第20話 【番外編】幽閉されし姫を助けしは、合成魔獣
文字数 3,196文字
金髪美女・ラプンツェルと蒼髪美女・ルクレツィア。
酒豪美女と大食漢美女の出会いのストーリー。
◇◆◇◆◇◆◇
二人は、最初から一緒だったわけではない。全くもって、共通点のない二人。それは、リーゼロッテとローゼリアの関係に類似するほどの。
◇◆◇◆◇◆◇
ラプンツェル
◇◆◇◆◇◆◇
彼女は、今は亡き竜族 の生き残り。
嘗て、竜族 は栄華を誇っていた。しかしそれは、遥か昔の話である。
竜族は元々稀少な一族で、繁殖に優れた一族と交わらなければ、すぐに途絶えてしまうような儚い存在。どの世界でも、竜 と言うのは、最強の代名詞で長命。だからこそ、繁殖意識が低く、衰退してしまう。繁殖相手に選ばれるのはやはり、数の多い人間。しかし、彼らと交わってもいづれ滅びる。何せ、血液型のような倍率なのだから。人間がA型とするならば、竜族 はO型。竜族 が産まれる確立は1/4。
しかし、竜族 の中でも、太古竜 の一族だけは違う。竜族 を統べる太古竜 の一族は王族とされ、どの一族と交わっても、100%の確率で竜族 が産まれる。
そんな中、唯一無二の美貌と才能、そして期待を背負った『姫君』が誕生した。……竜族 最後の王族にして、最後の竜族 。後のラプンツェルである。
そう、竜族 は滅びたのだ。彼女だけを残して。……今から、ほんの10年前に。
◇◆◇◆◇◆◇
友好的種である人間と平和に暮らしていた竜族 の王国 。それを一夜にして地獄に変えたのは……魔族。それもダイナース率いる、一派であった。
魔族にも色々な派閥がある。友好的な一派もいるが、この一派は魔王マーヴィンをも狙う、悪質な一派とでも認識して頂きたい。
自分たちの更なる力を得るために、最強の一族を取り込もうと強襲に出る。
人の姿をとって生活している竜族 は、平和ボケしていたために、侵入を許した。……伴侶である人間を人質に取られた竜族 。元来、優しい種族であったがために、人間を見捨てることは出来ない。
……一夜にして、一方的に滅ぼされた。
そして、子どもたちと、最後の王族の姫君は……連れ拐われ、幽閉された。高い高い塔の上に。
◇◆◇◆◇◆◇
長い間、飛ぶことをしなかった竜族 。人間と交わった竜族 。飛ぶことを知らない、薄れた血の子どもたちには逃げ出すことの出来ない牢獄。姫君は、子どもたちを棄ててまでも、一人逃げ出すことなんてできるはずがない。
見透かされたように、一人、また一人と連れていかれる子どもたち。姫君とは、然程年齢も変わらない少女たち。泣き叫んでも、助けは来ない絶望の日々。国民を守る力のまだない姫君は、あまりに無力だった。守りたいのに守れない。しかし、皆が姫君を隠した。姫君だけは、汚させまいと。
最後の一人となった姫君。そう、誰一人として魔族相手に子を成せず、産まれても竜族 の力を宿してはいなかった。
一人になっても、姫君は動けなかった。独りになった自分に何も出来るはずがない。されるがままになるしかないと。
◇◆◇◆◇◆◇
奇跡が起きたのは、魔族が彼女を連れに来たときだった。無気力になった姫君の腕を掴んだ魔族が、突然石化した。わけがわからず、固まってしまう。次の瞬間、重い一撃が魔族を砕いた。
ガッと、塔の最上階の縁に掛けられた手は、青かった。ふわりと翻りながら着地したのは───。
美しくもおぞましい魔物。全身蒼い皮膚に覆われ、足は大蛇のような風体で、頭はメデューサのような蛇が蠢く。だが、瞳だけは優しいエメラルド色をした女性。
姫君は、彼女を心底美しいと思った。無言で手を差し出される。無意識にその手を取っていた。
◇◆◇◆◇◆◇
ルクレツィア
◇◆◇◆◇◆◇
蒼い魔物が目を覚ます。虚ろな瞳は虚空を見つめる。そこには、何の気配もない。嘗ては研究所であった廃墟。何十年も前に棄てられ、今にも崩れそうだった。
彼女は全身が蒼く、大蛇のようにとぐろを巻いた下半身に、頭上は小さな蛇が無数に蠢いていた。
ラミアとメデューサの合成獣 。……彼女こそが、後のルクレツィアである。
魔物と魔物を掛け合わせ、より強い魔物を生み出す研究が数十年前まで行われていた。大半は暴走し、各地へと被害を出した。クエストにより討伐され、数はめっきり減っていた。
その存在も風化しかけた今、彼女は目覚めた。他の合成獣 とは違う目覚め。暴走することもなく、ただひたすら虚空を見つめていた。生気のない瞳で。
そんな彼女の瞳に生気が宿った。聞こえるはずもない。魂の叫びを感じ取る。
