見たくないのに見えちゃいます!
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でも今は暑さなんて微塵も感じていなかった。むしろ、さっきまでかいていた汗はベタベタでひんやりとした感触に変わり、首から肩の辺りには鳥肌が立っている。きっと振り返った時に見えたアレのせいだ。いったいどこからついてきたのだろう。
さっきまで教室の後ろの方にいたそれは、振り返る度、自分の背後へと近づいていた。きっと次に振り向けば目が合ってしまう。もうこれ以上は後ろを見る気になれない……。
日曜日、礼拝で一緒に遊びに行けなかった時も、元旦に初詣に行けなかった時も、「お寺でお祓いしよ」と言ってくれたのを断った時も、早智を責めてきたことは一度もなかった。
早智にとって、彼女ほど自分を理解してくれて何でも頼れる相手は他にいない。正直、自分と同じクリスチャンの中でも、彼女ほど信頼できる人は見つからなかった。
私メンタル強くないし、牧師になる覚悟は持てないよ。それに……
洗礼だって実は幽霊が見えなくなるの期待して受けたし……神様は信じてるけど、やっぱりどこか自分の利益求めちゃう気持ちの方が大きいもん。神様もきっとそれわかってるんだよ。
この大学、聖書研究サークルもあるし、朝に礼拝もやってるし、キリスト教の勉強しているうちに、幽霊追い払う方法とか、見なくて済む方法とかわかるようになるかもしれないじゃん。
面白そうな科目だって「ここにしよ」って決めてから見つかったし。ねっ……そういうのダメ?
早智には杏実が神学校の話を始めた時から、何となく同じ大学に行こうと誘ってくれるのはわかっていた。相手がどこの大学に行こうとしているのか、気になってたのは杏実だけじゃないのだ。
高校を卒業しても一緒にいたい……その気持ちは早智だって変わらない。色々それでいいのか? と思う気持ちはあるけど、回りくどい理由なんか彼女が言わなくても、早智自身が一通り自分に言い訳した後「ここに行く」と答えるつもりだった。
杏実も早智のことを何もかも分かっているわけじゃない。でもだからこそ、どこまでも自分のことを考えてくれる、自分と一緒にいたいと思ってくれる彼女の言葉は響いてしまう……。
心配なのは、クリスチャンの集まる学部に自分以外どんな人たちがやってくるかだ。話は合うだろうか? みんな熱心すぎてついていけなかったらどうしよう? 少なくとも、「私も幽霊が見えるんです」なんて人はたぶん期待できない。
神学部に行って浮いちゃったらどうしよう……そう思うからこそ、早智はなかなか「自分もこの大学の神学部行こうかな」と言い出せなかった。牧師になる決心もできてないのに入学したら、同期の学生や先生からもどう見られるかわからない……。
不安はいっぱいあった。でも、杏実の言うとおり、もしかしたら本当に幽霊が見えなくなる方法が見つかるかもしれない。それに彼女が側にいてくれたら、多少神学部で浮いたって頑張れる気がする……。