第4話

文字数 1,189文字

次の店はガラッと変わって落ち着いた雰囲気で、飲みながら話をする典英にはピッタリのだった。
典英にはと言ったが、美香と知り合う前の俊樹だったら言うことなしのナンパ店であったに違いない。
ノリで二人の美女を連れ出したことを今更のように後悔した俊樹であったが、美香は今日から二週間はいない。
体の関係さえ持たなければ、美香にどうのこうの言われないはずだ。
自分なりの屁理屈的な言い訳を考えながら、俊樹は一人で小さく頷いた。
美香以外の女性と酒を飲むのは三ヶ月ぶりだった。
美女二人組の一人、可愛い子系の女性はユイと名乗った。
ユイは大学二年生だった。
一つ上の先輩と飲みに来たとのことだった。
そう言われてみればユイは美香と比べると、少し幼く見えた。
比べると言っても美香とは身体の関係はまだない。
外見しか比べようがないのだ。
なんだかまだ少ししか飲んでいないというのに、ストレスのせいかいろんなことを考えてしまう。
俊樹はふと我にかえるように考え出した。
本当にこのまま結婚して僕は幸せなんだろうか?
いやいや、幸せに決まっている。
あんなに可愛い女性は滅多にお目にかかれない。
現に自分が一目惚れしたことがその証拠ではないか!
だからこれが一番良かったんだ。
俊樹は自分にそう言い聞かせた。
そうでなければ今の自分が凄く惨めに感じたからだ。
後、一ヶ月とはいえ、三ヶ月間も自分を抑えながら美香と付き合ってきた。
美香と付き合った三ヶ月間はホントに充実していたのであろうか?
好きな女と交わることも出来ないのだ。
そんなことなど考えたことはなかった。
ディープキスをしても身体を貪り合うことが出来ないなんて、蛇の生殺しとはこういう事を言うのであろう。
実際、美香とデートして家に帰ると、必ずと言っていいほど自分でオナニーして発散させる日が続いた。
それが惨めで情けなかった。

どうして飲んでいる今、そんなことを考えているのだろう?
ヤバイ!
少しではない、本当に酔ってしまったのかもしれない。
そう思いながらも今日はグラスを口に運んでしまう。
典英は典英で美人系の女性と話が弾んでいる。
ユイも少し酒が回ってしまったのか、よく喋り出した。
「ねえ、聞いてる?
ユイの話聞いてないでしょう?」
さっきまで明るく話していたユイが、少し拗ねた感じの声で俊樹に問いただした。
「あ、聞いてる。ちゃんと聞いてるよ」
「嘘…!じゃあさっきユイが言ったことなんだったか、言ってみて!」
実はいろんな思いが頭を巡っていた為、ユイが何を喋ったのかは本当はわからなかった。
「ごめん……実は少し考え事をしていたんだ。」
俊樹は、自分がボーとしていたことを素直に認めた。
「うん、ちゃんと認めたらよろしい。
じゃあもう一回乾杯しよ!」
そう言ってユイは俊樹にグラスを持たせて、今日二度目の乾杯をした。
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