第22話

文字数 1,439文字

デュークの切り札とは特殊な技法で顔を変えられることだった。
整形をするわけではないので違う顔を同じにできるというわけではない。
だがその技法で特徴を掴み似せさせる事は容易に出来た。
今回の様に斉藤大作と会ったことのない人ばかりの中での、役作りとなるとデュークにとってはそんなに難しいことではなかった。
雰囲気が似ているということだけでもやはり違う。
ある程度自信を持って詐欺ることができた。
斎藤が先月入った老人ホームは恵比寿から少し離れた八王子だった。
ライフサポートという名の老人ホームでデュークはそこに足を運び、斉藤の情報を集めた。
人と金を使い、斎藤の行動を随時知らせる様にした。
そして家の鍵を造り、家の中と庭の隅々までどうなっているのかを調べ上げた。
全てはデュークの計画通りだった。
デュークはこの計画に二年の歳月をかけていた。
もちろんその間別の地面師の仕事も同時に遂行していた。
そのくらいのことはデュークにしてみたら容易いことだった。
総額三億円から五億円の仕事が多かった。
それ以上になると少し手順が複雑になり、人も多数用意しなくてはならない。
手配師としてやることが増えすぎるのも考えさせられるところだった。
あまりにやることが多すぎるとミスをする危険があった。
そこだけは特に自分で注意をした。
だが五億の仕事をしたところで、デュークに入る金はその半分の二億五千万円がいいところだった。
段取りから全ての準備にかかる経費も安くはない。
今回の七億円の仕事の場合は、志保にはいろをつけて二億五千万円は渡すつもりでいた。
やる前には二億円の報酬と告げていたからいろをつけることはまだ志保には話をしていない。
また志保にはこの地面師としての仕事を手伝ってもらおうと思っていたからであった。
これほど動きの取れる女は今までお目にかかったことがない。
できることならと、思っているデュークだったがあくまでもこの仕事が終わってからの話だ。
これが終われば少し額の大きいのに挑むつもりだだった。
それ一本に絞り、神経を集中させて挑む。
もちろん今までの地面師としての仕事も神経は集中させてきたし、失敗は絶対に許されないことはデュークにはよく理解していた。
一度でも失敗するとこの仕事は終わりだ。
それは志保もよくわかっていた。
仮にも詐欺である。
志保はこの地面師詐欺を遂行したら当分の間は東京から離れるつもりだった。
八坂志保の名もデュークが仕入れてきた偽名だった。
ただデュークと一つ違うことは主犯格と言っても首謀者ではない。
詐欺であることは知らなかったといえば何とかなる可能性もなきにしもあらずのところだった。
だが、クラブのママが別に気に入っているわけでもないし、出来れば気を使わない生活をするほうが楽なことは確かである。
別の街に行くか、さもなくば外国にでも行くかはまだ決めかねていた。
幼い頃に両親が離婚して、母娘二人で暮らしていたが、二十歳を過ぎた頃その母も病気で亡くなり、天涯孤独の人生であった。
そんな時デュークと知り合い三千万円という金を得た。
志保にしてみれば、詐欺られる奴が馬鹿な人間なのだと悟ったのだ。
故に捕まることさえなければいいという気持ちで今回も望んだのだった。
期待通りにデュークの手腕は抜群だった。
志保はただデュークの言う通りに動けばよかった。
デュークにしてみれば志保は思った以上に動けたのでうまくいかないわけがなかった。
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