第7話 来訪者
文字数 3,024文字
六月二十一日 午前六時十二分
優衣香の部屋を出て始発に乗り、久しぶりに帰って来た官舎のリビングにいる。
昨夜は相澤と飲みに行こうと約束していたが、相澤の都合でキャンセルになっていた。
夕方、優衣香に部屋に行っても良いかとメッセージを送ると、優衣香は『飲みに行くけど十一時には家にいる』と返して来て、続けて『キャンセルは出来ないからごめんね』と届いた。
長期に渡り手がけていた案件が終わり、その打ち上げだったそうだ。優衣香の機嫌が良かった理由は相手方保険会社の理不尽な要求に真っ向から挑んで、勝ったからだった。
優衣香は、『ヒノキの棒一本で魔王を倒したみたいなものだよ』と言っていた。
保険会社の社長を物理攻撃したわけではないだろうが、優衣ちゃんは武闘派だから勝てたんだろうな、優衣ちゃんはカッコイイなと思った。
俺はそんな昨夜の優衣香を思い出しながら、手のひらに乗せた鍵を見ている。
真新しい鍵だ。
優衣香は俺に合鍵を作っていてくれた。
だから早く俺の荷物を持って来いという。
幸せを噛みしめて、頬が緩む。
――裕くん、起きたのかな。
相澤の部屋のドアが開き、洗面所で蛇口をひねる音がした。
捜査員の再編で岡島直矢と飯倉和亮が入ることになり、相澤は外れた。
相澤はずっと署の少年柔道の指導をしたいと希望を出していたから、良いタイミングだとしてこっち の仕事からは外した。
須藤さんは加藤が相澤に十六年も片思いをしていたことについては知らないが、加藤と相澤の仲に何かあると感づいたから、相澤を少年柔道の指導が出来るように手配をした。それに野川里奈のメンタル面を支える為にも、相澤には時間を与えなくてはならなかったから。
――適材適所。
裕くんは若干ポンコツだから、所轄の刑事課所属のままでいた方が良い。
小学二年から署の少年柔道に通い、中学高校と柔道部だった裕くんは組織で上手く立ち回る素養が身についている。
先輩に可愛がられ、後輩には優しい。少年柔道に通う子どもにも慕われるだろう。
松永 雅志 さんのような優しい警察官になりたいです――。
採用試験の面接で俺の名を出す志望者など絶対にいない。だが、裕くんにはいつか問い合わせが来て、喜ぶ顔を俺に見せてくれるはずだ。母も兄も玲緒奈さんも俺も、その日を待っている。
「うわっ!! 松永さん!?」
「おはよー。久しぶり」
リビングのドアを開けた相澤は驚いた顔で俺を見たが、手のひらの鍵を見て、察したようだ。
「ついに笹倉さんから合鍵をもらったんですか?」
「うん」
「いいですね! 幸せそうで!」
相澤は、野川と連絡を取り合ってはいるが、まだ交際には至っていない。十歳の年齢差が相澤にとっては引っかかるそうだ。
「裕くんは? 野川とどうするの?」
「うーん、まあ、良いんですけど……」
「若いよね、二十五歳って」
「はい……」
若い女が良いと思うのは自分も若いからだ。
年齢を経ると若い女では物足りなさを感じる。
――裕くんも、そうなったんだ。
俺は元から若い女が良いと思ったことはない。女遊びしていた頃も年齢は問わなかった。だが最近は若い女が鬱陶しい。そもそも俺が相手にされなくなっただけかも知れないが。
優衣香は俺がいなくても生きていける女性だが、俺を必要としてくれる。甘えさせてくれる女性で、甘えてくれる。
そんな優衣香が俺を好きになってくれたことが嬉しい。
昨夜の優衣香は上機嫌に酔っ払い、甘えてきて、酔いが醒めて自己嫌悪して可愛かった。でも少し酒は残っていたからベッドではアツかった。
