第26話  潜入!ホーン◯ッ◯マンション

文字数 4,208文字

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3月ウサギ&ラプンツェル&ルクレツィアチーム
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入った瞬間、後悔した。こっちを選ぶんじゃなかったと───。


大きな扉の前に立つと、まるで自動ドアのように開く。嬉しくない歓迎のされ方だ。

「お、俺帰っていい? 」

ガタガタブルブルしている3月ウサギ。

「……帰れるものならどうぞ? 」

振り替えると、巨大アーチは姿を消し、花壇が競り上がり、巨大な土壁が出来ていた。ラプンツェルが笑顔で中に引きずり込むと。


───バタン。


お決まりの。

「い、いやぁぁぁぁぁぁ!!!! 俺を帰してぇぇぇぇ!!! 」

扉にしがみつきながら騒ぎ立てる。うるさいなぁと中を振り向いた二人は固まった。そこには……。


ホールいっぱいに、首や腕や足がもげた人形がところ畝ましと転がっていた。


「あっちゃぁ~……」

流石にひきつるラプンツェル。

「うぎゃ……むぐっ! 」

振り向いた3月ウサギの口をすかさず、塞ぐ二人。ここまできたら大体予想はつく。3月ウサギがどのタイミングで叫ぶかの。

「……ラプ、よくみて」

ルクレツィアが指し示す場所。そこには、人形にしては大きな頭が 落ちていた。見渡せば、人形に混ざって色々と見るに耐えない部位が落ちている。

「………………………」

あまりの壮絶さに、言葉を失う3月ウサギ。震えるしかできない。

「帰れなかった冒険者かなぁ? 」

なむなむと手を合わせ、肉塊やら人形やらを避けながら、アーチ型階段を登っていく。上には動かず、瞳を怪しく光らせる人形たちが見下ろしていた。すぐに何もしてこないなら、こちらも何もしないでおこう。何されるかわからないし。じわりじわりと登っていく。
登りきった先には───。

明るい場所なら可愛い西洋人形たちがズラリ。

しかし所々、血痕が……。この子たち、殺ってる───!!(戦慄)
ここで3月ウサギを投げたら、どうだろう。……すぐにその考えは却下された。たぶん、ものの数分も持たない。役に立たない。

「殺る気満々の相手に壊さないで倒すってどうしたらいい? 」
「……私もわからないわ」

どんっと3月ウサギを階段から突き落とした。

「ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁあぁぁ!!!!! 」

つんざくような叫び声が響いた。ここにいるより、物言わぬものたちの場所のが安全と判断したからだ。どうせすぐ気絶する。

「行くわよ! 」

掛け声とともにラプンツェルの耳が尖り、爬虫類のそれに変わる。お尻からは太い尻尾がズズズズと。肌も尻尾や耳のような、銀色の鱗に変わる。

「外じゃないから完全体にはなれないわねぇ」

変わらない口調。髪は変わらないのに、見た目が竜人を思わせた。爬虫類のような突き出た口に、二股の舌がチロチロとみえ隠れする。

「……仕方ないわ。あなたの完全体はあまりに大きいもの」

対するルクレツィアは同じ爬虫類でも、全体が蛇としか形容できない。蒼い鱗に覆われた下半身大蛇、頭には無数の蛇を従えた合成獣(キマイラ)。エメラルドの瞳だけが変わらず、前を向いていた。

「ルクレツィア、アレ使ったらマズイ? 」
「……マズイわね。石にしたら意味がないんじゃない? 」
「動きを止めるだけの、寸止め出来たらいいのに」
「……使えていたら、あたしたちが主役だったわよ」
「………………!」

まさか、ルクレツィアからジョークが発せられるとは……。

「……取り敢えず」

ラプンツェルは耳を塞いだ。全頭の蛇から、超音波を発する。すると人形たちがバタバタおち出した。

「意外と効果ある? 」

しかし、少しするとまたむくりと起き出す。きりがないようだ。

「……でも、攻撃は出来ないようね。私たちが人間ではないから攻撃をあぐねいているみたい」

古代竜(エンシェントドラゴン)の末裔と合成獣(キマイラ)。硬さはピカイチだ。
近寄るとギラリと睨まれる。

「あの子に出てきてもらわなきゃ話は進まないわよねぇ」

……二人は見逃していた。既にカノンは視界にいたのだ。


「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!! 」

下から3月ウサギの悲鳴。思わず手摺から、身を乗り出す。

「……やめ……て……この子……タチ……をキズ……つけナイ……で……!!! 」

3月ウサギが落ちた場所、下敷きにしてしまっていたのは、人形。立ち上がるも人形か人間かもわからずパニック。

カノンはぼろぼろだった。陶磁器を思わせる、柔らかな質感の肌はクラック《ひび割れ》が行き渡り、立ち上がれないでいる。クラック《ひび割れ》がなければ女の子にしか見えない。
ベルベットローズの上質なゴシックドレスと大きなリボン、はちみつ色のふわふわウェーブも汚れている。