───助けなければいけない。
どこの誰かもわからない、ましてや、どこにいるかもわからないはずなのに。それでも彼女は、動き出した。ただ感じるままに、今にも崩れそうな研究所跡を飛び出した。
◇◆◇◆◇◆◇
辿り着いた場所は、深い深い森の奥。目の前には、高い高い塔が聳 え立つ。瞳に映るは、最上階。今まさに、魔族の男が、金髪の美しい少女のいる最上階に降り立った。
無意識に跳躍する。助けるべきは、あの少女だと悟ったから。
瞳で射殺すかのように、後ろから睨み付けた瞬間、魔族は石となった。勢いに任せて、下半身を動かす。先端が当たっただけで、砕け散る。跳躍しても、飛べるわけではない。落ちそうになるのを、縁に手を掛け、持ち直しながら最上階に降り立った。
金髪の美少女が彼女をビックリしたように見つめていた。恐れている様子はまったくない。無意識に手を差し伸べた。
叫びは心の叫び。連れ出してという、この少女の奥底にある願い。何故聞こえたかはわからない。それでも、この少女を守りたいという一念だけが、彼女の感情だった。
自分は何のために存在しているかもわからない。明らかに他の合成獣 とは異質の合成獣 。
差し伸べた手を少女は取ってくれた。もしかしたら待っていたのかもしれない、この時を。
少女を伴い、地面に降り立った。
◇◆◇◆◇◆◇
幽閉されし竜の姫を救ったのは、亜種の合成獣
◇◆◇◆◇◆◇
「……ありがとう。あなたはだれ? 」
そう話し掛けた少女は息を飲む。……そこには、流れるようなウェーブの蒼い髪を棚引かせた美女が立っていたのだから。肌も白く、足もあった。
変わらないのは、優しいエメラルドをした瞳のみ。
「……わからない。私は何のために造られたかもわからないの」
理性を持った合成獣 。絶滅したと思われていたラミアとメデューサの融合体。メスの多い種族同士の掛け合い。
……生き残り同士を融合し、長らえさせるためだったのかもしれない。もう誰もいない研究所には、それを確かめる術はなかった。
◇◆◇◆◇◆◇
運命の出会い。それが歯車の一端を担っているだなんて、10年経った今でもまだ思いもしないだろう。
二人に言葉はいらなかった。一人ぼっち同士、寄り添う。きっと、これからも離れることはない。
最強を誇った竜族 の姫と、その姫を守る最強の合成獣 。
二人は出会うべくして、出会ったのだ。
ラプンツェルは守れなかった同族の償いかのように、若い子どもたちに心を砕くようになった。
ルクレツィアはラプンツェルのために、少しずつ人格が出るようになった。
過去なんて感じさせないほどに明るい二人の物語もまた、始まったばかりだ───。
酒豪美女と大食漢美女の出会いのストーリー。
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二人は、最初から一緒だったわけではない。全くもって、共通点のない二人。それは、リーゼロッテとローゼリアの関係に類似するほどの。
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ラプンツェル
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彼女は、今は亡き
嘗て、
竜族は元々稀少な一族で、繁殖に優れた一族と交わらなければ、すぐに途絶えてしまうような儚い存在。どの世界でも、
しかし、
そんな中、唯一無二の美貌と才能、そして期待を背負った『姫君』が誕生した。……
そう、
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友好的種である人間と平和に暮らしていた
魔族にも色々な派閥がある。友好的な一派もいるが、この一派は魔王マーヴィンをも狙う、悪質な一派とでも認識して頂きたい。
自分たちの更なる力を得るために、最強の一族を取り込もうと強襲に出る。
人の姿をとって生活している
……一夜にして、一方的に滅ぼされた。
そして、子どもたちと、最後の王族の姫君は……連れ拐われ、幽閉された。高い高い塔の上に。
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長い間、飛ぶことをしなかった
見透かされたように、一人、また一人と連れていかれる子どもたち。姫君とは、然程年齢も変わらない少女たち。泣き叫んでも、助けは来ない絶望の日々。国民を守る力のまだない姫君は、あまりに無力だった。守りたいのに守れない。しかし、皆が姫君を隠した。姫君だけは、汚させまいと。
