014 菖の部屋から

文字数 7,365文字

 菖の部屋に歩乃香と、遅れて千緒が浴衣を持参してやってきた。千緒は塾が終わった後に泊まりに来たのだった。
 千緒が来る前、歩乃香と一緒に菖の家でキムチ鍋を食べた。皐は初めて歩乃香に会い、綺麗な人だと思ったのだろう、照れた顔でとても行儀良く食べていた。
「歩乃香が泊まりに来たら夜ご飯、(うち)でたくさん食べたいんやけど。歩乃香、義理のお父さんと色々あって、両親と住んどらんくてさ」
 事前に昭子に言うと「そりゃいっぱい、うちで食べてもらわんとな」と察してくれた。こういうところはありがたい。すでに二度ほど会っていたため「あの子、あんたと違って細い子やったもんね」と歩乃香のことを思い出していた。
 昭子と菖は張り切って鍋を作り、歩乃香はギブアップした。「ありがたいけどこれ、何日かに分けてくんないかな」と苦笑するほど。昭子は笑いながら、「食べる量が違うから、うちは肥えとるんかも」と言い、皐は「気をつけよ……」と誓っていた。
「菖はそんな太ってませんよ!」
 昭子は少しふくよかな体型だが、菖は肥えているわけではないと思う歩乃香のフォローに「明日帰るの? タッパーにおかず詰めとくから、みんなで食べてね」と昭子は返した。
「さて、千緒も来たことだし、メロンでも食べながらメイクとかやろうじぇー」
 菖はダイニングから瑞々しいカットメロンを部屋に持ってきた。
「やった! ありがとう」
「めっちゃ嬉しい!」
 歩乃香は少し苦しそうな顔をして喜ぶから、笑ってしまった。
「そんでさ、歩乃香と千緒と誰かが行く花火大会はいつやっけ?」
「来週! だから今日は、本番前の本気練習ってやつ」
「ほのちゃん、お願いします」
 正座をしていた千緒は、おずおずと手を前に出して頭を下げる。
「千緒ピヨのために大学生とか社会人はやめて、他校のサッカーやってる奴からピックアップしてもらってるから」
「ちょいちょい、待て、それはマサじゃないよな?」
 サッカーやってる奴だなんて、歩乃香の元カレ、マサのことがよぎってしまう。
「んなわけないでしょーが! ただ遠く繋がってはいる、かなー?」
 歩乃香は指を唇に当て、わざとおどけた。菖は眉を顰めてしまう。
「それに千緒ピヨはマサのことかっこいいって言ってたし、歳の近い爽やかスポーツマンがいいのかなって」
「マサさん、ほんとかっこよかったわぁ」
 菖に顔の汗を拭き取られながら千緒が応えた。
「ふたりはさ、同じ中学で、どんな男子が好きだったのよ?」
 歩乃香が訊いてくる。千緒の顔に軽くファンデーションを塗り直している菖は「ええー」と嫌そうな相槌をした。
「菖はね、仲のいいグループとか身内の男子とは付き合わんかった。全ッ然違う、秀才組の男子のこと好きやったもんね」
「うまくいかなったんだ?」
 スマホでヘアアレンジを検索しながら、歩乃香が質問を重ねる。
「恋愛には無関係ですって顔に書いてあるような、頭いいガリ勉くんやったもん。ねー菖」
「そーだね!」
 千緒の頬に透明パウダーをわざとたくさん叩いて咳き込ませると、周りに白い粉が飛ぶ。
「菖はその子一筋だったの?」
「コハッ、まさか」
「あたしがフラれたの。初めての、告白っぽいことした」
 言い終わると菖は「いーっ」としかめっ面を見せた。
「えっ? 菖が?」
 歩乃香がスマホを放り投げて「なんて告白したの?」と菖をぶんぶんと揺さぶる。
「なんかその、仲良くなって、向こうもあたしのこと好きだと思ってしまってぇ」
