第7話 始まりはさ迷える魂の噂
文字数 1,953文字
まさかのアリスの体当たりが実を結んだ。
「……仕方ないわね。あたしたちに感謝なさい」
先程まで泣いていたとは思えないほど、相変わらずな態度。しかし、誰もが気がついていた。……ローゼリアの変化に。
「……で? どのクエストに行きたいのかしら?
」
ため息混じりにはしゃぐアリスに投げ掛ける。
「これこれ! 」
クエストの紙を指差す。
「…………………」
今、ここにリーゼロッテはいない。お母さんと一緒なので、ローゼリアは心配していない。リーゼロッテの瞳の理解があるから、あの肝っ玉母さんがどうとでもしてくれる。外の空気を吸いに連れ出してくれたのだ。
「……ダメだったか? 」
おバカなアリスはまだ知らなかった。ローゼリアが盲目だということを。
「……白雪姫、だろうなとは思っていたが……見えてないだろ? 」
帽子屋が助け船を出した。無言の肯定を示す。
「ぇ?ええええええええええ~~~??!! 」
盛大に二人は溜め息を漏らす。
「ウソウソ?! じゃぁ、どうやってジャービル倒したんだよ?! まるで見えてるみたいに俊敏に動いてた……って……あ」
自ら低脳ぶりを披露した。
「……よぉくその足りない頭で聞きなさい? 生まれたときから見えていないの。そんな状態で、生き抜くにはどうすればいいか。……先ずは、耳をすますの。そして、匂いを嗅ぐの。それから、近くのものから触れていくの……。視覚以外を研ぎ澄ますのよ。種族的なものもあるけど、危機意識が、防衛本能が生きていれば無意識に発動する。それを極めれば、自ずと見えていなくても、見えているように動けるわ。……あたしはそれが異常レベルってこと」
アリスはポカンとしている。
「……あなたがどれだけバカかわかったわ。これだけは理解なさい。見えていないからこそ、誰よりも他の機能が敏感になるって」
何故か赤らめる。ゴンッと、頭上から殴られた。
「バカね、本当にバカ。救い様がないわね」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい! 」
平謝りする情けないアリス。
「説明しますので、どうかご同行お願いします!! 」
かなりへりくだる。
「……仕方ないわね。聞いてあげる」
クエストの内容はこうだ。
場所は『夜霧の館』。
六十年前、世界規模の戦争が行われ、甚大な被害を及ぼされた東大国にあった洋館の一つ。
戦禍に見舞われたはずの屋敷が、まるで当時のままの姿で現れた。
たまたま迷い混んだ人間が、次々と帰らぬ人となった。その屋敷には、"ゴースト"が出るとの噂が絶えない所以だ。しかし、誰もが入れるわけでもないらしい。特定の条件を満たしたものだけが入れるのではないかと言われていた。
クエスト概要は、"内部調査"と"行方不明者の捜索"。それは建前だ。"自己判断で討伐もやむ無し"。
かなり難しいクエストであることは、間違いない。他国へ赴く時点で、かなりのリスクが生じる。ギルド協会側の保証は、あまり期待できない。表面だけだろう。その上、相手は"ゴースト"。実態がない。物理攻撃は一切通用しない。
魔法攻撃も、ゴーストの属性がわからないでは、難しい。会話が出来ればそれに越したことはない。
「……ねぇ、そこには誰が住んでいたのかしらね? 」
「聞いてきたよ~~? 」
チャラチャラとした、3月ウサギが帰ってくる。見えていない目で、促す。
「……あの屋敷には、戦争で亡くなった旦那を、死んだことを知らないまま待ち続ける美しい未亡人がいた。自分が死んだことも気がつかないまま、ゴーストとなって待ち続けてるってさ」
その未亡人ゴーストが人間を誘い、行方不明にしていると。
「それと! その未亡人には三人の娘がいたらしい。それはそれは、母親に似て美人だったらしい」
キラキラと語る3月ウサギに、軽蔑の目を向けた。
「へいへい! ま、そこには四人の女ゴーストが現れるって話。それ以上はわからねぇ」
話が終わる。
「……多分、供養かもしれないわね。浮かばれない魂を救わなきゃ、無限のループ。行ってみなきゃわからないけど、行ってから糸口探しましょ」
お母さんがリーゼロッテを伴い、帰宅してから出発することにした。
……その屋敷で、何が起きるかなんてわからない。だが、誰かが何とかしない限り、行方不明者が増えるだけ。迷える魂なら、供養しなければならない。ゴーストは自らを救えない。
「……人間の魂がゴーストになる。皮肉なものね。あたしは何故、こうも人間を助けてしまうのかしら」
その呟きは、あまりに小さく、皆には聞こえていなかった。
「……仕方ないわね。あたしたちに感謝なさい」
先程まで泣いていたとは思えないほど、相変わらずな態度。しかし、誰もが気がついていた。……ローゼリアの変化に。
「……で? どのクエストに行きたいのかしら?