「カノン?! あなた、カノンなの?! 」

「……なん……デ……あたく……シ……の名前……? 」

余所見をしている間に徘寄った西洋人形たちが、ラプンツェルとルクレツィアにのし掛かる。突き落とす裁断らしい。硬いなら落とそう。安易だなと思ってはいけない。二人でもびっくりするくらい、力が強い。
落ちても然程ダメージはないが、暫くは動けなくなるだろう。だが、耐えるほどの力はない。二人が耐えきれず、落ちた瞬間。

◆◇◆
合流
◇◆◇

再び、扉が開かれた。

二人はまっ逆さまに落ちたが、痛くない。解除して重量を減らしたからかと思ったら。
ルクレツィアは帽子屋が、ラプンツェルはスライディングした3月ウサギが受け止めていた。

「……ふふふ。ざまあないわねぇ? カノン? 」

胸を張るローゼリアが立っていた。横にはリーゼロッテがしがみつき、後ろではアリスが「すげーな! おい! 」と周りを見ている。

「……また……会え……ました……ワネ……でも……ちょっト……遅かった……デスワ……」
「ちょっと! こんなとこでくたばってもらったら困るのよ! 決着、ついてないんだから! あなたを壊すのはあたし! 」
「おバカ……デスワ……ねぇ……」

カノンの様子がおかしい。周りの人形たちの瞳が笑っている。

立てないほどにぼろぼろになったカノンが、人形たちに支えられて立ち上がった。

『アタシタチ、ステラレタノ! ミンナミンナオナジ! コイツラモオナジ! スグステルンダワ! 』

人形たちが囁く、悪魔の囁き。

「棄て……ラレタ……。あたく……シ……も……棄て……棄て……ラレタ!!!! 」

真っ赤なルビーのような瞳が、どす黒く光る。

「な! 何操られてるのよ! 」

火の玉のような球体が、ローゼリアたちを襲う。逃げ惑えば逃げ惑うほどに、絡みつく。人形たちも間を縫って襲い掛かってくる。何十という人形たち。傷つけたらカノンを逆上させる。だから避けるのが精一杯だ。

「攻撃出来ないんじゃどうしようもないわ!
安全な場所はないの!!? リーゼを安全な場所に!! 」

どす黒いうようよオーラを纏う人形たち。そのオーラを食べさせれば……けれど、思うように行かない。

「……おい! ラプンツェル! おまえの持ってるそれはなんだ?! 」

はっとするラプンツェル。

「そうよ! これ! カノン! 受け取って!


持っていたテディベア。それを思いっきり、カノンに向けて投げる。人形には手を出せないのか、西洋人形たちは避けてくれる。カノンにぶつかった瞬間、真っ赤な光の閃光が包み込む。光がゆっくりと収束した瞬間。

力なく崩れ折れたカノンを抱き抱えていたのは、真っ赤なワンテールのワイルド美少女だった。

「……ちっ! おせぇんだよ! 惑わされてあたしを手離すからこうなるんだ! 」

獣のような金色の瞳、燃えるような赤い髪、豊満な胸をベアトップで包み、ショートパンツと帽子のパンクルックの強気な美少女。

「今のうちに食っちまえ! 」

その言葉にびっくりしながらも、リーゼロッテは瞳を閉じ、集中させる。何かを感じて、襲い掛かる人形たちを払い除けるのは、パーティメンバーの仕事だ。傷つけないように、慎重に。

開かれた瞳は、人形たちを凝視する。

「お願い! 大人しくして! もうあなたたちは傷つかなくていの! 」

発するとともに、瞳が揺らぐ。前にも見た光景。いやいやをしながら人形たちから、どす黒いもやもやがリーゼロッテの口へと吸い込まれていく。

……すべてを吸い込んだそこには大量の人形たちが横たわっていた。

◇◆◇◆◇◆◇

疲れ果てた体を引き摺り、館をあとにする。そこにはもう、カノンはいない。アンジェリカが連れ去ってしまったからだ。

「……ねぇ、マッチ持ってないかしら? 」
「ほらよ! 」

帽子屋が投げてよこす。

「ありがとう」

その言葉にぎょっとする。だが、それをとやかく文句をつけずに、後ろを向く。マッチを二本擦ると……。

竹藪と蔦塀に投げつける。マッチの火は、予想外に勢いよく燃えた。

「な、何してんだよ! 白雪姫! 」

帽子屋ががっと頭をつかんでとめる。

「……楓さんに、頼まれたの。『すべて終わったら、燃やしてほしい』って」

きっと彼女はあの場所から動けない。せめて一緒にと考えたのだろう。

すべてが炎で包まれた、そのとき。

『ありがとうございます』

微かだが、彼女の声が聞こえた気がした。

◇◆◇◆◇◆◇

七人が立ち去った場所に、一人立つ人影。

「……まぁたやらかされちゃった☆ あたし興奮しちゃう!やっぱりあの子、あの方と何か関係あるかもぉ☆ 」

前回同様、黒いもやもやを生み出したとされる人物。紫と黒のテーピングボンテージの趣味悪い……少年。ブリブリ美少女ではない。趣味の悪い女装少年(見た目が)。
燃え盛る2つの屋敷を尻目に、立ち去った。まるで彼は、ローゼリアたちを試すかのように笑っていた。

◆◇◆◇◆◇◆

運命の歯車は、少しずつ少しずつ、彼らを導く。重なりあうとき、悲劇が幕を開けるのだ。


『人形の館クエスト』完
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