「多分あれは好きだった」
「そんで恥ずかしすぎて、メッセージで好きだよって送ったらぁ、返信全くこやんくなって、そのままジエンドぉ」
「ヤナカひどすぎ!」
 千緒の合いの手はさておき、菖にとっては若干トラウマな事件だった。ヤナカとは以来、一言も話していないしアクションも一切ない。あんなに仲が良かったのに。
 当時はそれこそ、女子の偉大なる結束力もあって千緒たちが「どうなのよ」なんて訊いてくれたりもしたが、何も話してもらえなかったそうだ。
「んー、ヤナカって奴には菖の告白、早かったんだろうねぇ」
「どうだか。それよか完全シカトなんてトラウマだよ、ほんと」
 大きなため息をつきながら、千緒の眉毛を整えていく。
「で、そのあとは?」
 菖は千緒の浴衣を見ながらアイシャドウの色を悩んでいた。すかさず千緒が代わりに話を続けた。
「そのあとは、入学以来ずーっと熱心に言い寄ってたモテ男と付き合ったね。あれは私もみんなもびっくりして、大変やったよねぇ」
「付き合ったんだ?」
 歩乃香は身を乗り出す。ヘアアレンジのことよりも、菖の過去の恋愛事情に興味津々だ。
「うん、付き合った。最初はさ、喋ったこともないのに勝手に色々言っとって嫌いやったんやけど、隣のクラスになってたまたま仲良くなったんよねー。モテるだけあって、いい奴でさ。好かれて好きになることはないって今でも思ってるけど、負けちゃったのかねぇ」
 菖の中では、告白したヤナカの存在のほうが大きかった。しかし関係全てを遮断したヤナカよりも、一緒にいてくれて楽しく、仲良くなったらさらに好きだと真剣に言い続けてくれるムラキに心が動いてしまった。
 夏祭りで告白されて初めて付き合ってみたものの、手を繋がれてからの距離感が耐えられずに別れた。
「あ、よく考えたら、付き合ったの1年前やわ」
 千緒の瞼に鮮やかなオレンジカラーのアイシャドウを塗ってあげながら、ポンと手を叩く。
「え、その夏祭り毎年あるの? 会っちゃったりするんじゃない?」
「このあいだ行ったけど、移動してみんなで花火やったし忘れとった、あはは」
 菖は本当に忘れてしまっていた。もう少し懐かしんでみても良かったのかもしれない。
「菖、その花火ってジョーちゃんたちとしたんやっけ?」
「そそ、あのへんのヤンチャなメンツと」
 すると歩乃香の顔が目を見開いて、驚いた顔に変わった。
「そっか、ここ双葉中か……アンタ、【ふたちゅーの(ジョー)】と友達なんだ?」
 菖と千緒は顔を見合わせ「やっぱ知っとる?」と興奮した。
「知ってるっていうか、噂は色々と聞いたことあるよ。すっごい怖いけど、めちゃくちゃ善人なヤンキーだって」
 それを聞いて菖は床を叩いて爆笑する。
「喧嘩売られて、そんで勝ってまうだけで、ヤンキーっていうか……でもそう呼ぶんかな?」
「ジョーちゃん、私なんかにもすっごい優しいよ」
 鏡を見た千緒は、瞼のキラキラ具合を確認しながら笑顔を見せる。歩乃香も「え、そのラメのアイシャドウどれ? 可愛い 」とチェックしていた。
「しっかし距離あっても狭いもんだねー。お兄の友達が前に喧嘩して、その人に簡単に負けちゃったって伝説みたいな噂だよ。まさか菖の友達とは」
「なんならこのマンションの別棟やで、ジョーちゃん()
「うそぉ?」
「今はなんかしらん、飛び出しておじいちゃんとこおるけど。高校辞めるかどうしよっかなって言ってた」
 オレンジからイエローのグラデーションの瞼に、今度はアイライナーで線を引いていく菖は、慎重に手を動かしていく。