」
ため息混じりにはしゃぐアリスに投げ掛ける。
「これこれ! 」
クエストの紙を指差す。
「…………………」
今、ここにリーゼロッテはいない。お母さんと一緒なので、ローゼリアは心配していない。リーゼロッテの瞳の理解があるから、あの肝っ玉母さんがどうとでもしてくれる。外の空気を吸いに連れ出してくれたのだ。
「……ダメだったか? 」
おバカなアリスはまだ知らなかった。ローゼリアが盲目だということを。
「……白雪姫、だろうなとは思っていたが……見えてないだろ? 」
帽子屋が助け船を出した。無言の肯定を示す。
「ぇ?ええええええええええ~~~??!! 」
盛大に二人は溜め息を漏らす。
「ウソウソ?! じゃぁ、どうやってジャービル倒したんだよ?! まるで見えてるみたいに俊敏に動いてた……って……あ」
自ら低脳ぶりを披露した。
「……よぉくその足りない頭で聞きなさい? 生まれたときから見えていないの。そんな状態で、生き抜くにはどうすればいいか。……先ずは、耳をすますの。そして、匂いを嗅ぐの。それから、近くのものから触れていくの……。視覚以外を研ぎ澄ますのよ。種族的なものもあるけど、危機意識が、防衛本能が生きていれば無意識に発動する。それを極めれば、自ずと見えていなくても、見えているように動けるわ。……あたしはそれが異常レベルってこと」
アリスはポカンとしている。
「……あなたがどれだけバカかわかったわ。これだけは理解なさい。見えていないからこそ、誰よりも他の機能が敏感になるって」
何故か赤らめる。ゴンッと、頭上から殴られた。
「バカね、本当にバカ。救い様がないわね」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい! 」
平謝りする情けないアリス。
「説明しますので、どうかご同行お願いします!! 」
かなりへりくだる。
「……仕方ないわね。聞いてあげる」
クエストの内容はこうだ。
場所は『夜霧の館』。
六十年前、世界規模の戦争が行われ、甚大な被害を及ぼされた東大国にあった洋館の一つ。
戦禍に見舞われたはずの屋敷が、まるで当時のままの姿で現れた。
たまたま迷い混んだ人間が、次々と帰らぬ人となった。その屋敷には、"ゴースト"が出るとの噂が絶えない所以だ。しかし、誰もが入れるわけでもないらしい。特定の条件を満たしたものだけが入れるのではないかと言われていた。
クエスト概要は、"内部調査"と"行方不明者の捜索"。それは建前だ。"自己判断で討伐もやむ無し"。
かなり難しいクエストであることは、間違いない。他国へ赴く時点で、かなりのリスクが生じる。ギルド協会側の保証は、あまり期待できない。表面だけだろう。その上、相手は"ゴースト"。実態がない。物理攻撃は一切通用しない。
魔法攻撃も、ゴーストの属性がわからないでは、難しい。会話が出来ればそれに越したことはない。
「……ねぇ、そこには誰が住んでいたのかしらね? 」
「聞いてきたよ~~? 」
チャラチャラとした、3月ウサギが帰ってくる。見えていない目で、促す。
「……あの屋敷には、戦争で亡くなった旦那を、死んだことを知らないまま待ち続ける美しい未亡人がいた。自分が死んだことも気がつかないまま、ゴーストとなって待ち続けてるってさ」
その未亡人ゴーストが人間を誘い、行方不明にしていると。
「それと! その未亡人には三人の娘がいたらしい。それはそれは、母親に似て美人だったらしい」
キラキラと語る3月ウサギに、軽蔑の目を向けた。
「へいへい! ま、そこには四人の女ゴーストが現れるって話。それ以上はわからねぇ」
話が終わる。
「……多分、供養かもしれないわね。浮かばれない魂を救わなきゃ、無限のループ。行ってみなきゃわからないけど、行ってから糸口探しましょ」
お母さんがリーゼロッテを伴い、帰宅してから出発することにした。
……その屋敷で、何が起きるかなんてわからない。だが、誰かが何とかしない限り、行方不明者が増えるだけ。迷える魂なら、供養しなければならない。ゴーストは自らを救えない。
「……人間の魂がゴーストになる。皮肉なものね。あたしは何故、こうも人間を助けてしまうのかしら」
その呟きは、あまりに小さく、皆には聞こえていなかった。