第13

文字数 1,780文字

「いらっしゃいませ、窪田様!」
「今日は火曜日だというのにいやに忙しそうだな…。ママはいる?」
平日の八時はここ銀座の街にとってはまだ時間的には早い。
いつもなら同伴することの多いママだったが、今日は開店の七時前から姿を見せていた。
パープルのドレスがとてもよく似合い三十過ぎらしいが、女性も羨むボディラインと童顔であどけなさが残る感じが男心を掴んで離さない。
ママの笑顔を見にくる客も一人や二人ではない。
まさにファンクラブもあるくらいであった。
「あらクーさん!いらっしゃい。
この前、今日来られるってことで、今夜は同伴も入れずに開店からお待ちしてましたのよ!」
志保は開店から待っていたかのような言い方で窪田を迎えた。
「ゴメン、ゴメン…!
銀座のクラブの八時はまだ早めかと思ってたんだが、ここでは銀座の常識は通用しないな…。
お詫びにママの好きなドンペリを入れるから、機嫌直してよ」
「あら、嬉しい…。
レナちゃん、ピンク一本持ってきて!」
ドンペリピンクはこの店では一本二十万円する。
「でも、ドンペリくらいでは私は落ちないわよ。
クーさん…」
レナが運んできたドンペリを開ける前に、
「皆んなも何か貰いなさい」
窪田のテーブルにはママの志保とレナ、そして新人の優香の三人がついていた。
レナと優香はそれぞれ好きなドリンクを頼み、ドンペリを開けて、窪田のグラスに注いだ後、自分のグラスに少しだけ入れた。
「再会に乾杯!」
と志保の合図でグラスを傾ける。
「それはそうとこの前の話、どうなった?」
グラスを合わせた音が鳴り終わった時にこの時を狙ったかのようなタイミングで窪田が聞いてきた。
「あれは、すぐに塩松さんが買ったのよ。
だって、塩松さんとの話の後で窪田さんから聞いたんだもの…。しょうがないわ!
でも他に話をつけておいたから、いい話が近々入るからその時まで待って!
おそらく時間はかからないわ…」
窪田の言ったこの前の話とは、不動産のことであった。
窪田は銀座だけではなく東京の一等地に幾つもの不動産を持っている不動産屋の社長だ。
まだ四十代だが、父親が三年前に亡くなり莫大の財産と不動産を手に入れた。
窪田は半年くらい前からこの店に訪れて、一目で志保を気に入って、週に一度はこの店に来ている常連さんである。
先週窪田が来店した時に、志保が銀座の一等地の物件が売りに出たという話を窪田にした時、その話に興味を持った窪田が詳しい話を聞かせてくれと志保に頼んだのだった。
あらましを話した志保だったが、塩松建設の塩松に先に話をしたと言ったのだった。
「なんで先に自分に言ってくれなかったんだ」
と少し拗ねた感じで聞いてきた窪田に志保は、話があったその日に塩松にが来店してきてつい、話をしてしまったと言うのだった。
塩松建設は建設業界の大手で今、土地の売買を大々的にやっている。
所謂、窪田とは仕事上敵の相手だった。
銀座で二年前からクラブパープルのママをしていた志保の店には、いろんな情報を持った人が何人も訪れた。
頭の回転の速い志保は、その情報を他のクラブのママたちよりも確実により早く上客に伝えた。
その情報によってかなりの利益の出た客も一人や二人ではなかった。
そしてそういう噂は窪田にも入っていた。
美味しい話には目のないのは窪田だけではなかったが、金儲けのための金の実費は糸目をつけなかった。
故にに来店するのは経費で落とすくらいの気でいたのだ。
一度席に座ればドンペリを入れなくとも十万円では足らない金額で、ドンペリを入れた今夜の会計は四十万円は四十万円以上はいった。
もちろん、仕事の不動産の話だけでに来ていたのではない。
やはり狙いはママの志保である。
今日のようなボディラインがくっきりとしたドレスを着るとスタイル抜群であることがはっきり分かる。
身長167センチ、体重50キロ上から90.58.85のスタイルで、毎日ジムでトレーニングをしているだけあって美しい足の筋肉も志保の魅力だった。
しかも今風の小顔で童顔、可愛くて話がうまいとあれば男が放っておくはずがない。
だが、志保には男の話どころか、結婚をしているのか、子供はいるのか、などなんの情報も明かすことはない。
探偵を雇って調べた客もいたが、結局答えは闇の中であった。
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