「そのへんのヤンチャなのと菖が、盛り上がって付き合っちゃうってことにはならんかったの?」
 歩乃香はさっき言っていた千緒の言葉を思い出していた。
「そうやなぁ、付き合わないというよりも恋愛感情がなさすぎる」
「もったいないよねえ!」
 千緒がいきなり大声を出すから、菖と歩乃香は驚いて笑ってしまう。
「え、何? 何がもったいねーんだよ」
「千緒ピヨ、そっち系も好きなの? 真面目な子が不良に落ちるって、あるあるなのかも」
「あるあるなら付き合っとったもん、ないんよ!」
 千緒の悲痛な声を聞いた歩乃香は、ヘアスタイルのことを思い出して「なんとかします」と再びスマホで検索し始めた。
「いいけどな、千緒、気をつけなよ。ジョーちゃんたちはまだ大丈夫やけど、高校入ってから新しい連中増えて、微妙なんもおるから今」
「微妙な人?」
「女好きな奴とか。ジョーちゃんが注意したらしいけど、過去に地元で女まわしてたって奴が花火んときおった」
 3人はしばらく無言になってしまう。口を開いたのは歩乃香だった。
「菖は、大丈夫だったの?」
「あたし? あたしは今まで何もされとらんから大丈夫やよ。花火んときは、その女好き軍団が冗談で、ヤらせてーとか言ってきたりしたけど。適当にあしらうに決まっとるやん? さすがにそういうのには慣れとる。それにジョーちゃんの前では手出しもできんしな」
「なら良かったけど……ね」
 と、歩乃香は千緒と目配せをした。菖はチークやハイライトを終えて、ポーチの中から口紅やらグロスを見ている。2本のリップに決めると、千緒の唇に塗り始めた。
「男のそういう欲ってさ、強すぎると引くよね」
 菖は、心の中の不安を少しだけ口に出してみた。
「そうね。難しいとこよね……」
「でも私、たくさん求められてみたい!」
 千緒の大胆な発言に、ふたりはきゃあきゃあと叫ぶ。菖は笑う千緒の唇を閉じさせ、グロスを塗って「完成!」と鏡を渡した。
「あ、私、少し可愛くなった! 菖さすがやわ、ありがとう!」
「せやろ!」
「うんうん、千緒ピヨ可愛いよ、薄黄色の浴衣にも合うと思う!」
 帯の赤色に合わせて、ピンクの口紅に赤みが強めのグロスをほんの少し乗せた。いつもの千緒より少しセクシーながらも、目元はマスカラも塗って元気いっぱいな雰囲気にした。
「で、千緒ピヨの中学時代は? どんな恋愛したの?」
 歩乃香が手慣れた感じで浴衣を着せながら質問する。あとはボブスタイルの髪の毛をどうするか、だ。
 浴衣を着せ終わると、歩乃香は自分のバッグから大きめのポーチを取り出した。ブラシで丁寧に、千緒の髪を梳かす。菖はそのポーチの中から、ヘアクリップやリボンなどを取り出して見ていた。
「私、いいなって思う人くらいで……前はもっと太っとったから」
 それを聞いた歩乃香が思わず立ち上がる。
「そんなの関係ないわよ! しかも今の千緒ピヨなんて、ぽっちゃり好きの男からしたらたまんないんだから!」
「絶対それ、おじさんばっかやし」
 千緒は俯いてしまう。歩乃香はまた座って、千緒の髪を撫でるように梳かした。
「そんなことない、意外といるんだわ。アタシなんて逆に、もっと食えとか太れとか、すっごい言われるよ? 太ることは簡単だと思ってんだろうけど、それはそれで大変なんだから。しかも男が求めてんのはきっと、胸を大きくしろ、なのよ!」
 歩乃香はそう言うと菖を見た。千緒もなるほど、と言って菖を見る。え? そういう感じ?