優衣香のパジャマを脱がすと俺の上に乗り、俺の顔におっぱいを近づけて、『敬ちゃんはおっぱい好きだよね』と言って、モミモミもパフパフもさせてくれた。敬ちゃんは大満足だった。
優衣香はその後俺のTシャツと短パンを脱がした。でも俺がオレンジ色でパイナップル柄のパンツを履いてたせいで優衣香は顔を手で覆って笑い始め、ムードぶち壊しでどうしようかと思ったが、敬ちゃんはパンツをさっさと脱いで優衣香にいっぱいチューしておっぱいモミモミして軌道修正した。
この前ウッキウキでブックマークしたエロ動画の体位ももちろんやった。
俺は跪座 で、優衣ちゃんが俺の首に腕を回して、スクワットポジションで俺は優衣ちゃんの尻を支えてインだ。
脚に力が入っているから感じ方が他の体位の比じゃないだろうとは想定していたが、なかなかだった。優衣香の乱れた姿がエロかった。
あれは壁に手をつかせて立ちバックと同じだ。脚に力を入れておかないと安定しないから、優衣ちゃんの中がすごい締まって動けなくて、エロ動画の男はまあまあ動いていたのに何でこうなるのかと思った。でも対面座位とは違ったあの体位を優衣ちゃんも満足していたようだから、また敬ちゃんはトライしてみようと思っている。目の前に揺れるおっぱいがあるのは幸せだったし。
俺は優衣ちゃんの顔とおっぱいが見たいからバックはしないけど、いつか立ちバックもしたいなと思った。あっ、そっか。鏡の前で立ちバックすればいいのか。敬ちゃん頭良いな。それなら優衣ちゃんの顔もおっぱいも見れるもんね。優衣ちゃんの寝室に姿見があったから、それを使って立ちバックでめくるめく愛の世界へゴ――。
「――さん、松――、松永さん!」
「んっ!? えっ、なに?」
「……コーヒー飲みます?」
「ああ、うん。でも俺が淹れるよ。支度しておいで」
「はい、すみません、ありがとうございます」
また俺は優衣香のことを思い出してバカになっていたようだが、俺は優衣ちゃんラブだから仕方ない。
優衣ちゃんは敬ちゃんラブで、敬ちゃんは優衣ちゃんラブだ。だから細かいことは気にしない。
※跪座 ……つま先を立てた正座。
◇
午前七時五分
相澤は出勤し、俺は部屋の片付けをしている。
昨夜は優衣香の部屋へ直接行ったから、まとめていた荷物はそのままだ。
俺はものを持たないようにしている。洋服と靴は仕方ないが、その他のものは捨てて来た。離婚したときも、全て捨てた。
結婚するとき、どうしても捨てられなかったものは実家に置かせてもらった。
高校二年のときに優衣香からもらった使いかけのデオドラントウォーターは、空の容器を今でも持っている。
優衣香は俺が十五歳の夏に渡したラブレターも住所と宛名しか書かれていない葉書も全て持っているのだから、俺がデオドラントウォーターの空容器を持っていても良いだろう。
段ボールにまとめた俺の荷物から、その空き容器を取り出して、眺めながら優衣香を思い出した。
――これを見せたら優衣香は驚くかな。
相変わらず休みがなくて、優衣香とデートは出来ない。優衣香だって俺と出かけたいと思っているだろう。マフラーもマッチョしかいないジムのTシャツのお礼もまだしていない。
夜遅くに来て、風呂に入って、ヤるだけ。傍から見れば二人の関係はセフレだ。
――早く、結婚しよう。俺は優衣ちゃんの家族になる。
そんなことを考えていると、ベッドに置いた仕事用のスマートフォンが鳴った。葉梨からの着信だった。
葉梨はそろそろ官舎に着くと話しているが、電話の向こうで女の叫ぶ声がした。
葉梨の声と女の声が重なる。
「もしもし! 加藤です! 山野がいます!」
