第24話  洋館、まるでホー◯テッ◯マンション

文字数 2,973文字

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3月ウサギ&ラプンツェル&ルクレツィアチーム
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四人と別れた三人は、洋館へとひたあるく。見えてはいた。しかし、中々辿り着けない。まっすぐ見たらわからないが、目の前までいけばわかる。入り口と思われる蔦塀のアーチ。(くぐ)れば道は一本で、分かれ道などはない。だが……、分かれなくとも、曲がる、曲がる、曲がる、曲がる! 目的地の周囲を少しずつ、全容を見せるかのように曲がり続ける。蔦塀は、首が余裕で出る程度の高さ。中々辿り着けないことを嘆くか、中に入ったときのための外堀把握に努めるか。
一人前者、二人後者。
前者は置いておいて、後者の視点でお送りしよう。

「……あの位置からじゃわからなかったけど、近づくにつれて、ボロ洋館に見えるわね」

ぼそりと言うルクレツィア。

「上で旋回してる小さな塊たちは……カラスかしら? 気味悪いわぁ」

空間も心なしか夕闇に包まれていた。さっきまで明るかったのに……。洋館も木造らしく、ルクレツィアが言ったようにかなりぼろぼろ。そこかしこを茶緑の蔦が覆っている。

「俺、帰りたい………」

頼もしさの欠片もない声がした。

「あなたは黙って、前だけ見て歩いてて」

ピシャリと、涙目の3月ウサギにいい放つ。肩を落としながら歩き続ける彼は、哀愁が漂っていた。好みの年代女性といても、この異様な雰囲気には飲まれてしまうようで。

「……窓とか、今にも割れそうね」

増長するかのような淡々とした現状説明に、ビクリとしながら、瞳を見開き、歩き続ける3月ウサギ。脂汗と、今にも倒れそうなくらい青ざめた顔。いつもの余裕など、欠片もない。

何度目かの曲がり角で、真後ろに到着する。入り口まではまだまだだが、ふと、ラプンツェルが止まる。

「……どうしたの? ラプ」

ラプンツェルの様子なら、見なくてもすぐわかるルクレツィア。すぐに振り返った。

「見て……」

彼女の指し示す方向に、二人は目をやった。

「ぎゃぁぁ───!!!!! 」

3月ウサギが叫ぶ途中で、二人は口を塞ぐ。叫んでも仕方ない光景が、三人の眼前に広がっていた……。

窓という窓に、びっしりと人形が張り付き、こちらを見ていたのだから。

「……ロックオン。既に歓迎モードね」

何人もの行方不明者を出しているだけあって、侵入者には敏感なようだ。……来た道を振り替える。

道は消えていた。完全に隔離された。こちらがこうならば、あちらも……。

「……白雪姫の本命がこっちだったら、笑えないわねぇ」

人形を名乗るカノンという少女の話は聞いている。本人を見たのも、話したのもローゼリアただ一人。リーゼロッテと帽子屋、居合わせた青年は、消える間際の少女の高笑いを聞いていた。

「纏めましょ……。カノンに対峙してしまった場合に備えて。白雪姫は何て言っていたかしら」

あの説明が下手なローゼリアの言葉から、必要な情報を搾取する。生半可ではない。

「ん~……、『人形に執着』『人形を壊すな』『人間が嫌い』『赤ずきんと白雪姫を知っていた』……それと、『人形をどんな形でもいいから救って』? 」

ルクレツィアが無表情で黙っていた。何かを考えているよう。

「……ねぇ、いる定で話しているけど、全てを踏まえて考えたら……『追い返している』って。カノンもまた、人形たちのように暴走しているのかしら? まだ残る理性で自制している……? 」

彼女を人形と認識するならば、そう仮定出来る。

「気配に敏感な白雪姫が、『人間臭しない』けど『やけに人間臭い口調』だったって。自我を持った人形……? 」
「……助けなきゃ」

ルクレツィアには他人事ではなかった。彼女は亜種の合成獣(キマイラ)、自我を得た合成獣(キマイラ)。同じならば、少女を救わなくてはならない。やり方なんてわからない。それでも、ルクレツィアの生きている理由は、助けを求めているものの救済。受け入れていくれた街、そして、大好きなラプンツェルのために。

「……うん。助けましょ。白雪姫の毒舌が一番効果ありそうだけど! 何せ高飛車ってことは、ツンデレ少女! 」

ラプンツェルのやる気スイッチが入った。お姉さんずは保護欲となにかにより、動く。
……一人、役立たずな3月ウサギは膝を抱えていた。そんな彼が動き出す二人に合わせて、嫌々立ち上がろうとしたとき───。


目の前に大きなテディベアが置かれていた。


「……なぁ。これおかしくねぇか? 」

3月ウサギの声に振り替える二人。すぐに駆け寄ってくる。

「あら、可愛い~♪ 」

ひょいっと、警戒なく持ち上げると、ひらりと一枚の真っ白な紙が落ちる。すかさず、ルクレツィアがキャッチ。見事な連携プレイである。

「……? 」
「何か書いてあるの? 」
「……『アンジェリカをあの子に』」

そう読んだ瞬間、またかも紙が、なかったかのように消えた。

「アンジェリカ? この子かな? 」


───もぞ。


一瞬、テディベアが動いた気配がした。いや、まさか、ないない。どう見てもただのぬいぐるみだ。

………人形を名乗る少女のものであるならば?

二人は凝視した。ひたすら、テディベアを凝視した。……次第にテディベアがぷるぷるし始める。


『ぷはっ』


縫い目である口が開いた。

『……! みてんじゃねぇよ! って、えええ?! 知らない女の子?! ちょっとまて!
『架音』どこいった!? 』

ぶるんぶるんと首を動かし、辺りを見渡す。

『迷子になるからあたしを離すなって再三いってたのに! あんのガキャー! 』

勢いを削がれるほど捲し立てられる。予想外の口調に誰も何も発せない。

『おい! おまえら! あたしを抱えて屋敷(あんなか)入れ! 』

態度のでかい申し出。

「……ぶっ、あははははははははは!!!!!


ラプンツェルが壊れた、基、笑いだした。

「いいわよ。一緒にいきましょ。あれよりは心強いわ」

あれ呼ばわりされた3月ウサギ。

「……じゃあ、行くわよ。招待してくれるんなら、さっさと入り口まで連れていきなさいよ。私たち、きっと最後のお客さんなんだから、丁重にしてくれない? 」

淡々と語りかけるルクレツィア。まるで、その声に呼応するかのように、道が変わり始めた。蔦塀が動きを止めるころには、障害物は囲う蔦塀だけに。皆、壁伝いに歩き出す。

確実に、一歩一歩、蔦の巨大アーチへと向かう。ほんの数分。
……彼らは知らない。あの蔦塀迷宮のままだったなら、中には入れなかったことを。その迷宮の中で、息を引き取った冒険者がいたことを。
しかし、彼らは進まなくてはならない。悪夢を減らして、いつか来る平和な世界のために。

巨大蔦塀アーチを潜ると、でかい花壇が左右に4つずつ。花は咲いていない。青々とした緑の絨毯が敷かれたまま。

三人とぬいぐるみは、黙々と進んでいく。ぼろぼろの屋敷には不釣り合いな庭を横目に進む。




───彼らを待ち受けるのは、最悪の事態。どうする?!
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