第11話 謎の美人、迷探偵リーゼロッテと帽子屋ワトスン

文字数 3,602文字

三人がそんなことになっているとは知らないリーゼロッテと帽子屋は───。

それぞれの部屋に向かう。しかし、小一時間経っても戻らないローゼリア。心配になって廊下に出た。真っ暗な廊下は寒気がする。ローゼリアが傍にいないだけでも、心細いと言うのに。
……無意識に、帽子屋のいる部屋をノックした。
ややあってから、扉が開く。

「……どうした? 赤ずきん」

俯いたまま、震えているリーゼロッテを不審に思った帽子屋は頭をくしゃりと撫でた。

「……ローゼが、まだ戻らないんです。あの、そちらは───」

暫くして、帽子屋が口を開く。三人の中では口数が多い方ではないが、この状況では沈黙が怖い。

「……そう言えば、まだ帰ってきてないな。心配なんてしてなかったって言えば、嘘になるが。……いつも引っ付いてる白雪姫が戻らないのは、ちょっと穏やかじゃないな」

不安を増長するつもりはないが、下手な嘘をつくよりはマシだ。

「ま、まさか……」

はっとするリーゼロッテに、溜め息をつく。

「……恐らく、狙われていたのはあの三人だな。3月ウサギは自ら襲われに行ったようなもんだが」

3月ウサギはわかってやっているので、置いておく。

「あ、私……ローゼになんてことを……」

その場にへたりこむ。『行ってきなよ』なんて言うんじゃなかったと後悔した。

「安心しろ。あの小娘は殺そうとしてもそう簡単にくたばるわけないだろ。アイツらだってそうだ。ただじゃ倒れない」

凸凹パーティだが、それなりに実力はある。

「……信頼、してるんですね」

しかし、その言葉は裏切られた。

「いや? あのたらしとバカなんざ、信頼なんかしてねぇよ」

ポカンとする。

「……だが、アイツらは今まで、負けたことはない。今回は五人パーティだ。……わかるな?


はっとするリーゼロッテ。そう、リーゼロッテもローゼリアと二人きりではない。それに
信頼と信用とでは、似て非なるもの。帽子屋は彼らを信用しているのだ。今回は二人と三人、合わせて五人のパーティ。囮班と行動班。分かれて当然。リーゼロッテも信用しなくてどうするというのだ。

「……ローゼを、いえ、アリスくんや3月ウサギさんだって殺させはしません。私たちが謎を解き、この屋敷を解放しましょう」

また頭をくしゃりと撫でられた。

「……ちょっと待っててくださいね! 」

部屋へかけ戻る。少しして出てきた彼女は………。

「……おまえの趣味か? 」

衣装を着替えたリーゼロッテ。

「……そうです。こんなときのために、お母さんにもらってきました! 今から私は、『名探偵・リーゼロッテ』となります! 」

赤ずきんの衣装をアレンジした衣装。赤ずきんを引いた人が、男性だったときのために用意された衣装だ。……ここだけの話、アリス衣装もあったらしい。

短パンにニーハイソックスとブーツ、スカートのヒラヒラは後ろに残す、凝ったもの。それが探偵に見えるかは、追及してはならない。

「いきますよ! ワトスンくん! 」

ノリノリである。

「……なんで俺がワトスン? しかも、おまえじゃ迷探偵だ」

明るくしていれば、大丈夫。ひとりではない。ひとり取り残されたら、どうにも出来なかっただろう。弱いまま、守られたままのか弱い女の子ではないのだ。……彼女には、この武器()がある。物理が利かないなら、直接魂ごと喰らえばいい。元人間だろうと、大切な人たちを奪うなら、こちらも覚悟の上だ。そう意気込み、歩き出そうとした瞬間、視界の先に人影が見えた。

「きゃぁ……! 」

ビックリして、後退る。……しかし、その人影はこちらに来ようとはしない。怖い感じが全くしなかった。よくよく見ると、ある一方を指差していた。

「……俺たちをどこかに連れていきたいのか?