「はあっ!?」
車のドアを閉める音がした。
「葉梨が行きました!」
「車、官舎に入れろ」
俺は加藤の返答を聞かずに部屋を飛び出した。
優衣香の部屋を出て始発に乗り、久しぶりに帰って来た官舎のリビングにいる。
昨夜は相澤と飲みに行こうと約束していたが、相澤の都合でキャンセルになっていた。
夕方、優衣香に部屋に行っても良いかとメッセージを送ると、優衣香は『飲みに行くけど十一時には家にいる』と返して来て、続けて『キャンセルは出来ないからごめんね』と届いた。
長期に渡り手がけていた案件が終わり、その打ち上げだったそうだ。優衣香の機嫌が良かった理由は相手方保険会社の理不尽な要求に真っ向から挑んで、勝ったからだった。
優衣香は、『ヒノキの棒一本で魔王を倒したみたいなものだよ』と言っていた。
保険会社の社長を物理攻撃したわけではないだろうが、優衣ちゃんは武闘派だから勝てたんだろうな、優衣ちゃんはカッコイイなと思った。
俺はそんな昨夜の優衣香を思い出しながら、手のひらに乗せた鍵を見ている。
真新しい鍵だ。
優衣香は俺に合鍵を作っていてくれた。
だから早く俺の荷物を持って来いという。
幸せを噛みしめて、頬が緩む。
――裕くん、起きたのかな。
相澤の部屋のドアが開き、洗面所で蛇口をひねる音がした。
捜査員の再編で岡島直矢と飯倉和亮が入ることになり、相澤は外れた。
相澤はずっと署の少年柔道の指導をしたいと希望を出していたから、良いタイミングだとして
須藤さんは加藤が相澤に十六年も片思いをしていたことについては知らないが、加藤と相澤の仲に何かあると感づいたから、相澤を少年柔道の指導が出来るように手配をした。それに野川里奈のメンタル面を支える為にも、相澤には時間を与えなくてはならなかったから。
――適材適所。
裕くんは若干ポンコツだから、所轄の刑事課所属のままでいた方が良い。
小学二年から署の少年柔道に通い、中学高校と柔道部だった裕くんは組織で上手く立ち回る素養が身についている。
先輩に可愛がられ、後輩には優しい。少年柔道に通う子どもにも慕われるだろう。
採用試験の面接で俺の名を出す志望者など絶対にいない。だが、裕くんにはいつか問い合わせが来て、喜ぶ顔を俺に見せてくれるはずだ。母も兄も玲緒奈さんも俺も、その日を待っている。
「うわっ!! 松永さん!?」
「おはよー。久しぶり」
リビングのドアを開けた相澤は驚いた顔で俺を見たが、手のひらの鍵を見て、察したようだ。
「ついに笹倉さんから合鍵をもらったんですか?」
「うん」
「いいですね! 幸せそうで!」
相澤は、野川と連絡を取り合ってはいるが、まだ交際には至っていない。十歳の年齢差が相澤にとっては引っかかるそうだ。
「裕くんは? 野川とどうするの?」
「うーん、まあ、良いんですけど……」
「若いよね、二十五歳って」
「はい……」
若い女が良いと思うのは自分も若いからだ。
年齢を経ると若い女では物足りなさを感じる。
――裕くんも、そうなったんだ。
俺は元から若い女が良いと思ったことはない。女遊びしていた頃も年齢は問わなかった。だが最近は若い女が鬱陶しい。そもそも俺が相手にされなくなっただけかも知れないが。
優衣香は俺がいなくても生きていける女性だが、俺を必要としてくれる。甘えさせてくれる女性で、甘えてくれる。
そんな優衣香が俺を好きになってくれたことが嬉しい。
昨夜の優衣香は上機嫌に酔っ払い、甘えてきて、酔いが醒めて自己嫌悪して可愛かった。でも少し酒は残っていたからベッドではアツかった。