「こっちだって欲しくてこうなったわけちゃう! しかも、あたし寸胴なんやぞ!」
 両手を挙げて菖はわざと怒った顔を見せた。
「ま、ないものねだりよね。菖の大きなおっぱい、ほんと分けてほしい」
「分けたりてぇわ!」
「私もほしい……」
「千緒は寄せれば、もっと胸あるんじゃない?」
 歩乃香が浴衣の上からぎゅっと千緒の胸を寄せる。
「下着選びも大事だからね?」
「えー、ほのちゃん今度、下着選んで!」
「行こう行こう! 菖は? 大丈夫?」
「ねぇ、菖のおっぱい触らせてぇ」
 歩乃香に髪の毛をいじってもらいながら、千緒が甘えた声で菖に手を伸ばしてくる。菖はベッドの上に飛び乗って、あっかんべーと舌を出した。
「きっと菖のあの大きなおっぱいは、剣崎のものなのよ……」
 千緒をなだめるように歩乃香が言うと、「ちっがーう!」と菖は寝転んでジタバタした。黒猫のぬいぐるみがバウンドする。
「結局さぁ、まだ付き合ってないん?」
 ニヤニヤしながらまた千緒が訊いてきた。何度目だよ!
「そもそも菖は剣崎のこと、結局どう思ってるのよ?」
 歩乃香まで質問してきた。ふたりの目線にさすがの菖も逃げられなくなる。
 ふたりには見せたことないあたしを、剣崎は知っていること。それでも寄り添ってくれること。
「あ、あたしは……剣崎のこと……」
「うんうん」
「一緒にいたいし、一緒に……いてほしいなぁって……」
「うんうん」
「……以上」
「はあああああああ⁈」
 やっぱり言えなかった。
 ふたりはズッコケながらベッドの菖に襲いかかり、くすぐり始めた。
「やめてやめて、無理無理無理、ギブ! きゃーはははは!」
 ついでに歩乃香も千緒も、Tシャツの上から菖の胸を触る。
「でっかい水風船♡」
「いいなぁ、剣崎。このおっぱい堪能しちゃうのかぁ」
「んもおおおおおおお‼︎」
 女子とはいえ身体を触られるのは苦手だ。菖はわざと怒ってベッドから降りると、誰かのスマホが鳴った。
「あ、あたし。しかも、剣崎から」
 ふたりは爆笑して「出ろ、出ろ!」とスマホを指す。歩乃香がすかさず画面を触ってスピーカーにし、目配せしてくる。ふたりに聞こえるように話せ、と言っているのだ。
 千緒もずっと見つめてくるから、また逃げられない。菖は覚悟を決めた。
「えーっと、あーっと、もしもし?」
「菖? メッセージ返ってこなくて思わず通話しちゃったけど、篠宮さんも合流して盛り上がってる?」
「なーんだ知ってんのか」
 歩乃香が残念そうに声を出した。
「ごめん、めちゃくちゃ知ってる」
 剣崎と菖が同時に同じことを言って、みんなで笑ってしまう。
「ねぇねぇ剣崎、今ねー、菖のおっぱい触ってた! いいやろー!」
 いきなり千緒がそんなことを言い出すから、菖は思わずスマホを落としそうになってしまう。
「ちょっ! ばっ!」
「大きかったし柔らかかったよ、ねー♡」
 歩乃香もわざと同調する。剣崎がどんな反応をするか、まったく読めない。たまにしてくる意地悪なノリで、ふたりに変なことを言ってしまうかもしれない。やばい!
