第16話

文字数 1,438文字

次の日の昼前に志保から携帯に連絡が入った。
夕方五時にホテルのラウンジで売主の代理人と会う予定をしてくれていた。
そこからはその人と話をしてくれと志保は告げた。
もちろんホテルには志保も一緒に来てくれるとの話であった。
窪田は五時にホテルに行く約束をして携帯を切った。
午前中に昨夜話していた土地を調べたところ,恵比寿のその場所は他の不動産ブローカーも手に入れたい場所で志保の言った価格は誰でもが欲しがる値段だった。
本当にその価格で手に入るのならば、その場所にマンションを建てれば何億という利益が期待できた。
窪田は約束の五分前にそのホテルのラウンジに入った。
すでに志保と初老の男性が席に座っていた。
志保はラウンジのドアを開けた窪田を見かけると、椅子から立ち上がって右手を小さく振った。
テーブルについた窪田はサッと名刺を出した。
初老の男性も窪田の動きから少し遅れてテーブルの上に置いていた名刺入れから名刺を取り出し窪田の名刺と交換した。
初老の男性が差し出した名刺にはジャパンプランニングという不動産コンサルタントを掲げる社名と宮本典雄と記されていた。
「はじめまして、宮本と申します」
「こちらこそ、窪田不動産の窪田です。
昨夜志保さんからお話いただき、早速会えて光栄です」
窪田は初めて会った宮本とはどんな人間なのだろう、志保とはどういう関係なのだろう?
と思ったが、そこは今聞くところではないので早速本題に入ることにした。
「この土地は斎藤さんという七十代の人が所有しておられる土地ですよね」
窪田は午前中に調べた所有者の名前を言って、前もってどういう場所であるかを調べていることを敢えて宮本に話した。
「その点は大丈夫です。
すでに私が本人から売買契約を任された委任状を書いてもらってますし、本契約の時は本人が契約にも立ち会うように話していますから…」
そう言って宮本が代理人であるということを窪田に告げた。
宮本と持ち主の斉藤との関係を聞くべきかを窪田は迷ったが、志保の紹介ということもあってそのことをあえて聞く事はしなかった。
宮本は志保だからこそこの話をもってきたのだと話した。
自分の娘と志保が幼なじみということで、志保に話をしたところ、いい人がいると聞かされて、今会っているのだとも言った。
ただ、窪田が買わなくとも購入希望はいくらでもいるから無理はしなくてもいいとも言ってきた。
窪田にしてみれば、いい話には間違いはなかったが、一度その土地を見てからもう一度話を煮詰めさせて欲しいと頼んだ。
そこで来週の月曜日に物件の内覧を実施することになった。
そこまで話をすると宮本が「これから別の商談がありますので、これで失礼します。
次回は月曜日の午後一時に恵比寿の駅前の喫茶店でお会いしましょう」
そう言って二人より先にラウンジのドアから出て行った。
「時間があまりなかったのを無理言って今日会ってもらったの…。
早い方がクーさんもいいかと思って…」
昨日の今日で話は急だったが、いい話ならば早い方がいい。
いい話を持ってきてくれた志保にこの契約がうまくいけば、ちゃんと礼をする事を話した後に、月曜日には店に顔を出す約束をして志保と別れた。
何でも今からジムで汗を流すとかで志保も忙しそうにしていた。
窪田は会社に帰ると従業員に月曜日に行く恵比寿の土地の様子を調べるように命じた。
やはり七億円の物件である。
調べられる事はちゃんと調べる必要があった。
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