第15

文字数 1,613文字

半年間通い続けた窪田は既に一千万円以上の金をパープルに落としていた。
その程度の金は窪田にとってはどうにでもなる金額だった。
志保と懇ろになることが窪田の一番の望みだった。
アフターに誘っても毎回身体の関係はうやむやにされてしまう。
しかも酒で酔うことはないから、隙がないのだった。
仕事の話があると携帯にメールが入ったのは火曜日にパープルに行ってから三日が経った金曜日の夕方だった。
志保の方から連絡があったのは初めてではない。
同伴で出社する日には必ず携帯に連絡をくれる。
ただし今回のようなメールでの連絡は初めてだった。
おそらくパープルに行く前に他の客との同伴中で他の男の人と携帯であろうと話をするということは失礼になるとの思いからメールにしたのだろうと窪田は察した。
この半年間の志保は金曜日と土曜日は必ずと言っていいほど同伴を入れた。
もちろん上客としか同伴はしない。
しかもきっちり八時には店に一緒に入って金をできるだけたくさん使ってもらう。
それが無理な客とは同伴などできない。
銀座のクラブのママとはそういうものだと志保は悟っていた。
志保が窪田にそう話したことがあった。
志保はこのパープルに全てをかけているのかと窪田は思った。
出来るなら、パープルをもっと一流にして
金を儲けさせてやりたいと思っていた。
その上で一緒になれるのが窪田の今の一番の望みだった。
窪田は志保の目が一番好きだった。
志保に見つめられると何もかも全てを見透かされてるみたいで魂を吸い取られる感じがした。
でも、自分に持っていないものを何か持っていそうで不思議な女性だった。
(よし、今夜は志保が同伴で店に入る八時前にパープルに行こう!)

八時前にパープルに入り志保が店に入るのを待った。
窪田はだいたい一人でパープルに行く。
以前仕事の関係者と何人かでいったところ、志保に一目惚れした人がいて、それからその人との関係がギクシャクしたことがあり、窪田は志保と身体の関係を持ってから仕事の関係者とこのパープルに来ると決めたのだった。
それからは何とか志保と付き合いたいと思い続けて通ってきたが、ようやくチャンスが巡ってきた。
不動産の話がまとまれば、金も入るし志保も自分に気が向いてくれるかもしれない。
そう思うと待っている時間も長く感じることはなかった。
「クーさん、お待たせしました。
同伴のお客さんがなかなか離してくれなくて、少し待たせちゃって、ごめんなさいね…。
その代わりいい話持ってきたから…」
そう言ってまずは乾杯をしてから本題に入った。
志保の話によると今回取引対象になっている物件は、恵比寿駅に程近い土地のことだった。
地積は三百五十平米を有し、売価は八億円は下らない物件らしい。
坪単価は一千万円を超えるこの辺りの土地の相場で七億円での話が来ているということだった。
現況は築五十年以上経過した二階建ての空き家で庭の手入れとか全くできていないらしい、
都心の一等地でありながら古びた民家に独居老人が住んでいてなかなか売る意思を見せなかったのだが、ようやく売る意思を見せたと志保のところに連絡が入ったらしい。
どのような情報網を持っているのかを聞いたところでどうせ有耶無耶にされるので敢えて聞くことはしなかった。
その土地は複雑な権利関係はないらしく、抵当権も設定されていない。
そこまで話を聞いたところで窪田は明日以降改めて話を聞くことにした。
土地に関する話は出来るだけ早めにしなくては商談が流れる場合が多々ありうる。
出来るだけ早く、そして大金が動くので確実に行動する事が求められるのである。
いくら志保が持ってきた物件だからといってすぐに飛びつくわけにはいかなかったが前回の塩松建設のこともあり、出来るだけ早く行動するつもりの窪田であった。
その日はそこで仕事の話は打ち切り、楽しく飲み直すこととなった。
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