帽子屋幻想曲《ファンタジア》

文字数 1,098文字

───家族は捨てた。
どうしようもないアリス一派が今の俺の家族だ。

生まれは東国。剰りある統治国家時代。俺の父親は、その中心人物だった。そう、東国大総統。国民は俺たちのために生かされていると、くどいほど語る父。俺はそんな父が大嫌いだった。国民だって同じように生まれ、生きているのに。長男の俺は、そんな父の期待を一身に背負わされた。父の跡を継ぐのは俺だと、耳が腐るほど聞かされた。父の側近たちからも。

んなもん、クソ喰らえだ!

俺は最低だ。国民を父から救うこともせず、逃げた。安住の地を探すために。さ迷っている間に、人伝に聞いた祖国の話。

『独裁政治により、大総統は国民の暴動で死亡。』

守るべき国民が罪を背負った。俺が殺るべきだったのかもしれない。殺す選択肢しかないのならば。意気地無しな俺は、再興されつつある東国に戻ることはなかった。

もう、俺なんかいらない。

独裁なんてする、一族なんていらない。だから、俺は祖国を捨てる。国民のために。国民が自ら切り開く未来こそ、必要だ。父を言い負かすことも出来ない後継者はいらない。

俺は何がしたい? 何がしたかった?

自問自答しても、答えはでない。出るわけない。なら、どこに行こうか。宛なんか、最初からない。


───「なぁなぁ! あんた、一人なのか? 」

長いブロンドの髪の、一見少女のように見える少年が話し掛けてきた。

───「一人だったら? 」

気だるげに答えるが、まったく気にした風もなく笑っている。

───「そかそか! 兄さん、イケメンだなぁ! 俺は可愛いけどな! 」

こいつをバカだと初めて思ったのは、この時だった。

───「俺と行こうぜ! ここから三日は歩くけど、どんなやつも受け入れてくれる街があるんだってさ! 」

何処にも行く宛のない俺に目標をくれたこのバカが、俺は嫌いじゃなかった。

───「……仕方ねぇなぁ、保護者になってやんよ」

そんな何気ない出会いをした、俺とアリス。

まさか、チームを組むことになるなんて思いもしなかった。このときは。ただ、旅の道連れ程度に考えていた。……こいつが放っておけなくて、ずるずる一緒にいる。きっとこれからも。

最低な過去の償いなんかじゃねぇ。

今の俺がそうしたいだけに決まってんだろ。誰があいつらの保護者すんだよ?
ラプンツェル? ルクレツィア? あいつらは飴しか出さねぇだろうが。鞭役やってやんよ。


ここが俺の居場所だ、誰にも奪わせねぇ───。


誰にも優しくなんかしねぇ。自分にさえも厳しく生きてやる。あがらい続けてやる。
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