ジェシカ小奏鳴曲《ソナチネ》

文字数 1,052文字

───歌がすべてでしたの。

あたくしは高級なドール。当時、メロディドールなんて出回ってなかったから、とっても貴重なドールでしたの。五曲も埋め込んでるだけでかなりの、でしてよ。記憶なんてあんまりないですけれど。フランドールお兄ちゃまとペアのドール。お兄ちゃまはなにもないけれど、同じく珍しい、男の子のドール。

2つでセットなのに、買い手はあたくしたちを引き裂いた。

あたくしだけを棄てたんですの。きっとお兄ちゃまに恋でもしてしまって、あたくしの可愛さに嫉妬したんでしょうね。人形に嫉妬するだなんて、なんて浅はかなのでしょう。

あたくしはあたくしを棄てた人間さまが許せなかった。

呪い殺してやろうとさ迷ったのですわ。……でも、知りませんでしたの。憎悪で動けるようになったときには、もうそこにはいないって。お兄ちゃまも人の手に渡っていたようですわ。あたくしは一人さ迷った。呪いの人形として。終いには……。

───人間さまが憎い、人形を棄てる人間さまが憎い。

なにも考えられませんでしたの、あのときは。……目につく人間さまを殺し回ってしまっておりましたわ。特注品の陶磁器がぼろぼろになっても、這いずり、追いすがっていったんですの。

お姉ちゃまに拾われなかったら、きっと怨念だけで生きておりましたわ。お友だちが出来てからも一回、暴走しましたけれど……。

だって、人形を粗末にするんですもの。

今回も人形が壊されて、我を忘れかけましたわ。お姉ちゃまに出会わなかったら、理性なんて保てなかったでしょうね。頑張った方ですわよ? 褒めてくれてもよろしいんじゃなくって?

これで呪いが解決したなんて思ってませんわよね?甘いですわ。あたくしの憎悪は根深いんですの。これからもあたくしのために、頑張ってくださいまし。

おうたなら、ピアノの伴奏つきで聞かせて差し上げますわ。それでイーブンですわよね?あたくしのおうたは高尚なんですの。
好きなのはやはり、『Ave Maria』ですかしら? あたくしの歌声に酔いしれればいいですわぁ! おーほほほほほほほほほほほ!!!!


ですけれど、いつか『Amazing Grace』を歌わせてくださいまし。

今はまだまだ歌える境遇じゃありませんことよ? まぁあたくしがいることですし、あなたさま方はスムーズに平和に立ち向かえますわね。ありがたく思って下さっても、よろしくてよ?あたくしの可愛さはすべてに優りますの!


───これから、愉しく遊びましょう?
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