第16話 幽霊は気のせいですか?
文字数 4,156文字
キリスト教も後からその次の日に「諸聖人の日」をかぶせてきて殉教者を覚える日にしたから、死者と関連がないわけじゃないけど……。
もし、スズが一人っきりのとき、幽霊が「このままじゃダメだ」とスズに思わせていたのでなく、スズ自身が心のどこかで「このままじゃダメだ」と思ったときに霊が現れていたんだとすれば……それはスズが心の中で自分自身に見せていたものと言えるんじゃないだろうか?
早智の場合は、自分に見えていた幽霊がスズにも見えていたことを知っている。だから、彼女の見ていた幽霊も実際そこに現れたんだろうと思っている。
けれども、先輩の場合は違う。もしかしたら口では否定しないけれど、心の中では幽霊なんて非現実的なもので、見ている人の心が見せたものだと考えているかもしれない。
見えていようが見えていまいが、正体のよくわからないものを自分が説明できる形で捉えようとしている点は変わらないよ。勝手に納得できる方を選択してるって意味ではどっちの捉え方もたいした違いはないと思う。
それを押し付けるのは誠実じゃないし、それよりは幽霊が出た結果、何が起きるのか一緒に考えた方が問題の中身も向き合い方もわかってくる気がするんだよ。
でも、今回のスズさんみたいに、幽霊が出た結果「自分は一人っきりじゃなくなる行動をしてるんだ」ってわかれば、「幽霊が出る前に人と一緒にいる行動をしてみよう」っていう考えが出てきたりする。
それでも相談してみようって思ってくれた人に「気のせいじゃないですか?」っていきなり言えないよ。その人の悩みは現実なんだ。
俺だっていつか見えちゃうかもしれないから、そのときはこういうふうに一緒に考えてくれたらなって思う方法を探しながらやってるよ。
自分が自分に見せているものなら、自分でどうにかするしかないと、人に言っても解決しないと必死に言い聞かせてきた。「気のせいだよ」「自分でどうにかするしかないよ」そう言われてしまうことを恐れてた。
スズと出会ったとき、自分の見ているものが他の人にも見えていると知って、不謹慎だとわかっているけど喜んでしまった。「この子にも見えてるんだ」「私がおかしいわけじゃないんだ」と嬉しくなってしまった。
けれど、「私も見えるよ」とは言い出せなかった。それどころかまた、見えるのは自分だけになってしまった。スズは「一人っきり」じゃなくなったけど、早智はみんなと一緒にいるとき「一人っきり」だ。
先輩はそれに対して「俺だっていつか見えちゃうかもしれないから……」と答えた。それが聞けただけで、早智には十分だったのかもしれない。
早智は黙って涙を拭いた。部長はスッと早智の隣に並んで鼻かみを出す。わかってる……きっとこの人は何で自分が泣いているのか聞いてこないし、泣いているのを無視もしない。早智は小さく「すみません」と言って鼻かみを受け取った。