第13話 あがらうローゼリアを導きし人形
文字数 2,326文字
「……キレイ。でも、人形 は一緒に遊んでくれない」
セリカの声が、心なしか沈んで聞こえた───。
◆◇◆◇◆◇◆
目覚めると、そこは薄暗かった。盲目とはいえ、明暗くらいはわかる。何の気なしに立ち上がろうとすると、体が重い。心なしか、リーチが短い……。いや、実際短かった。
『何よ、これ……』
やけに、物が大きく感じる。……それもそのはずだ。ローゼリアは、人形になっているのだから。
───ゴトン!!
バランスが取れずに、いた台から落ちた。
『………った……くない?』
人形になり、感覚が麻痺したよう。
───ギィー…………。
いきなり、扉が開く音がした。音に気がついて…………? 体が強張る。しかし、聞こえてきた声は……。
「……クスクス、見つかったらどうなさるおつもりでしたの? 」
見知らぬ少女の声。鼻に掛かったような、甘い幼い声。
「あたくしが間一髪で手心入れて差し上げましたのよ? 」
ふふんっと鼻を鳴らす、小さな音がした。……ローゼリアは何かを感じたが、この状況とは関係ないため、口をつぐむ。
『……どういうことか、それではわからないわ』
確かに少し、詳しい説明がほしい。
「面倒、ですわねぇ。本当は、こんなことは許されないんですの。でも……、人形たちが関わっているとあらば、見過ごすことは出来ませんのよ」
違和感を感じた。人間に思えるのに、人間の気配を感じない。彼女は一体……。
『……どういうことかしら? 』
ますます持ってわからない。ローゼリアはイライラし始めた。さっきの感覚を忘れようとしても、そう簡単には忘れられない。
「……この館の呪いを解く権限があるのは、あなたさま方だけ。それと! 人形たちを傷つけないでいただきたいんですの! あの子たちが、あなたさま方に巻き込まれる言われなんてないですわ! あたくしは、人形たちのために、あなたさまの意識を留まらせて差し上げましたの! ありがたく思ってくださいまし! ふんっ、人形たちに、世界一愛くるしいあたくしに感謝なさいませ !」
……聞きたいことと一緒に、確信を得た。性格は違えど、二人は似た者同士。反りが合わないからイライラするようだ。
『……あなたの能力に助けられたのは感謝してあげる。ありがとう。別に人形になんて、興味はないわ。それと……、悪いわね。あたしは白雪姫なの。世界一美しいから、ごめんなさい?
』
───バチバチ。
同年代美少女の一進一退の、譲らない対決!
だが、そんなことをしている暇はない。切り上げたのは、まさかの相手だった。
「相容れない存在同士では、お話にならなくてよ。……時間がないですわ。"白雪姫"様、失礼しますわ」
ひょいっと人形になったローゼを抱える。柔らかいビロード生地の感触。だがしかし、全くもって、胸は平らだ。更に彼女が抱えているらしい、ふわふわのぬいぐるみが圧迫する。人形になっているので苦しさはないが。
『ちょっと! ……名前くらい聞かせてちょうだい。覚えていてあげる』
「……あたくしのことは、"カノンちゃま"とでもお呼びくださいませ」
───ギィ。
扉を再び押し、部屋を出たようだ。
『……ねぇ、カノン。あなた、人間ではないわね? 』
「あなたさまだって、死喰腐鬼 じゃありませんの? 種族に何の意味がありまして? まぁ、教えて差し上げましてよ。あたくしは人形、それもメロディドールですのよ」
こんなにも、人間らしい感情を見せているものが、自分は人形だと語る。まるでモノに宿る魂のような。
『……仕方ないわね。お礼に人形たち、救ってあげる。どうすればいいの? 』
カノンが笑った気がした。異常なまでに発展した聴覚でなければ、感じとれなかっただろう。
『あの人形たちは、元は人間様だとわかっていますわ。……けれどもう元には戻れないんですの。だからせめて、どんな形でもいいですから、あの場所から解放してあげてくださいまし。……残留思念が、あまりにも哀しいんですの。だからって、壊さないでくださいませね?! べ、別に人間様なんてどうなろうと、知ったことではありませんけれど! 人形にされたとあっては助けたいと思うのが人形心理なんですの! 』
………言い訳しているようで可愛い。ローゼリアからはそんな純粋さは感じられない。
『どんな形でもいい、ね』
人形に留まる残留思念。魂と大差ないなら、壊さないなど簡単だ。
カノンがピタリと止まった。
「……この角を曲がればあなたさまの大切で有能なご友人様に再会出来ましてよ? ……どうかご友人様によろしくお伝えくださいまし」
ローゼリアは、してやられたと思った。最初からわかっていたのだ、カノンは。リーゼロッテの瞳のことを。
「それと、これもお伝えくださいませ。'あなたさまのお力はあなたさまが絶望視されるようなものではありません'と」
何もかも、知っているような口振り。
「……これは、何だが悔しいので言いたくはないのですけれど。………あなたさま、純粋な死喰腐鬼 ではなくてよ? いづれ、自覚なさるときが来ますわ。では、ごきげんよう!
