第11

文字数 1,329文字

俊樹は美香の父親と会う日となった。
その日俊樹は少し緊張気味で、待ち合わせのホテルのラウンジに時間より少し前に訪れた。
時間の前だったが父親はすでに席に座っていた。新川裕次郎という名でいかにも石原裕次郎を意識しているようだった。
グレーのダブルのスーツが俊樹にとって余計威圧感を感じさせた。
裕次郎を見つけた俊樹は気を引き締めて足早にテーブルについた。
「お久しぶりです。お父さん!」
緊張はしていたが明るく振る舞おうとした俊樹に、裕次郎は少し不機嫌気味に俊樹に目をやった。
「俊樹君、今日は何故君だけを呼んで話をするのかがわかっているかね…?」
突然というか全く考えてもない質問を浴びされた俊樹は、少し体を膠着させて言葉を濁した。
「い、いえ、わかりません…」
ま、まさか…。
テーブルの上に数枚の写真を裕次郎がバラまいた。
「私は信じたくなかったよ…。このような事実を…」
バラまかれた写真には、ホテルの入り口での俊樹とユイが仲良さそうに入る姿が写されていた。
「そ、それは…」
俊樹が言い訳を言おうとしたときに、話を遮るかのように裕次郎が言葉を荒げた。
「これを見て君は、何と言い訳をするつもりなんだ…?」
声が大きくなったことで、周りの客の視線が二人に集まった。
憤慨して立ち上がった裕次郎は、もう一度座り直してから目の前のホットコーヒーを一口すすり、落ち着きを取り戻したように話し始めた。
「実は、美香が旅行に行く前に君に話すつもりだったのだが、本当は美香に幸せになって欲しかったのだ。
娘が結婚して幸せになることが子供から一番の親孝行になるからだ。
だから、旅行中に君がちゃんと娘の帰りを待っていてくれることを信じていたんだ。
だが、万一のことを考えて私は探偵に君の行動を調べてくれるように頼んだのだ。
それでもそれが私の杞憂であってくれとの思いだったよ。
それを君は娘が旅行に出かけたその日から、この様だ。
その日から毎日のように密会を重ね続けて娘が帰る前日までそれは続いた。
君を全面的に信頼していた娘と私は、完全に裏切られたのだ。
その報いは君には受けてもらわなくてはならない。」
そう言うと裕次郎はテーブルの上の水を一息て飲み、言葉を続けた。
「後、二週間で結婚式と言う時にこのような屈辱は耐えがたいが、君に娘をやるわけにはいかん。
そして以前、約束していたとおり違約金を君に請求する。
本来ならこちらの来賓者にも迷惑をかけるわけだし、娘への慰謝料も請求するところだが、君の
会社のダメージと両親の負担が大きくなる。
これ以上お互いのイメージが悪くなるのは避けようと思うので、約束の条件で済ませてやることにする。」
そう言って初めて会った日に書いた誓約書を鞄からテーブルに投げるように置いた。
それは美香との結婚の前に他の女性と関係を持った場合は結婚を取りやめとして、美香自身に三千万円支払うと書かれた紙であった。
一言も発することができない俊樹は、裕次郎の怒りの言葉を聞くことしかない。
ただ三千万円の金となると俊樹一人の力ではどうにもならない。
結局両親にこの話をして三千万円を支払い、結婚式はキャンセルすることになってしまったのだ。
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