひとりさまが続いていたから、ホンット羨ましくって、窓ガラス越しに見えちゃってる抱き合う姿に、邪魔してやろーかと思うくらいのイチャコラぶりだったんだから。
あれ見て、まだ自分の気持ちに気づきもせずに、気が気じゃない顔してるあいつの顔ったらなかったわ。
大人の対応してきた割には、情けないっていうの。そんな顔するくらいなら、大人対応なんてやめとけばいいのにね。
仕方なく、私が飲むのに付き合ってあげたわけだけれど。
だいたい、私にも高級ワイン奢ってくれてもいいと思わない? 今まで随分といろんなこと助けてあげたと思うのよ、私は。
この仕事のこと、右も左も分からないままのボンボンに手取り足取りよ。
まー、もともと眉間にしわ寄せて考えるくらい真面目な性格してるから、覚えははやかったけどね。
ワインを仕入れに行く姿なんて、今では様になってるし。
あ、あれ。実は、私も行きたいのよね。
実際にぶどう農園に行って、出来を見て、仕入れの交渉をする。もう、やりがいありまくりじゃない?
この年のブルゴーニュは、雨が多いから云々とか訳知り顔で言って試飲してきたいわけよ。
まー、一社員の私が仕入れに同行なんて、この先もないだろうけれど。
そうそう。お正月の初詣よ。クリスマスで知り合った、ちょっといい男。不動産関係の仕事っていうから、期待したわよ。見た目もいいし、話も上手だし。
でもね、気になったのがスーツよ。安物だってわかっちゃって。
食事した時よ。ジャケットを脱いだらタグが見えて、よくある量産スーツショップの名前がね。
あれれ、これってたまたま? なんて思ったけど、私って一度気になると色々と見えてきちゃって。
今度は、靴よ、靴。革靴の底が、ものすっごく急斜面にすり減ってたの。
営業だから、仕方ないなんて駄目よ。お客相手にしてるなら、身なりは大切でしょ。きっちり磨かれて、靴底もこまめに直さなくちゃ。
あ、また話が逸れたわ。そうそう、私じゃなくてあいつの話よね。
要するに、年齢だのなんだの、くだらないことを気にして考えた結果。彼女には、彼が必要なんだ。
だって。
欧米人並みに両手広げて、はぁ? って言ってやってわよ。好きならお得意のお金でもなんでも使って、ものにしてみなさいっての。全く、これだからジュニアは。
救いは、一緒に働いているから、いつかチャンスは来るかもって事くらいかしら?
まー、あの二人が別れることを願うなんて、人としてどうかって話だけどね。
そもそも、それまで我慢できるのか? ってことよ。
「さっきから何考えてんだよ」
「煮え切らなくて、好きな女を諦めたおバカなやつのことを考えてました」
肩をすくめると、目の前のジュニアが溜息を吐いた。
これは後悔の溜息か?
「あとの祭りよ」
「わかってる」
「邪魔しちゃ駄目だからね」
「それもわかってる」
「ホントかなぁ」
猜疑心丸出しで見たら、高級ワインをがぶ飲みしてるし。らしくなさ過ぎてこっちが凹むわ。
「ホントバカ」
「吉川に言われたくない。スーツと靴で男ふるなんて、普通に無いだろう」
「お互い様か〜。あーあ」
私たちの春は、まだ遠い。