優衣香のパジャマを脱がすと俺の上に乗り、俺の顔におっぱいを近づけて、『敬ちゃんはおっぱい好きだよね』と言って、モミモミもパフパフもさせてくれた。敬ちゃんは大満足だった。
優衣香はその後俺のTシャツと短パンを脱がした。でも俺がオレンジ色でパイナップル柄のパンツを履いてたせいで優衣香は顔を手で覆って笑い始め、ムードぶち壊しでどうしようかと思ったが、敬ちゃんはパンツをさっさと脱いで優衣香にいっぱいチューしておっぱいモミモミして軌道修正した。
この前ウッキウキでブックマークしたエロ動画の体位ももちろんやった。
俺は
脚に力が入っているから感じ方が他の体位の比じゃないだろうとは想定していたが、なかなかだった。優衣香の乱れた姿がエロかった。
あれは壁に手をつかせて立ちバックと同じだ。脚に力を入れておかないと安定しないから、優衣ちゃんの中がすごい締まって動けなくて、エロ動画の男はまあまあ動いていたのに何でこうなるのかと思った。でも対面座位とは違ったあの体位を優衣ちゃんも満足していたようだから、また敬ちゃんはトライしてみようと思っている。目の前に揺れるおっぱいがあるのは幸せだったし。
俺は優衣ちゃんの顔とおっぱいが見たいからバックはしないけど、いつか立ちバックもしたいなと思った。あっ、そっか。鏡の前で立ちバックすればいいのか。敬ちゃん頭良いな。それなら優衣ちゃんの顔もおっぱいも見れるもんね。優衣ちゃんの寝室に姿見があったから、それを使って立ちバックでめくるめく愛の世界へゴ――。
「――さん、松――、松永さん!」
「んっ!? えっ、なに?」
「……コーヒー飲みます?」
「ああ、うん。でも俺が淹れるよ。支度しておいで」
「はい、すみません、ありがとうございます」
また俺は優衣香のことを思い出してバカになっていたようだが、俺は優衣ちゃんラブだから仕方ない。
優衣ちゃんは敬ちゃんラブで、敬ちゃんは優衣ちゃんラブだ。だから細かいことは気にしない。
※
◇
午前七時五分
相澤は出勤し、俺は部屋の片付けをしている。
昨夜は優衣香の部屋へ直接行ったから、まとめていた荷物はそのままだ。
俺はものを持たないようにしている。洋服と靴は仕方ないが、その他のものは捨てて来た。離婚したときも、全て捨てた。
結婚するとき、どうしても捨てられなかったものは実家に置かせてもらった。
高校二年のときに優衣香からもらった使いかけのデオドラントウォーターは、空の容器を今でも持っている。
優衣香は俺が十五歳の夏に渡したラブレターも住所と宛名しか書かれていない葉書も全て持っているのだから、俺がデオドラントウォーターの空容器を持っていても良いだろう。
段ボールにまとめた俺の荷物から、その空き容器を取り出して、眺めながら優衣香を思い出した。
――これを見せたら優衣香は驚くかな。
相変わらず休みがなくて、優衣香とデートは出来ない。優衣香だって俺と出かけたいと思っているだろう。マフラーもマッチョしかいないジムのTシャツのお礼もまだしていない。
夜遅くに来て、風呂に入って、ヤるだけ。傍から見れば二人の関係はセフレだ。
――早く、結婚しよう。俺は優衣ちゃんの家族になる。
そんなことを考えていると、ベッドに置いた仕事用のスマートフォンが鳴った。葉梨からの着信だった。
葉梨はそろそろ官舎に着くと話しているが、電話の向こうで女の叫ぶ声がした。
葉梨の声と女の声が重なる。
「もしもし! 加藤です! 山野がいます!」
「はあっ!?」
車のドアを閉める音がした。
「葉梨が行きました!」
「車、官舎に入れろ」
俺は加藤の返答を聞かずに部屋を飛び出した。