」
そのままローゼリアを角に沿って、投げたのだ。
「おーほほほほほほ!! ごめん遊ばせ!! 」
斯くして、人形のために現れた人形を名乗る美少女カノンは、真っ赤なビロード生地のゴスロリ衣装と真っ赤なリボンを着けた金髪ウェーブを翻し、テディベアを抱えながら姿を消した───。
セリカの声が、心なしか沈んで聞こえた───。
◆◇◆◇◆◇◆
目覚めると、そこは薄暗かった。盲目とはいえ、明暗くらいはわかる。何の気なしに立ち上がろうとすると、体が重い。心なしか、リーチが短い……。いや、実際短かった。
『何よ、これ……』
やけに、物が大きく感じる。……それもそのはずだ。ローゼリアは、人形になっているのだから。
───ゴトン!!
バランスが取れずに、いた台から落ちた。
『………った……くない?』
人形になり、感覚が麻痺したよう。
───ギィー…………。
いきなり、扉が開く音がした。音に気がついて…………? 体が強張る。しかし、聞こえてきた声は……。
「……クスクス、見つかったらどうなさるおつもりでしたの? 」
見知らぬ少女の声。鼻に掛かったような、甘い幼い声。
「あたくしが間一髪で手心入れて差し上げましたのよ? 」
ふふんっと鼻を鳴らす、小さな音がした。……ローゼリアは何かを感じたが、この状況とは関係ないため、口をつぐむ。
『……どういうことか、それではわからないわ』
確かに少し、詳しい説明がほしい。
「面倒、ですわねぇ。本当は、こんなことは許されないんですの。でも……、人形たちが関わっているとあらば、見過ごすことは出来ませんのよ」
違和感を感じた。人間に思えるのに、人間の気配を感じない。彼女は一体……。
『……どういうことかしら? 』
ますます持ってわからない。ローゼリアはイライラし始めた。さっきの感覚を忘れようとしても、そう簡単には忘れられない。
「……この館の呪いを解く権限があるのは、あなたさま方だけ。それと! 人形たちを傷つけないでいただきたいんですの! あの子たちが、あなたさま方に巻き込まれる言われなんてないですわ! あたくしは、人形たちのために、あなたさまの意識を留まらせて差し上げましたの! ありがたく思ってくださいまし! ふんっ、人形たちに、世界一愛くるしいあたくしに感謝なさいませ !」
……聞きたいことと一緒に、確信を得た。性格は違えど、二人は似た者同士。反りが合わないからイライラするようだ。
『……あなたの能力に助けられたのは感謝してあげる。ありがとう。別に人形になんて、興味はないわ。それと……、悪いわね。あたしは白雪姫なの。世界一美しいから、ごめんなさい?
』
───バチバチ。
同年代美少女の一進一退の、譲らない対決!
だが、そんなことをしている暇はない。切り上げたのは、まさかの相手だった。
「相容れない存在同士では、お話にならなくてよ。……時間がないですわ。"白雪姫"様、失礼しますわ」
ひょいっと人形になったローゼを抱える。柔らかいビロード生地の感触。だがしかし、全くもって、胸は平らだ。更に彼女が抱えているらしい、ふわふわのぬいぐるみが圧迫する。人形になっているので苦しさはないが。
『ちょっと! ……名前くらい聞かせてちょうだい。覚えていてあげる』
「……あたくしのことは、"カノンちゃま"とでもお呼びくださいませ」
───ギィ。
扉を再び押し、部屋を出たようだ。
『……ねぇ、カノン。あなた、人間ではないわね? 』
「あなたさまだって、
こんなにも、人間らしい感情を見せているものが、自分は人形だと語る。まるでモノに宿る魂のような。
『……仕方ないわね。お礼に人形たち、救ってあげる。どうすればいいの? 』
カノンが笑った気がした。異常なまでに発展した聴覚でなければ、感じとれなかっただろう。
『あの人形たちは、元は人間様だとわかっていますわ。……けれどもう元には戻れないんですの。だからせめて、どんな形でもいいですから、あの場所から解放してあげてくださいまし。……残留思念が、あまりにも哀しいんですの。だからって、壊さないでくださいませね?! べ、別に人間様なんてどうなろうと、知ったことではありませんけれど! 人形にされたとあっては助けたいと思うのが人形心理なんですの! 』
………言い訳しているようで可愛い。ローゼリアからはそんな純粋さは感じられない。
『どんな形でもいい、ね』
人形に留まる残留思念。魂と大差ないなら、壊さないなど簡単だ。
カノンがピタリと止まった。
「……この角を曲がればあなたさまの大切で有能なご友人様に再会出来ましてよ? ……どうかご友人様によろしくお伝えくださいまし」
ローゼリアは、してやられたと思った。最初からわかっていたのだ、カノンは。リーゼロッテの瞳のことを。
「それと、これもお伝えくださいませ。'あなたさまのお力はあなたさまが絶望視されるようなものではありません'と」
何もかも、知っているような口振り。
「……これは、何だが悔しいので言いたくはないのですけれど。………あなたさま、純粋な
」
そのままローゼリアを角に沿って、投げたのだ。
「おーほほほほほほ!! ごめん遊ばせ!! 」
斯くして、人形のために現れた人形を名乗る美少女カノンは、真っ赤なビロード生地のゴスロリ衣装と真っ赤なリボンを着けた金髪ウェーブを翻し、テディベアを抱えながら姿を消した───。