いぶかしがる帽子屋。

「……あの人影からは、悪意を感じません。一か八かついて行ってみましょう」

二人は警戒しながらも、指し示す方へと進んでいく。

◯●◯●◯●◯

……どれくらい歩いただろうか。人影には、一向に近づけない。進んでいるのに一定距離を保っている。そしてある部屋に立ち止まり、中に消えていった。追い掛けるように、その扉の前に立つ。


───ギィ…………。


まるで、誘うように扉が小さく開いた。二人は恐る恐る、中に侵入する。


───パタン。


二人が中に入るなり、扉がしまった。目の前にはあの人影。……少しずつ輪郭を取っていく。
そして、二人の目の前に一人の女性が現れたのだ。

「……驚かせてすみません。私は、ユリカ。マリカの娘であり、エリカとセリカの姉です」

まさかの長女の出現に何も発することが出来ない。何があるかわからない。彼女の餌食になるのか、と身構えた。

「安心してください。私は、あなた方に危害を加えるつもりはありません。……差し出がましいようですが、"お願い"があって参りました」

ユリカからは、悪意を感じなかった。真剣な表情に魅せられる。

「……私たちにお願いってなんですか? 」

目を合わせないようにしながらも、警戒は怠らない。

「はい。これは、あなた方のお友達を救うためでもあるのです。どうか、どうか母たちを救ってください」

彼女は、母親と妹たちを救うためにここにいる。しかし、自分ではどうすることも出来ないから、リーゼロッテたちにお願いしていると言うことだろうか。しいては、ローゼリアたちを助けることが出来ると。

「……手短に話せ」

元来自分にしか興味のない帽子屋が協力してくれるのも、彼女以上に不思議ではある。そこが大人とも言えた。仕事は最後までこなす。結果がすべてだと。

「……はい。この館のどこかに、母と妹たちの本当に探しているものがあります。私には触れることも叶いません。………死んでいますから」

彼女は、自分が死んでいることを自覚していた。普通ならば、正気でいられるはずかない。だが、落ち着いていた。………何かしらの覚悟を感じる。

「それは、今の母たちには見つけることが出来ません。詳しくはお話出来ませんが、あなた方なら手に取れるものです。……真実から目を反らさないで。…………タイムリミットは、真の夜明けまで。それまでに見つからなければ、…………あなた方も全員、館に囚われてしまうことでしょう」

今、さらっと怖いことを言われた気がする。

「あ、あの、真の夜明けって、正確にはどれくらいですか? 」

それだけでは、時間がわからない。

「……光指す時間。けれど、過ぎれば永久に闇の中です……」

そのまま消えてしまう。

「……要するに、いつもの夜明けまで。見つけなければ、永久に夜ってことだな。イマイチわからないが」

本当にわからない。

「……間違っても、後一時間とかではないですよね。でも、本当に探しているものってなんでしょうか?」

コツンと小突かれる。

「迷探偵が、助手に聞くな。おまえが考えて、謎を解くって粋がったんだろうが。一緒には考えてやるから」

そう、リーゼロッテは決めていた。忘れてはいけない。ぼうっと光が、目の前に現れた。

「……あなた方に、道を開きます。あなた方にお三方がいる空間を見えるようにしました。お三方の空間からは、あなた方は一時的に見えないようにしましたが、時間と共に薄れてしまいます。母たちに見つかる前に見つけてくださいね。……私が出来ることはこれくらいです。見つけたとき、またお会いしましょう」


ふっと光が消えた瞬間、叫び声が反響した。

『ついてくんなぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 』


───ガラガラガラガラガラガラ!!!!


『仕方ないじゃありませんか。あなたの足を頂かなくてはなりません』
『やれるわけねぇだろがー!!!! 』

けたたましい足音と、車イスの音。

「……アリスくん? エリカちゃんに襲われてる?! 」

衝撃の展開に唖然とするリーゼロッテ。

「アイツなら大丈夫だ。半日くらい全力で走れる。いつも囮役をしているから、手馴れたもんだ」

涼しい顔をしていう。そんなすごい脚力を持っているとは。見事な脚力だ。


『ねぇ? 焦らさないで? 早く私のものになって、3月ウサギさん』
『……こんな美しい方を、すぐに食べてしまうのは勿体ないんですよ』

………トンでもない会話が聞こえてくる。いち早く、リーゼロッテは耳を塞がれた。

「聞くな、穢れる」

あんまりな扱いではあるが。

………しかし、中々聞こえてこない。ローゼリアの安否が気掛かり。だが、聞こえるはずがなかった。ローゼは人形(ともだち)にされているのだから───。
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