第5話

文字数 1,025文字

ユイは俊樹に好意を持った感じで接してきた。
初めて会ったのに何度も話をしてきた感覚に陥った俊樹は、来月結婚式をあげることを話してしまう。
それは俊樹が自分自身の無意識な行動に、ブレーキをかけるためでもあった。
「そうなんだ…。だったらもう一度乾杯しなくちゃ…。結婚に乾杯!」
三度目の乾杯をするためにグラスを傾けるユイに、俊樹は内心ほっとしながらグラスになみなみと注がれた赤ワインを飲み干した。
ほっとしたというのは、ユイと飲んだ後に勢いでセックスまでに至るということを、結婚というワードを出したことで、ユイとは今夜のセックスはなしであると俊樹は勝手に思い込んだ。
その思い込みは俊樹の一方的なものではあったが、そう思うことで少しは肩の荷が降りた感覚があったのだ。
「嘘,付き合って三ヶ月間もセックスをさせてもらってないの…?
それって男の人にとって拷問じゃない?」
信じられないという顔をしながら俊樹のワイングラスにワインを注いだ。
俊樹と典英は昔からいい女といる時,つまり勝負できる女性の場合は必ずと言っていいほど赤ワインを開ける。
そこまでワインにこだわってはいないが、
赤の方が白やロゼよりも体を良い感じがして、
なによりも赤ワインという言葉の響きが自分達にゴージャスなムードを与えてくれた。
二本目のワインを半分くらい飲んだ時に,
「俊樹…,俺たち少し夜風にあたってくる…。」
そう言うと典英は美人系の女性の肩を抱き,
ドアを開けて二人で外に行った。
「おい,典英…」
急な展開に驚いた俊樹が典英に声をかけたが,その声が聞こえなかったようにドアは早々と閉まっていた。
「あ〜あ,行っちゃった…。
彼,咲さんの好みだったみたい。
もう今夜は帰ってこないわね。」
「えっ,帰って来ないって…。
いつもこんな感じなの,その咲さんって人?」
首を少し傾けながら、「何時もってことじゃないけど、自分の好みの人がいたらそんな感じかしら…。あっ,私は違うわよ。
だって私はガードが硬いもん!」
そう言って俊樹を見つめる目は,そんなにガードが固い感じには見えなかった。
「いいじゃない。私たちは私たちで飲みましょう…。
まだ夜は長いんだし愚痴も聞いてあげるわよ…」
なんて優しいんだ。
友達が一夜限りのランデブーに出かけたというのに、自分は置いてきぼりの僕の愚痴を夜な夜な聞いてくれると言う。
ユイの手を握りしめ,一人で何度も頷きながら,一気に飲み干した。
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