第10

文字数 1,029文字

「ただいま…。いい子にしてた?」
お土産を山のように持ち帰った美香は、まるで母親のような言い方で俊樹に接した。
「おかえり。美香が今ない二週間、すごく寂しかったよ」
思ってもないこと?でもないが、すっきりした顔を出すわけにはいかない俊樹は、美香の帰りを照れ笑顔で歓迎した。
「私がいない間浮気しなかったでしょうね?」
その言葉を予想していた俊樹は、「できるわけないじゃないか…。もう少しで結婚だぞ!
その前に浮気なんかしやしないよ…」
昨夜もユイとたっぷり身体を重ねあったばかりの俊樹は、そんなことがまるでなかったような口調で話し始めた。
「それより美香、後二週間で結婚式だけど、美香の来賓者は何人くらいになったんだ?」
浮気の話をはぐらかすように俊樹は話をすり替えようとした。
「それは旅行に行く前に名簿渡したじゃない。
何かあったの?」
今までと同じような行動を取ろうとしている俊樹だったが、何故か美香に悟られそうな感じになったことに少し慌てた。
「いや,何にもないけどもう直ぐ結婚式だから、ちゃんと進んでるかなと思って…」
「なんか変なの…」
ちょっと不安がった美香だったが、何とかその場は抑えることができたと俊樹は思った。
「それはそうと明日パパと会って話をするの覚えている?」
そういえば美香が旅行に行く前に「帰ってきたら、パパが話があるからって言ってたから、ちゃんと時間とってよ!」
と、話をしていたのを思い出した。
「ああ…、そうだったな。
あのお父さんとまた会わなくちゃいけなかったんだな…」
実は俊樹は美香の父が少し、いや少しどころか凄く苦手だった。
建築関係の会社の社長をしているらしいが、凄みがあって目が合うと心が見透かされている感じがするのだ。
二度会っただけだが、一度目は美香との契約書を目の前で書かされた。
それは美香から最初に紹介されたその日だったのだ。
二回目は婚約をする日だったわけだが、一度目の印象が強すぎて、俊樹は美香の父親とはほとんど目さえ合わしていなかった。
「苦手なんだよな…。美香の父さん…」
美香に何かを訴えるような目で、しかも蚊の鳴くような小さな声で呟いた。
「自分の義理の父親になる人なんだから、あんまり無碍にしないでよ!」
そんな事を言われても苦手なものは苦手なんだと美香に言おうとしたが、結婚前にそんな事を言ったら余計美香の機嫌が悪くなるだろうと察した俊樹は、その問いには敢えて答えることはしなかった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み