第24話

文字数 1,297文字

「あら、終わったの?」
ラウンジのドアを開けて入ってきた窪田の姿を見て志保がすかさず声をかけた。
「意外に早かったんだ。
向こうもあんまり時間がないみたいだったからな…」
斎藤の体調のことを話そうかと思った窪田だったが話したところでどうなるわけでも無いのでそのことについて話すのはやめた。
「これから会社に帰って書類の整理しなくちゃいけないから、店開いたらすぐに顔を出すよ!」
「そうよね。
商談の後はちゃんとしとかなくちゃいけないもんね。
私は今からジム行って帰ったら仕事の段取りするわ。
店で待ってるから…」
そう言って窪田と別れた志保はすぐにデュークの待っているホテルに向かった。
ホテルのロビーにいたデュークと目があった志保は「全て順調だったようね」
とロビーに座っていたデュークの肩をポンと叩いた。
「早くても来週になると思うぞ、法務局からの所有権移転の申請が却下されるのは」
デュークが志保に目をむけた。
今回の偽造書類それ自体は精巧に作られているとはいえ、免許証番号やICチップに記録された情報は斉藤大作のそれとは別人のものだった。
調べればでたらめだとわかってしまう。
法務局の登記官が書類の不正に気付くか、所有者の斉藤大作へ通知が届くのは時間の問題で、そう遠からぬうちに窪田不動産に申請却下の連絡がいくことになる。
「いずれにしろ、あんまりゆっくりはしてられん。
小坂部には残りの金を渡して、すぐに新幹線で他の場所に移動させた。
志保には、ほれ、お前名義の通帳に国外から二億五千万円振り込んだ。
ネットで残高を見てみろ!」
デュークがそう言ったので志保は携帯で通帳の残高を確認した。
確かに二億五千万円の入金が記されていた。
「私は、明日朝、国外に出発するがお前はどうする」
「そうね、私は今夜店に出ようかと思ったけど、お金も入ったことだし、昨日までに殆どの物処分したの。
私もいつでもドロンできる段取りできてるから夜に新幹線で何処かに旅するわ」
「志保、また近いうちに連絡を入れると思う。
今度もこれくらいの額か、もしたしたらこれよりも大きくなるかもしれん。
まぁ、お前なら簡単とは言わんまでもできるのは間違いない。
半年後か一年といったところだろう。
それまで、男を好きにならないようにしろよ。
好きになったらこの仕事はできなくなるからな…。ワッハッハ…」
「大丈夫よ!
惚れられても惚れるな!
これが貴方のモットーでしょ。
忘れずに守り続けるわよ。
貴方も元気でね…。連絡待ってるから!」
何度か酒を飲んだ時にモットーとか信念らしきことを聞いたことのある志保はこの男の言うことはある程度は正解だと悟っていた。
人間、詐欺られる人と詐欺る人に分けられるなら、自分は絶対に詐欺られるのだけは嫌だ。
だからこれからも詐欺をするだろう。
デュークと一緒にするかもしれない。
もしかしたら別の誰かと一緒かも、はたまた一人でする可能性もある。
だが、必ずどこかでバレる。
どこかで捕まってしまう。
そう思いながら人は詐欺をする。
志保も詐欺の為の身体は許すことなく、これからも…。
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