「んー、女の子同士の特権だね」
 ハラハラしていたのに、剣崎は変わらずいつもの口調だった。菖は思わず「ふぅ」と安心する。
 歩乃香が小声で「つまんないなぁ」と呟くと同時に、剣崎が言った。
「その様子、僕も見たいからビデオ通話に切り替えてくれない?」
 千緒がきゃーと叫び、歩乃香はおなかを抱えて笑い、菖が「ばーかばかばかばかばかばかっ!」と思わず歩乃香にスマホを渡してしまう。
「え、ビデオにする?」
「そんなんちゃうわ!」
 すぐさま、目に涙を浮かべて笑う歩乃香からスマホを奪いかえした。こちらの様子は見えていないはずなのに、剣崎の笑い声が部屋に響いていた。


◇◇◇

 菖の胸を触っていたと聞いて、僕の心拍数は急上昇した。無理もない。菖が近くにいないと欲も薄れるのか、それとも疲れているからなのか、カナダに来てからそういう反応がめっきり少なくなってしまった。
 たまに菖の写真を送ってもらうけど、会いたい、可愛いという気持ちでほとんど終わってしまう。あまりに疲れた日の夜は、勝手にムラムラすることはあっても持続しない。寝てしまう。
 母さんはホテル内の向かいの部屋で寝泊まりしていた。そちらはキッチン付きの部屋で、僕はなるべく母さんの部屋で食事を摂る。
 自分の部屋では完全にひとりだから、いくらでもできるのに。カナダに着く前から、実はそこが楽しみでもあった。家でも一人部屋だけど両親も近くにいるため、どうしても気にしてしまう。
 カナダに到着して落ち着くと、僕は音声をオンにしていかがわしい動画を見た。菖にどこか似ているような女性……を見ると、自然と身体は反応する。
 しかし最初の何回かだけ元気で、衰退してしまった。
 日本にいるときと同じように音声をオフにして動画を見たり、そっち系の漫画を眺めたりしてみた。どれも反応は長く続かない。
 僕はもうEDなんだろうか? とまで考え始めていたときに、篠宮さんと江藤さんの驚きの発言。
 そりゃあ心拍数も上がるよ。想像してしまったからなのか百合要素が良かったのか、それとも単に羨ましいだけなのか、なんにせよ僕の身体はかなりの反応を示してしまったわけだ。
 平然と言葉を返せただろうか、と不安がよぎったが、菖の反応は面白かったのできっと大丈夫だろう。
 それにしてもどんなふうに、あのふたりは触ったのだろうか? さすがに服の上からだよな?
 日本から持ってきたふりかけを混ぜたおにぎりを食べながら、また想像してしまう。だめだ、切り替えよう。夜にまた思い出して、菖に浸りたい。
 菖からメッセージが届く。浴衣を着た篠宮さんを真ん中にして3人で撮った写真だ。素敵な恋を探そう篠宮さん企画、らしい。菖がメイクをして、江藤さんがヘアスタイルを担当すると教えてくれていた。
 家の中だからか菖はラフな格好だ。大きめのバンドTシャツのようなものを着て、かなり短いショートパンツ姿だった。デートのときのTシャツのほうが身体のラインがはっきりと強調されていたが、さっきの話を聞いた後だからか、胸にまとわりついて歪んだTシャツのプリントすらもいやらしく見えてしまう。脚もまた、程良い肉付きで……僕は、スマホも瞼も閉じた。
 欲がないと嘆いていたくせに、欲が出てくると不審者や痴漢と同類に感じてしまって情けない。しかし身体の構造上、どうしようもない。
 江藤さんの言うとおり、僕が菖にちゃんと……ちゃんと告白をしたなら。受け入れてもらえたなら。
 菖はどこまでの僕を受け入れてくれるのだろうか?
 僕も菖もお互いに好きだと思う。その感情に差はあるかもしれないけど、わかる。
 好きでも、身体の関係には至らないかもしれない。
 それならそれでもいいと思っている。一緒にいられたら、それで幸せだと思う。僕の邪な感情さえ消せばいいだけのこと。
 そう思っていた、今も思っているけど。
 少しでも僕のことを好きなら菖が欲しい、と思ってしまいそうで怖い。
 僕はいかにこの2か月、このたった2か月が最高に素晴らしい日々だったかを思い知った。
 離れて過ごすこと自体はいい。僕にはスケートと菖しかない。どこにいてもそれは同じで、変わらない。菖のことを信じていないわけでもない。
 しかし確実に、いつか何かを妬みそうな自分が嫌だ。
 素直に羨むことは良くても、妬むことはあまり良くないと思っている。
 菖に関しては僕の決断力が欠けてしまって、お手上げ状態だ。僕は夜のお楽しみに向けて、ただ顔を赤らめるしかなかった。
 はぁ。女同士とはいえ、ずるい。すでに妬んでいる気がする、ティータイムという名の休憩だった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み