最後の一人となった姫君。そう、誰一人として魔族相手に子を成せず、産まれても
一人になっても、姫君は動けなかった。独りになった自分に何も出来るはずがない。されるがままになるしかないと。
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奇跡が起きたのは、魔族が彼女を連れに来たときだった。無気力になった姫君の腕を掴んだ魔族が、突然石化した。わけがわからず、固まってしまう。次の瞬間、重い一撃が魔族を砕いた。
ガッと、塔の最上階の縁に掛けられた手は、青かった。ふわりと翻りながら着地したのは───。
美しくもおぞましい魔物。全身蒼い皮膚に覆われ、足は大蛇のような風体で、頭はメデューサのような蛇が蠢く。だが、瞳だけは優しいエメラルド色をした女性。
姫君は、彼女を心底美しいと思った。無言で手を差し出される。無意識にその手を取っていた。
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ルクレツィア
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蒼い魔物が目を覚ます。虚ろな瞳は虚空を見つめる。そこには、何の気配もない。嘗ては研究所であった廃墟。何十年も前に棄てられ、今にも崩れそうだった。
彼女は全身が蒼く、大蛇のようにとぐろを巻いた下半身に、頭上は小さな蛇が無数に蠢いていた。
ラミアとメデューサの
魔物と魔物を掛け合わせ、より強い魔物を生み出す研究が数十年前まで行われていた。大半は暴走し、各地へと被害を出した。クエストにより討伐され、数はめっきり減っていた。
その存在も風化しかけた今、彼女は目覚めた。他の
そんな彼女の瞳に生気が宿った。聞こえるはずもない。魂の叫びを感じ取る。
───助けなければいけない。
どこの誰かもわからない、ましてや、どこにいるかもわからないはずなのに。それでも彼女は、動き出した。ただ感じるままに、今にも崩れそうな研究所跡を飛び出した。
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辿り着いた場所は、深い深い森の奥。目の前には、高い高い塔が
無意識に跳躍する。助けるべきは、あの少女だと悟ったから。
瞳で射殺すかのように、後ろから睨み付けた瞬間、魔族は石となった。勢いに任せて、下半身を動かす。先端が当たっただけで、砕け散る。跳躍しても、飛べるわけではない。落ちそうになるのを、縁に手を掛け、持ち直しながら最上階に降り立った。
金髪の美少女が彼女をビックリしたように見つめていた。恐れている様子はまったくない。無意識に手を差し伸べた。
叫びは心の叫び。連れ出してという、この少女の奥底にある願い。何故聞こえたかはわからない。それでも、この少女を守りたいという一念だけが、彼女の感情だった。
自分は何のために存在しているかもわからない。明らかに他の
差し伸べた手を少女は取ってくれた。もしかしたら待っていたのかもしれない、この時を。
少女を伴い、地面に降り立った。
◇◆◇◆◇◆◇
幽閉されし竜の姫を救ったのは、亜種の
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「……ありがとう。あなたはだれ? 」
そう話し掛けた少女は息を飲む。……そこには、流れるようなウェーブの蒼い髪を棚引かせた美女が立っていたのだから。肌も白く、足もあった。
変わらないのは、優しいエメラルドをした瞳のみ。
「……わからない。私は何のために造られたかもわからないの」
理性を持った
……生き残り同士を融合し、長らえさせるためだったのかもしれない。もう誰もいない研究所には、それを確かめる術はなかった。
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運命の出会い。それが歯車の一端を担っているだなんて、10年経った今でもまだ思いもしないだろう。
二人に言葉はいらなかった。一人ぼっち同士、寄り添う。きっと、これからも離れることはない。
最強を誇った
二人は出会うべくして、出会ったのだ。
ラプンツェルは守れなかった同族の償いかのように、若い子どもたちに心を砕くようになった。
ルクレツィアはラプンツェルのために、少しずつ人格が出るようになった。
過去なんて感じさせないほどに明るい二人の物語もまた、始まったばかりだ───。