第14

文字数 1,749文字

志保は酒が強かった。
飲みすぎて潰れることなど、客は愚か古株の女の子でさえ見たことがほとんどない。
もっとも古株と言ってもまだ店を開けて二年経っていないので古株とは言えないかもしれないが…。
ドンペリを半分以上開けた時にボーイが、「ママ、お客さんがおかえりです」
と、志保に告げた。
「そう、クーさん、少しの間女の子と飲んでいて…。早めに帰って残りのドンペリいただくわ!」
「うん、わかった。
皆んな、何でも注文して!
なんならフルーツ頼もうか?」
「やったー。私苺の盛り合わせがいいな!」
そう言ってレナは苺の盛り合わせと自分が飲むカクテルを注文した。
「優香ちゃんも何か貰いなさい。
いいわよね、窪田さん…」
「もちろんだとも!遠慮なくどんどん飲んで」
ママがいなくなってから少しテンションの下がった窪田だったが、それは仕事だから仕方のないことであった。
平日だというのにこの店は何時も忙しいんだなと改めて察した窪田だったが、あれだけの女でしかも頭も切れる。
できれば自分のものにできないまでも味方につけておかなければならない女だった。
「ねえ、レナちゃん。
レナちゃんは開店当時からいるから分かるだろうけど、ママは身持ちが固いって噂だよね…」
窪田はそれとなしに開店からいるらしいレナにそっと探りを入れてみた。
「ママを狙ってる人、私が知ってるだけで両手ではまず足りないわよ。
だって、女の私からみても羨ましいくらいの身体しているし、男好きする顔だもの…。
何人が入れ込んでるかは数えられないわ」
ボーイが持ってきた苺の盛り合わせを皿に半分乗せ窪田にそっと差し出した後、自分のを取りひとつ口に入れた。
「美味しい、この苺。
すごく甘いわ!優香ちゃんも食べてみて…。
粒も大きいし、この苺は当たりね!」
窪田は優香に苺を勧めるレナを見ながら三人の裸体を頭に浮かべた。
レナは二十代の後半だろう。
優香は二十代の前半か…?
二人の裸体を想像する。
だが、それでも断然志保の方がいい。
ドレスの下から見える脹脛はまるでカモシカのように引き締まっていて、見るからに締まりが良さそうだ。
ベッドの上で獣のように絡みあえたらどんなに幸せだろうか…。
窪田は顔は人並みだった。
いや、普通の一般人よりかははるかに自信もあった。
金もある。
だが、やはり自分が心底惚れ込む女性となかなか出会えていない。
社会人になり会社に入って少し経った時に親の薦めで付き合いを始めて結婚はしたが、自己中心的な女性で窪田とは性格が合わずに、一年も持たずに離婚した。
その女性とのセックスは淡白で燃えるという表現には全く当たらず、気怠さだけが残るものであった。
それからの窪田は再婚もせずに仕事に専念したが、女は何人も変えた。
窪田は美しい女性ももちろん嫌いではないが、どちらかというと可愛らしい女性が好みだった。
だから、自分好みの女性を見ると関係を持ちたくなり、自分からアプローチをかけることも度々あった。
だが四十を過ぎて父親が亡くなり、自由に大金を動かせるようになってからは、向こうからのアプローチが多くなり、窪田はそれを選べばいいだけだった。
社長夫人になりたい女性も少なくなく、結構な美人もいたのだが、窪田が望むような女性はなかなか現れなかった。
そこに美人で頭のいい若いママがいる店があるからと紹介されたのが志保のパープルだった。
最初に志保を見た時はまだ二十代初めかと思ったくらい童顔で言葉遣いもはっきりしていて、何よりも眼力、目の力に魅入られてしまった。
窪田は半年間かけてパープルに通い続けてようやく志保の目に叶ったのか、仕事の話もできるようになったのである。
そして前回の話であった。
仕事の話からプライベートに持ち込むことはこの世界ではよくあることだ。
仕事で成功させて志保とも関係を持つ。
これが窪田の一番の狙いである。
ただし今回の女は一筋縄ではいかないことは窪田が一番よくわかっていた。
だから何度も足を運んでいたのだ。
焦ってはいない。
窪田には焦る必要など、まるでなかった。
それは金が自由に使える者の強みだ。
待っていれば必ず食いついてくる。
そう思い、窪田は志保からの連絡を待つのだった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み